第6話 爵位を継いだ
突然な話だが、両親が死んだ。原因は魔獣に襲われたからだとか……当然ながら俺は詳細まで知っているんだが。
マルファス先生に闇魔法を扱えるという事実を教えてから2年が経過している。つまり、俺は15歳でティエルネ侯爵家を継ぐことになった訳だ。
そうなるだろうと想定していたので、スムーズに俺が爵位を継ぐという話になったんだが……一つだけ面倒なことがある。
「エドワード様、準備が完了しました」
「あぁ……すぐに行く」
爵位を継ぐ準備は万全にできていても、リュカオン神聖王国の国王……聖王マイルズ・リカオンに謁見しなければいけないのだ。まぁ、王国貴族なんだから当たり前と言えば当たり前なんだが、俺はあの聖王という人間がどうも苦手でな。以前から父に連れられる形で謁見してはいるのだが、慣れるものじゃない。
ティエルネ侯爵領から聖都エーリスまでは魔導列車が通っているのだが、それでも数時間かかるのだから面倒なことこの上ない。そもそもリュカオン神聖王国は無駄に国土が広いので、移動に時間がかかるのだ……当然ながら辺境まで全ての統治が及んでいる訳でもないので、貴族が住んでいる場所から離れるとすぐに野盗連中が出てくるような治安だ。まぁ、この文明レベルでは仕方がないのかもしれないが。
次期侯爵家当主の移動ということで、神聖王国からもそれなりの警備兵が出されているが、俺の周囲を固めているのはティエルネ侯爵家の私兵だ。
「10分ほどで着くそうです」
「やっとか……ご苦労だったな、ゴリアテ」
「ここからが更に大変ですが」
「聖都は
両親が死んだ瞬間に、俺はゴリアテを剣術指南役からティエルネ侯爵騎士団のトップに据えた。俺が下手に指揮をするより、経験豊富なゴリアテが率いた方が得策だと考えたからだ。無論、俺だってゴリアテから剣術以外にも戦場での戦術なんかを教えてもらっていたが……俺の最大の武器は事前知識だからな。
「エドワード様、お茶のお代わりは?」
「いらん……アグネスも少し休憩しておけ」
「は、はい」
「……隣に座ればいいだろ」
「え、えぇ!?」
次期当主の隣に座るなんてとんでもないとか色々と言っているが、そもそも俺は他人のことをあんまり信用していないから、隣に座ることを許す奴なんてものすごい限られるぞ。
「エドワード様、あまりメイドに情を抱きすぎないでください」
「それはゴリアテ個人の意見か?」
「ティエルネ侯爵に仕える者としての忠言です」
「なら無視する」
「私個人の意見でしたら?」
「殴る」
言いたいことはわかる。アグネスはどこまでいってもメイドでしかなく、その血筋にも隠された素晴らしい力が、なんてことはない。侯爵がそんなメイドに心奪われていては駄目だと言いたいのだろう。だが、それでも俺は愛する女性しか抱きたくない。そんで俺はアグネスなら抱けるってだけの話だ……抱いたことないけど。
アグネスだって少なからず俺のことを想ってくれている……はず? 想ってくれてるよね? 俺の妄想だったら滅茶苦茶恥ずかしいんだけど。
「はぁ……侯爵ともあろうお方が」
「うるさい。どちらにせよ、1年もすればそんなことが言っていられる状況ではなくなるのだから、気にするな」
「……承知いたしました」
この話は何度もゴリアテにしているが……今のところ詳細を語ったことは一度もない。本当は喋った方がいいのかなとも思っているが、やはり未来の絶対に確定している訳でもないことを喋るのは……なんとなく気が引けるというものだ。いや、それすらもただのいい訳なのかもしれない。
「あの……やはり私は離れた方が」
「ここにいろ」
「え、エドワード様!?」
肩を抱き寄せたらゴリアテの顔がちょっと怖くなったけど、睨み返したら肩をすくめられた。そもそも、俺はティエルネ侯爵家の人間だからって理由だけで、好きでもない相手を嫁にする気はない。
