第6話 浄水をつくろう!
「よしっ! 念願の浄水器を創るぞ!」
ミリーが汚物を見るような視線を送って来る。
「うーん、せっかくだからこの村で使用する水くらいはカバーできるレベルにしたいな。一応村長ってことになってるわけだし、住民のQOL(クオリティオブライフ)を向上させることも考えねば」
ミリーが汚物を見るような視線を送って来る。
「しかしそうなるとある程度の土木工事が必要だ。けど重機なんて当然存在しないから、しばらくは魔法頼りだなぁ……」
ミリーが汚物を見るような視線を送って来る。
「……。あのさ、俺なんか悪いことした?」
「契約で女性を縛るクズめ」
ボソッとそんなことを。
「いや、ちょっと待て。俺縛ったりしてないから」
「どうだか。私が見てないところでどーせいかがわしいことをしてるんでしょ? 確かに可愛くておっぱいの大きな子でしたもんね!」
「いやいや、してないから。興味もない。だいたい結婚してないからね」
「そんなわけないでしょ? ちゃんと村長になってるじゃない」
「形式上結婚しただけだよ。エリナに好きな人ができたらその人と結婚すればいい。俺は彼女との結婚に興味ないよ」
ミリーがこちらの顔を覗き込んでくる。
「それ……、ほんっとにホント?」
「俺がこの場で嘘をつくメリットがないんだが……」
「むぅ……。まあいいわ。そういう風に対処したのね」
ミリーが小さくはにかむ。
「うん。ってかこのクエで村の管理権がもらえるのってエリナと結婚してたからなんだ。……あれ、ちょっと待てよ。このクエってチュートリアルだから、ほぼすべてのプレイヤーが受注するんだよね。ってことは――」
ちょうど噂の当人が部屋へと入って来る。
「アサヒ様、お聞きしたいことが――」
「ゾンビエリナじゃなくてビッチエリナだ!!」
「「んなっ!!?」」
その後、ミリーになぜか二回も殴られた。
*
「それで? じょうすいき? がどうのとか言ってた?」
「蛮族には傍にいてほしくないんだが……。というかミリーはいつ帰るんだよ? 何でまだいんだよ?」
「そ、それはっ! い、いいじゃない! あたしがどこで何してようと、あたしの勝手でしょ?!」
「はぁ……。まあいいけど。とりあず浄水設備と水道インフラをつくる。幸い必要なものはほとんど魔法で作れるから、問題は管理の部分だけだな」
「水なら川から汲めばいいじゃない」
「あー、でたでた。蛮族の発想だよ」
イラッ!
「そしたら蛮族ではないと自称するアサヒ様様は一体全体どのように水を手に入れるのかしらね!」
「川の上流にため池を作って簡易の浄水設備を整える。ロド村は人口が少ないから、最初は小さくていいかな。そのあとは各家庭に水道インフラを整える。農業にテコ入れをするにしても、まずは水からってね」
言っている言葉の半分も理解できなかったのか、ミリーとエリナは首を傾げていた。
「水の中ってどんなゴミがあるか知ってる?」
「え? うーん、あたしは普通に綺麗だと思ってるけど、強いて言うなら泥とか砂とか?」
「その通り。あとはまあ知らんと思うけど菌類ね。レジオネラ菌とかボツリヌス菌とか」
「れ、れじおねら??」
「さて問題です。水中の砂や泥はどうやったら取り除けるでしょうか? はい、エリナ」
いきなりエリナを指さして指名すると、彼女は驚きながらも真面目に考えてくれる。
「え? あ……、えっと、ろ過する、とかでしょうか」
「うん、まあそうだね。けど、ずっとろ過してるとすぐろ過機が目詰まりしちゃうんだ。水道インフラは大量の水を連続的に処理し続けたい。そんなときにいちいち交換が必要な機構は不向きになる。さてどうする?」
「えーっと……うーん……、しばらく待ってゴミが沈むするのを待つ、とかでしょうか?」
「おお正解! 濁った水も時間が経つとゴミは重力につられて落ちてくからね。エリナすごいね、センスあるよ。どこぞの蛮族とは大違いだ!」
イラッ!
