第3話 魔物討伐
夜になって、外で準備を整えていると、エリナがソワソワとしながらこちらを見てきた。
「えっと、ごめん、何? 気が散るんだけど」
「あ、あの……、アサヒ様は創造魔法? というのを使われるのですよね?」
「うん、そうだよ。それよりも、もう一回確認なんだけど村人は絶対に敷地外に出ないよう徹底してあるんだよね?」
「はい。全員集会場にいるよう言ってあります。今晩はそこで過ごす予定です」
よし、なら問題ないな。
「この筒は何なのでしょうか?」
「ん? 村を守るための道具かな。エリナもここから先には絶対に出ないでね」
というか彼女も集会場にいてほしいのだが。
「は、はぁ……」
「うーん。出来栄えはいまいちだけど、人間の五感を頼りにした魔法で作ると、どうやってもこれぐらいが限界だよねぇ……。せめてマイクロオーダーの調整までできればやりようが増えてくるんだけどなぁ」
エリナは「ま、まいくろ??」などとクエスチョンマークをいっぱい浮かべているが、気にしないことにする。
なんて思っていたら目の端で何か動くものを捉えた。
まだ定刻には早いはずなのに、もう魔物がやってきたのだろうか。
その者は変則飛びをしながらこちらへ近づいてくると、俺たちのすぐそばへと降り立つのだった。
「なんだミリーか。めっちゃ強い魔物でも現れたのかと思ったよ」
「あんたこそ、なに逃げる準備してんのよ?」
ジト目を送ってきた彼女は、この三か月間俺と一緒に冒険者パーティを組んでいた仲間のミリーだ。
見た目だけで言えば白銀の髪に碧眼を持つスタイルのいいお嬢さんだが、性格はだいぶ乱暴である。
「いやぁ、さすがだよミリー。盗賊職の運動能力は伊達じゃないね」
「なに呑気なこと言ってんのよ。やっぱり魔物が現れたら逃げる気だったんじゃない」
「いやいや、ミリーなみの速さの魔物なんて現れたらまずは撤退って判断するのが普通でしょ」
「あんたってやつは……。で? さっきセルムの街で聞いたわよ。ロド村の魔物問題をあんたが引き受けたんだって? 戦闘のできないあんたが、一体全体なんでそんなことしてるのよ」
「いやいや、戦えるよ。剣とか魔法をやりたくないだけだって」
「意地張んないで。三か月間あなたと一緒に冒険してきたから知ってるわ。あなた魔物とまともな戦闘なんてしたことがないでしょ。ちゃんと言ってくれればあたしも手伝うから無理しないでよ」
「……? え? つまり心配して来てくれたってこと?」
そう聞くと、ミリーの顔がリンゴよりも赤く染まってしまった。
「……っ! ち、違うわよ!」
「しかも『さっき聞いた』ってことは……、距離的にそのまま飛び出して来たって感じ?」
「そ、そうじゃないわ! アサヒのことだから相手に同情してクエストを安請け合いしちゃってたり、誰かに騙されてたりするかもしれないって思っただけよ! いっつも変なところで優しくしてくるんだからほっとけないの! それに仲間が勝手にクエストで死んだら寝覚めが悪いじゃない!」
「いや、そんな早口で言わなくとも。……まあなんにしても、俺一人でやるからいいよ。報酬が欲しいだけだし」
「で、でもアサヒは戦えないでしょ!?」
「大丈夫だって。今度はちゃんと調整済みだから」
自分の武器を取り出して見せると、ミリーはゴキブリでも見るような視線をこちらに向けてきた。
「またその鉄の杖? この前全然役に立たなかったじゃない」
実はこの武器を彼女に見せるのは、これが初めてではない。
「鉄じゃなくて炭素繊維ね。この前は雷管のつくりがいまいちだったんだよ。けど、今度はちゃんとできてるから」
ミリーが嘘だー、の顔をしてくる。
「素直にあたしのこと頼ったら? そしたら手伝ってあげなくもないわよ」
「あーでたでた。美味しい仕事だとわかった途端にすり寄って来る奴。ちゃっかり手柄を横取りとかされるんだよな。仕事でよくあったわ。ぜってーやんねーかんな」
「んなっ! そ、そんなんじゃないわよっ!」
「ほんとかぁ? まあいいけど、あ、ほら、おでましだよ」
ゴブリン型の魔物が百匹単位で森の向こうからやってくる。
さらにその背後には同数の狼型の魔物だ。
エリナの話からすると十匹、ニ十匹がいいところかと思っていたが、想定よりも少し多そうだ。
「うっ!? こ、こんな数、相手にするの!?」
「そんな……。これほどの数なんて、今までなかったのに……っ!」
ミリーとエリナが二人して息を呑む。
「撤退よ! 勝てっこないわ! いったんここを放棄して、建物の中で狭い場所を陣取るべきよ!」
