第4話 魔素溜まり

「ね、ねぇ」


 光魔法で周囲を照らしながら、魔素溜まりをライフル片手に攻略していると、後ろからミリーが追いかけてきた。


「あ、ミリー。言っとくけど手柄は渡さないよ」

「あんたはどんだけがめついのよ……。横取りなんてしないわよ。ちゃんと逃げないか見張りに来ただけ」

「いや、逃げるわけないでしょ。せっかくの魔素溜まりが手に入って、おまけに村を好きにいじれるようになるんだよ。文明発展の第一歩だね」

「さっきから言ってたけど、その『魔素溜まり』ってなんなの?」


 あら、冒険者を長くやるミリーでも知らないのか。


「魔物を引き寄せるエネルギースポット的な。天然の魔力無限回復ポイントって言った方がわかりやすい?」

「うーん、何となくはわかるかも。でも、魔法嫌いのあんたがなんでそんな場所を欲しがるのよ?」

「そりゃあもちろん! 無限電力を手にするためだぁ!!!」


 いきなり大声をあげたものだから、ミリーがドン引きしてしまう。


「い、いきなり大声で叫ばないでよ! びっくりするじゃない!」

「すまんすまん」

「……そ、それで無限電力? ってなに?」

「んー、まあ平たく言えば発電所かな。それを各家庭や工場に電気を送って動力にする的な」

「電気なら雷魔法を使えばいいじゃない」


 キョトンとそんな言葉を送って来るミリーに毛虫でも見るかのような視線を返してしまう。


「うわぁ、でたでた。蛮族はこれだから。電気なら全部おんなじって思ってるたちだよ。ミリーは関東から関西に引っ越したらいくつか家電ぶっ壊すタイプだな絶対」


 イラッ!


「ばっ、蛮族なんかじゃないわよっ! 言っとくけど! あたしの魔法ならあんたなんかよりよっぽど強力な雷魔法が撃てるんだからねっ!」

「あーはいはい、そだねー(棒)」

「むっかつくっ。【サンダーボルト】! これの何が不満なのよっ!」


 そう言ってミリーは右手に雷弾を生成してみせる。


「ミリーさ、これ一体何アンペアあると思ってんの?」

「あ、あんぺあ?」


 虚を突かれた質問にミリーが動揺する。


「この現象自体は俺もすごいと思うよ。だって手の平の上で、目で見える量の電子の塊を留めてるんだもん。でも制御できないでしょ?」

「で、できるわよ!」

「じゃあその量もっと減らしてよ?」

「い、威力を弱めるってこと? それなら別にできるわ」


 彼女の手の上にある光が弱まる。


「いや、そういうレベルじゃなくて、見えないくらいのレベルで一定量を流し続けられる?」

「み、見えないレベルなんて、無理に決まってんじゃない! 見えないんだもん!」

「だよねぇ……。俺もそう思うわ。雷魔法は便利だけど、電力として取り出すにはあまりに不安定で制御性の乏しいエネルギーなんだよ。生活家電には使えない」

「じゃ、じゃああんたの言う魔素溜まりならそれは制御できるんでしょうね!?」

「できるさ! 魔素は本当にすごい。神が与えた万能物だよ! エネルギーにも物質にも変換できる!」

「でもそれって術者がいないとできないでしょ」


 唇尖らせてくるミリーに対し、俺はまたも毛虫を見るような視線を返す。


「はぁぁぁ……。わかってないなぁ、まったく。蛮族はこれだから……」


 イラッ!


「そ、そこまで言うんならあんたはちゃんと説明できるんでしょうね!?」

「いや、魔素を科学的にちゃんと説明することは俺もできないよ。けど、性質現象くらいは説明できる。一言でいうなら、ズバリ! 人間の五感で観測できる素粒子だね!」

「……あんたさ、詐欺師って呼ばれたことあるでしょ。悪いけど、私でも理解できる言葉で言って欲しいんですけど」

「まあ、蛮族の頭じゃ理解できないだろうね」


 イラッ!


「言っとくけど、あたしこー見えて高等教育を主席で卒業してますからねっ!」

「所詮は高校生レベルか。どおりで物理の基本もわかってないわけだ」


 イラッ!


「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ!!!!」


 ミリーが涙目になりながら、必死に歯を食いしばっていた。

 うん、ミリーは煽り耐性が皆無だ。


「すまんすまん、ちょっと言い過ぎたわ。ミリーはそうは言っても常識あるもんな。蛮族シャーマンくらいの知性はあると思うぜっ!」

「それ全然フォローになってないっ!!」


 普通に殴られた。

 やっぱ蛮族だわ。



 しばらく歩いていくと、魔素溜まりに到着する。

 思った通り周囲には魔物たちが群れているが、これを駆逐するのは簡単だ。


「さっ、掃除の時間だ」


 担いできたライフルによる攻撃を開始する。

 武器の照準性能はいまいちだし、俺自身の腕前もいまいちではあるが、それでも遠距離から一方的に攻撃できるという優位性は健在だ。


 ゲーム内だと、魔素溜まりはモンスターのポップポイントとなっており、そいつらが一定数溜まると近くの村に攻めて来るという仕様になっていた。

 ただし、周囲の魔物をすべて倒すと地域の『浄化』というものができ、これによりモンスターポップを不活性できるようになっている。


「あんたさ、冒険者やってたときになんでその武器で戦わなかったのよ?」

「いや、だから雷管のつくりがいまいちだったんだって」

「今からでもアルスに話に行こうよ。そしたら快く迎えてくれるよ?」

「別にいいよ。俺ロド村でやりたいこといっぱいあるし。そもそも冒険者向いてなさそうだし。ミリーこそ、俺なんかに構わなくていいよ。ミリーは優しいからさ、俺のこと気にかけてくれてるんでしょ?」

「そ、そんなんじゃないわよ。そうじゃなくて、あんたって意外と生活関係で役立つ道具作ってくれてたでしょ? 抜けられると困る面だってあるのよ」

「無理しなくていいって。俺が用意してたのは街で買える物ばっかだったから、あえて俺を引きとどめなくたっていいはずだよ」

「で、でも、市販品はたまに物価が変わるし、供給不足だってよくある話だわ」

「メンバーが増えて取り分が減る方がどう考えても経済的には赤字だ」

「そ、それでも――」


 言いかけたところで、彼女の口を指で塞ぐ。


「……三か月前さ、常識もなんもわかんない俺を拾ってくれたの、すっごく嬉しかった。今でも感謝してる。ミリーたちがみんな優しいのは知ってるよ。でも、俺はその優しさにばっかり甘えるわけにはいかない」


 この世界に来た頃、俺は着の身着のままに冒険者になろうとしたが、一文無しに加えてこの世界の常識がわかっていなかった俺は路頭に迷う事となった。

 そんな風に困り果てていた俺へ救いの手を差し伸べてくれたのは彼女らのパーティだ。

 その優しさは今でもちゃんと覚えている。


「なっ! なによっ、いきなり。い、今でもあんたは非常識でしょっ!」


 返答とばかりに微笑を返しておく。


「も、もぅ、不意打ちでそういうこと言ってくるんだから、アサヒはずるいよ」

「え? なんか言った?」

「何でもない!」

「あっそ。さて、攻略完了かな」


 周囲の殲滅が終わり、魔素溜まりの元である十字石碑のところへと歩いていく。


「そう言えばミリーって浄化のやり方知ってる? 俺やったことないから教えてほしいんだけど」

「何それ? 知らないんだけど」

「…………え?」

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