「一体その蛮族とやらは誰の事かしらね!」
「よし! 今日はその機構を作りに行く。ため池はもう作っといたんだ」
「無視すんなや!」
三人して川の上流へと移動する。
「ここだよ」
「ため池……?」
「うん。全六層のため池だよ。露出させとくと水に悪さする馬鹿がいるかもしれないから、うまく動作するようになったらコンクリで蓋をするつもり」
コンクリで覆われているプールのようにきれいな四角い空洞が六つあり、まだ水は入っていない。
各層に浄水のための役割を持たせる予定である。
「こ、こんくり?」
「大変だったよ……。地道に土魔法で穴を掘ってはコンクリを作ってを繰り返して……」
「最近あんたがずっと出掛けてたのってそれだったのね……」
そこでエリナから声が飛ぶ。
「アサヒ様! アサヒ様は噂の創造魔法を使われたのですか!?」
「う、噂されてんだ。うん、まあそうだよ」
創造魔法。
たぶんこれは転生特典という奴であろう。
俺のみが使える特殊な魔法で、魔素を消費して任意のものを創造することができる。
「わぁ! 素晴らしいです! なんでも創れてしまうんですね!?」
そんな風に言われてしまったものだから、俺は愕然と項垂れる。
「なんでもならどんだけよかったことか……。この転生特典マジで中途半端なんだよね。なぜに作る物が俺の感覚頼りになるんだよ。職人かっつーの。この特典与えた神様ぜってぇ蛮族だぜ」
「ま、魔法を使われるんですから、感覚に頼るのは普通なのではないのですか?」
「あのさ、エリナは髪の毛の一本目と二本目を見分けられる? 人間の五感じゃどうやってもサブミリオーダーが調整の限界。ナノサイズのものなんてもってのほかだよ。これじゃ半導体がつくれねぇ!」
創造魔法は人間の認識と感覚をもってして物を創り出す。そのため、人間の五感で知覚できないようなサイズのものはつくることができない。
ネトゲをできるようにするためには半導体が山のように必要となるのだが、それらをこの魔法でつくることはできないのだ。
「は、はんどうたい??」
「そう! 半導体!」
目を輝かせる。
「ネトゲライフのために半導体製造は重要な中間地点だ! これがないとパソコンはおろか、あらゆる電子機器が作れないし、ネトゲなんて夢のまた夢! 絶対につくってみせるぞぉ!!!!」
独りで盛り上がる俺に対し、苦笑いを浮かべまいとするエリナと苦笑いを浮かべるミリー。
「あんたってなんていうか……、これと決めたら突っ込んでくタイプよね」
「いやいや、ちゃんと頭は回してるよ。猪突猛進蛮族のミリーと一緒にしないでね」
イラッ!
「蛮族言うな!」
「すまん、蛮族シャーマンだった」
イラッ!
「よし! フロック形成装置を作るぞ! 【マテリアルクリエイト】」
拳を握りしめるミリーを無視して魔法を発動させる。
すると、目の前にため池サイズの大きな
「うわぁ……。なんかすごいですね」
「さっきも言った通り、水ん中ってのはいろんなもんが入ってんだよ。んでそれらを沈殿させたいんだけど、問題は小さいゴミね。大きいゴミってはほっとけばすぐに底に沈むけど、小さいゴミは水中でずっと浮き続けるんだ。それを凝集させて落とすための装置だよ」
「このよくわからない羽で、そんなことができるのですか?」
「いや、羽根は単純に薬品の混合と塵の衝突回数を増やすためのもんかな。んじゃミリー、取り付けてくれる?」
未だに拳に怒りマークを浮かべる彼女へと話を振る。
「え゛!? なんであたしがっ!?」
「いやだって、こん中で一番力持ちじゃん。俺、身体強化魔法苦手なんだ」
「人使いが荒いわねっ! まったく、なんであたしがこんなっ……っ!」
ぶーぶー言いながら、何だかんだミリーはそれを攪拌層のくぼみにはめてくれる。
俺はその間に泥水の入った瓶を二つ取り出した。
「えっと、アサヒ様、これは……?」
「ただの泥水だよ。綺麗な川であったとしても、時間や場所によってはこれぐらい濁ることがある。けどこれ見ててね」
ミリーも戻って来て、何をやっているのかと覗き込んでくる。
「PACっていう凝集剤を入れて、後いくつか薬品を入れると、ご覧の通り」
~10分後~
「長すぎでしょ!」
「いやでもほら、こっちの瓶はゴミが全部沈んでるっしょ? 通常だと水の攪拌律速が重力による沈殿に勝ってゴミは落ちてこない」
「この薬品が重要なんでしょうか?」
「そう、PAC、ポリ塩化アルミニウムっていう。通常水中の小さなごみはマイナスに帯電しているの。だからプラスチャージを持つPACを入れると凝集する。それを高分子凝集剤でさらに凝集させればゴミは大きくなって重力につられて下に落ちる。メカニズムは超単純だよ。砂とか泥とか魚のフンとかはこれですべて除去可能なんだ」
ちなみに薬品類は今のところ俺の創造魔法頼りとなる。
「泥のないところの水をすくって飲めばいいじゃない」
ミリーがまたもそんなことを言ってきやがった。
「うわぁ……。蛮族はこれだから……」
イラッ!
「普通じゃないっ! どこが蛮族なのよっ!」
「あのね、俺は家で水を飲めるようにしたいの。川に行っている時点でそこは外」
「別にいいじゃない、ロド村は川が近いんだから」
俺はわざとらしく大きなため息をつく。
「はぁぁぁぁ……わかってないなぁ。人口が増えたらどうすんだよ。川が遠い人は? 下流で水が汚れている人は? なんで自分が水のところに行くって発想になるのかな。水が自分のところに来ればいいじゃん。ミリーの発想レベルは日本社会と一緒だよ。ぎゅうぎゅうの満員電車に長時間乗って職場に行く。家を職場にした方が断然効率いいはずなのに」
「と、途中から話がよくわかりませんでした」
「あたしもよくわかんなかったけど、とりあえずあたしが貶されてるってことだけはよくわかったわ」
各々感想を述べていく。
「まあとりあえず、残った殺菌は薬品で消毒する。あとはph調整とか濾過槽とかを適当につくって、試作をやってみるだけだな。こっからは試行錯誤が長いし、適当に帰っていいから」
そんな風に夢中になる俺に対して、顔を見合わせる二人なのであった。
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