移動しようとするミリーに対して、エリナの腰が抜けてしまう。
「あれ……? え? 嘘……っ!? 動けないっ!? なんで!」
自分の腰が抜けてしまったことにも気が付いていないのであろう。
エリナの気が動転してしまい、絶望を目で訴えてくる。
「なっ、こんなときにっ! アサヒ、一緒に担いで! 逃げるわよ」
「別にいいよ。逃げる必要なんてない」
「何言ってんの! こんな数、騎士団でも呼ばないと勝負にならないわ!」
「ミリーはもう帰れって。俺一人でやるから」
「意地張んないで! ロド村なんて別に見捨ててもいいじゃない! 死んだら全部おしまいなのよ!」
「エリナの前でそれ言うのかよ……」
今にも泣き出しそうな顔となる二人を横目に、持っていた武器とは別の、村の防御のために用意していたものへと手をかける。
「たかだか知性の低いゴブリンと狼だろ?」
「舐めないで! あいつらは群れて狩りをするのよ!」
「それが?」
「あんたね! 戦えないんでしょ!? 強がるのもいい加減にしなさい! 数の暴力ってのはあんたが思ってるほど恐ろしいものなのよ!」
「強がってなんかないよ。今までは自分の魔法が上手く扱えてなかっただけだって」
俺は創造魔法という特殊な魔法が使えて、自分の思い描いたものをある程度無制限に作ることができる。
だが、これを使って名刀を創り出しても、俺には剣を扱う技術がない。
「獣が群れた程度じゃ人類に勝つことは絶対にできないよ」
それは槍でも弓でも斧でも同様なわけで、この世界にある武器ではたしかに敵うことがないであろう。
ならば作るべきものは――
「獣なんかと一緒にしないで! あいつらには知恵があるわ!」
「知恵ねぇ……。なら尚更、あいつらは俺には勝てない」
「なにを……っ!」
小さく俯き、その目を見開く。
「知恵比べでは、人類が最強最悪の種族だってことを教えてあげるよ」
その瞬間、けたたまし音と共にソレが火を噴いた。
毎分360発連射。
正直なところ照準性能はいまいちだが、それでも――
ダダダダダダダダダダダッ――!!
血しぶきが舞い、臓物が散らかされていく。
腕が飛び、足が消え、頭がはじけ。
阿鼻叫喚の虐殺に、それでも規則正しい火薬の弾ける音は止まらない。
魔物たちの数にものを言わせた突撃をも圧倒するソレは、相手がどれだけ泣き喚こうと無慈悲な暴力を押し付けていく。
血の雨が降り、体はズタボロに消し飛び、動く者から順に肉塊へと変えられ。
百匹単位でいたはずの魔物はものの数十秒で駆逐されてしまうのだった。
あまりの光景にミリーもエリナも青ざめている中、やがてミリーが恐る恐る口を開いてくる。
「な、なによ……っ、これ……っ!」
「機関銃だよ。軍事史を変えた武器」
「きかん……じゅう……っ?」
「第一次世界大戦において、陣地攻撃は従来の密集突撃戦法が採られていた。その方が火力が出るからね。狼たちもその点は理解していたのかな?」
その狼たちはもはやすべてが肉と化している。
「でも、たった一丁の機関銃で旅団規模――千人規模の密集突撃をも食い止めることすらできたんだから、その威力は絶大だよ。……それでも、当時の保守的な指揮官は機関銃の威力を理解できてなくて、ニヴェル攻勢ではフランス軍が無益な突撃を繰り返して一日で十二万人もの死者を出してしまった。この武器は戦争の戦い方そのものを変えた武器だよ」
未だミリーが唖然としている中、エリナが俺の手を握って来る。
「え? な、なに?」
「す」
「す?」
「素晴らしい魔法です、アサヒ様! やはりあなた様に依頼してよかったです! 正直どうなることかと心を痛めておりましたが、これならあと半年も何とかなりそうな気がしてきました!」
そんな風にぴょんぴょんうさ耳を揺らしながら飛び跳ねていた。
「あー……。これ魔法じゃないからね。いや、機関銃をつくったのはたしかに創造魔法だけど、銃自体は科学の産物だからね。それと防衛は今日だけ。この後、魔素溜まりを攻略したらそれでもう終わりだから」
「そ、そんなっ! 魔物が出現しなくなるまで防衛するというお約束のはずです!」
「いやだから、その出所を今から叩きにいくの」
頭を掻きながら立ち上がる。
「んじゃ、俺は行ってくるから。二人は集会所で待っててね」
そう言い残して、村を出発するのだった。
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