第4話 合成魔法
「うーん……魔法を教えるのはいいけど、実践的な魔法って生活魔法とかじゃないよね?」
「戦争に使える魔法ですね」
「戦争って……物騒だね」
「物騒な世の中ですから」
「だからって戦争に使えるっていうのはなぁ」
まぁ、俺だっていきなり戦争なんて言われたらびっくりすると思う。ただ、俺は未来で戦争が起こることを知っているだけだ。
「戦争で使える魔法って言うと……大規模な戦術魔法ってことになるのかな?」
「マルファス先生との付き合いがどれくらい長くなるかはわかりませんが、最終的にはそこまで辿り着きたいとは思っていますよ」
「そっかぁ」
戦術魔法とは、その名の通り戦術規模で戦場に影響を及ぼす魔法である。戦略兵器とまではいかないが、一撃で戦場の優劣を左右させるような強大な魔法のことを指している。
ゲームでは、魔導士系の最上級職業を持ったユニットが複数人集まることで扱える範囲攻撃なのだが、人数によって扱える魔法が変わっていく性質ある。最大で5人集まって使えるものがあるのだが、その威力は「強い」の一言に尽きるものだ。たとえ敵が理不尽な強さになっている高難易度であろうとも、全く見劣りすることもない性能をしているが……そもそも高難易度の場合はそこまで育てるの方が難しい、なんて言われる。
この世界でも基本的には大魔導士が複数人集まってようやく使えるような大規模魔法なんだが、伝説には単独で使用したなんて話も残っているから、あんまりゲームシステムに囚われすぎない方がいいのかもしれない。
「戦術魔法はもっと先のこととしても、それほどまで先を考えているのなら逆に下級魔法は無視してもいいのかもしれないね」
「そうですか?」
「うん……と言っても、エドワード君がどこまで魔法を扱えるのか知らないから、それを見せてもらわないといけないけど」
「え」
前の家庭教師は下級魔法の「ファイアボール」しか教えてくれなかったぞ。しかも、そのファイアボールだって基礎理論が大切とかどうたら言ってたせいで全く先に進まなかったし。
まぁ……貰った参考書みたいな本をある程度読んでいるから他の下級魔法も扱えるし、ゲーム知識があるから本来ならば魔法技能のレベルを上げないと使用できない、中級魔法と上級魔法も知っている。
「大丈夫。使える魔法をちょっと見せてくれればいいから」
「……暴走したら止めてくださいよ」
「そんなに?」
うーむ……マルファス先生に言われては仕方がない。理論なんて全く知らないが、とにかく俺ができそうだと思う現状の最強魔法を見せよう。
息を吐いてから右手に火属性の下級魔法「ファイアボール」を、左手に風属性の下級魔法「エアカッター」をそれぞれ発動させる。あとはこれを、合成させる!
「これはっ!?」
本来ならば、火属性、水属性、風属性、地属性の魔法はそれぞれ反発しあう力が発生する。同じ魔力から生み出された属性でも、必ず反発してしまう特性があるのだが、これを少しずつ微調整することで反発を弱める技術がある。それを応用したのが、この「合成魔法」だ。
合成させたファイアボールとエアカッターを、両手から前に突き出すようにして放てば、炎の竜巻が前方に出現して中庭の芝生を滅茶苦茶にした。これが前世知識の賜物、合成魔法「フレイムストーム」だ。
「ご、合成魔法が使えるのかぁ……そっかぁ……」
まぁ、確かに合成魔法はちょっとやりすぎだったな感がある。
合成魔法はゲームでもお世話になっていたもので、魔導士系のユニットが習得している2つ属性魔法を合成させることができる。合成させることで下級魔法であろうとも相応の威力を出すことができる優れものだ。ただし、当然ながらデメリットも存在する。
「よく、3歳児で魔力が持つね」
「鍛えてますから」
ゲームで言えば、魔法の使用回数が大幅に減るということ。下級魔法であれば20回は使えるのが当たり前なんだが、合成魔法にすると10回に使用回数が減少する。下級魔法を2つ合成しているので、単純に回数は4分の1だ。
この世界で言えば、単純に下級魔法を扱うより魔力消費が4倍になると考えていい。まぁ……3歳児は普通使えないわな。上級魔法の合成なら燃費もそれなりに抑えられるんだけどね。
「合成魔法まで使えるなら基礎的な魔法はさらっとおさらいするぐらいでいいかな。ファイアボール、エアカッター、ウォーターバレット、ロックシュート」
「まぁ……そうですね」
ゲームやってると大して気にならないんだけど、銃が無い世界なのにウォーター「バレット」なんだよな。いや、元がゲームなんだから仕方ないんだけどさ。
「じゃあ中級魔法と、魔法の練度そのものの向上が目先の目標になるかな」
「わかりました。ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします」
「うん。僕も、ここまで将来有望な生徒が指導できて嬉しいよ」
魔力成長率が若者並みな人間に言われると嬉しいな。
マルファス先生に俺が指導して貰っているという事実は、既にゲームのシナリオを歪めていることになる。だってマルファス先生は、俺や主人公が将来入学する「エーリス士官学校」の教師として出てくるキャラクターだからだ。
シナリオを歪めてしまったことに対する罪悪感とかは全くないが、このまま歪めていった時になにかしらの代償を支払わなければならなくなったら、嫌だなと思う。よく小説とかで見る、歴史の修正力みたいな。
そもそも起こるかどうかもわからない未来のことを変えようとしているのに、修正力が働くのか。そんなこともわからないまま俺は、この世界で足掻いている。
「それにしても、エドワード君の魔力は独特だなぁ……何と言うか、普通の魔力よりもドロッとしてる感じ」
「それ、いいことなんですか?」
「うーん……わかんない」
わからないのかよ。
まぁ……マルファス先生が言いたいこともなんとなく理解している。俺はエドワード・ティエルネという人間が持つ特異性を知っているからだ。恐らくマルファス先生が指摘した独特な魔力というのも、そこに関係している。そして……その原因こそが俺が頭を悩ませている、主人公との敵対して死亡する理由となるのだ。
「はぁ……」
「疲れた?」
「運命を変えるって辛いですね」
「すごい哲学的なこと言ってる……いや、哲学的でもないか? わからないけど、疲れた大人みたいな顔してないで、もっと頑張ろう?」
はは……今は魔力の修行だけで頭をいっぱいにしておくか。
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