「あー! エドワード様とアグネスがくっついてる! ずるい!」
「……フローラ、お前は最後尾に居ろと言ったはずだが?」
「でも暇なんだもん!」
「もんではない。お前の役割は最後尾の見張りだ」
おー……隊長を任されているゴリアテの顔が滅茶苦茶怖くなってる。元々王国軍隊所属なだけあって、ゴリアテは結構規律に厳しいタイプだからな。フローラがいくら俺の専属護衛であっても、今は防衛の為にゴリアテの下についているんだから言うことは聞かないとダメだよな。後、列車の中でそのクソデカイ斧を持って歩くな。
数分もすると、魔導列車が止まって聖都の中心にある巨大な駅についた。ここから王城までそこまでかかる訳ではないが……それなりの人数を連れているのでゆっくりと行こうか。
王城はいつ見ても大きいな……十年に一度ぐらいのペースで改築してるって話だけど、現王になってからは改築してないんだよな。
王城に入ってから騎士に案内されるまま進むと、玉座に座る金髪の優しそうな男性が目に入った。
「陛下。この度は拝謁の栄誉を賜り光栄です」
「そんなにかたくならなくていいと、いつも言っているんだけどね」
無茶言うな。
「……ティエルネ夫妻については」
「やはり事故死であると……どうやら移動中に魔獣に襲われたようです。ついていた護衛たちも無惨に……」
「そうか……残念だったね。それにしても、あんな街道沿いに魔獣が出るなんて」
まぁ、その魔獣はどこぞの連中が嗾けたんだけどな。理由は単純で、国境沿いに程近くにありながら、聖王家とはそれなりに仲が悪かったティエルネ侯爵家の次期当主……つまり、俺に取り入るためだ。
情のない話だが、俺としてはあの無能両親どもが死のうが知ったことではない。むしろ、殺した連中の方が俺にとって有用性が高い。近々接触してくるだろうが……それはまた今度だ。
「魔獣の方は?」
「我が弟がそれらしき魔獣を討伐したよ」
「そ、そこで俺に話を振るのか?」
聖王マイルズの隣で大人しくしていた金髪のイケメンは、話を振られて動揺した様子を見せていた。聖王マイルズ・リカオンの実弟、モーリス・リカオン。
「両親の仇を討ってくれたこと感謝します、モーリス様」
「いや……仇を討ったところで失った命が戻ってくることはない」
「それでも、です。失った命を慰めることはできます」
「そうか……そう、だな」
ここでモーリス・リカオンに俺のことを記憶してもらうことは大切だ。なにせ彼は『聖剣の小夜曲』に登場するもう一人の主人公と言っても過言ではない。ちゃんと媚び売っておこう。
そのまま小難しい話がちょこちょことあったのだが、簡単に纏めると唯一の息子である俺がティエルネ侯爵家を継いでほしいって話だ。こういうのは最初から決まった話をただするだけなのだが、形式ってのは思ったよりも大事だからな。
謁見を終え、マイルズ様と一緒に食事をして一日王城に泊ってから帰ることになるのだが……ちょっと暇な時間ができた。王城を出る訳にもいかないから、しばらく部屋でだらだらしているだけだが。
「……エドワード様は、ご両親が死去されることを知っておられたのですか?」
「なんだそれ。俺が未来予知でもできるってか?」
「いえ……ですが、それにしては準備が整いすぎていましたから」
そこに関しては否定できないが……別にいつ死ぬかまでは知らなかったからな。
「犯人は誰か知ってるぞ。言わないけど」
「やはり、人為的に起こされた事故だと?」
「それ以外にないだろ」
仮にも侯爵家の当主が通るような街道に、護衛ごと人を全滅させる魔獣が自然に出る訳ないだろ。
「俺が殺した訳じゃないが……俺を信じられないならティエルネ侯爵家から離れてもいいぞ」
「……御冗談を。騎士は主を裏切らないものです」
俺が主か……笑えるな。
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