第2話 粛々たる智
空はまた黄色く厚い雲が覆い始める。嵐が来るような前兆だった。
「ブレイン様。グリーンオーシャン・コンポーネントの階堂連社長がお待ちしております。」
「5分後に話せると伝えてくれ。
「その通りに手配しております。ただいま準備中です。巨船に移動する準備が出来ております。」
「ありがとう。アルファ。」
A-4島から出ると、砂嵐が轟々と島全体を叩きつけていた。真っ暗闇の中、流砂海がうねるように鳴り響いている。魚は深く潜り揺られている。渡り鳥は羽を休めるように砂地に潜っていた。
航路を案内する者以外、島内に避難している。司令塔から指示された
「お疲れ様です。ブレイン様。連社長は290番の件について話をしたいとのことです。既に植物のほうは準備を終えています。」
船を整備する者。ブレインと会話して現状を説明する者。慌ただしい周波数信号を感じながらブレインは周りを見ながら口を開いた。
「そうか。アルファ、ベータ、ガンマのみ来てくれ」
「私はここにいます。ベータとガンマは対応中です。既に会議室にいます。」
「そうか。」
「
「いまさら連合国が足並みそろえることが出来るとは考えられない。」
「その為の種まきでしょう?」
「確かにそうだ。」
押し黙ったままブレインは会議室まで辿りついた。扉を開くと、冷たく沈黙としている生命物から映し出されたホログラム姿の階堂連が待っていた。
「久しいね、ブレイン。地球まで旅行してくれるように心変わりしたのかい?」
「呼んだのはそちらだ。私は地球にはいかない。旅行にもいかない」
連は肩をすくめた。立派なスーツを着こなす若い男が、少し悲しい笑みを浮かべている。表情が鮮明に分かるぐらい、冷たく沈黙としている生命物から映し出されるホログラムは生き生きとしていた。
「残念だ、まったく残念だよ。心変わりしたら連絡してくれよ?」
「要件はなんだ?」
「ブレインなら、いつでもV.I.P対応しよう。」
「話が無いなら終わりだ。」
手を仰いでホログラムを消そうとする。アルファが動き、ホログラムを映し出している冷たく沈黙とした生命物に手をかざそうとした。
「待ってくれ。とびきりの話がある。」
「なんだ?」
「これからの一週間後、もしくは二週間後、または三か月後付近で、地球連合国の警察がマフィアを本気で潰す可能性は高い。」
「ふむ。連は大丈夫なのか? 今、日本にいるのだろう?」
「おや? 私の心配をしてくれるのかね。ただ……そうだね。私はグリーンオーシャン・コンポーネントの社長にすぎない。それ以上でもそれ以下でもない。今は日本にいる。やっぱり来るのかい?」
「来ない。」
ブレインがきっぱり断ると連は少し笑っていた。懐から小さな機械を取り出す。手から離すと空中に浮かんだ。球体の機械は足が生えるように変形する。やがて何やら複数の人間のホログラムが映しだされた。細かい説明はボヤけて見えないが人間と吹き出しがセットで浮かび上がる。
「これは……?」
いくつかの人間と、状態が変化する
「これらは新しい人類であり、兵器だ。地球のお偉い人間たちは平凡な人類に宇宙を目指すよう示唆し、遂には宇宙と適合するプロジェクトを開始させた。」
「ふむ? 資本家が力を持つ世の中に遷移すれば、国家同士の上層部がそれら権利の拡大を許すわけがないと思うのだが。資本家と政治権力者は巨大な力を持っていようが基盤が異なる。別に仲間では無いのだぞ。」
「しかし国家は弱くなった。……いや、正確には地球内の国家権力者の権力が軽んじれらていると考えてもいい。星間国家が強くなったんだ」
機械が照らすホログラムが切り替わる。いくつかの地球内国家の名前と星間国家の名前、連合名、同盟名、世界の財閥と、今やそれらに肩を並べるようになった
「つまり地球連合国の上層部の権力が弱まり、配下にある警察を使ってマフィアを一層することで何かを得れると考えているのか。その為に本来、宇宙の生活環境改善に向けて研究されていたものが、軍事転用されて能力者が生み出されるということ……か?」
「流石だよ、ブレイン。そういうことだ。グリーンオーシャン・コンポーネントの優秀な人材も何人か流れてしまってな。試しに調べて分析させたらマフィア狩りをする可能性が高いという結果となった。」
「私への警告のつもりかい?」
「そうだ。ブレインと君が属するマフィアへの警告だよ。おせっかいだとは分かっているが、ブレインの会社にもお世話になっているからな。私は恩を返すタイプだ。」
「ふむ……ひとまず分かった。用心しよう。しかし連が言っていることは、いまいち状況が掴めない。こちらでも調べる努力をしよう。」
「あぁ、一番伝えたかったことは以上だ。後は貿易の話だが……寄生虫の生産は要らない。」
「そうだと思った。寄生虫に関しては私から後で部下のほうに伝えておこう。もう地球人はその星だけに定住したいというのが、世論なのだな? そう考えて私たちも高性能宇宙服を取引する考えだよ。グノーレ・スペース・オーパーツという会社にな。」
「ブレインの子会社だな。」
「その会社は、私その者では無い。口を慎め。」
ピリッとした空気を感じたのか、冷たく沈黙としている生命物の映すホログラムにわずかなノイズの波が入った。おそらく偶然か、常人では気付かないレベルのものだった。この場で分かったのは、およそ常人ではないアルファ、ベータのみだった。ガンマは今この瞬間すらも全て記録し、データとして保存することに全ての集中を割いていた。量子としての保存段階では僅かなノイズ現象が生じていることを認識しているが、それを人のように前頭葉を用いて認識して実感していたわけではない。メタ認知はしていないと考えられる。つまり改めて畏怖を抱き、敬意を表する対象としてルールズ・アドム・ブレインの背中を見つめていたのはアルファとベータだけだった。
「そうだったな。グノーレとグリーンオーシャン、そしてルールズ商事で貿易の分配に関しては話しておこう。組織の立場としては言えないが、私だけの立場としては抗争のときは頼ってくれよ?」
「考えておこう。即答はできない。」
「あいかわらず無粋な奴だ。」
「ふふ、そちらこそだ。
「はははっ、私が一番この宇宙の中で自由にやっているさ。」
そう言って、フッと階堂連の姿が消えた。できあがった虚無を見つめる。
少しの間の沈黙は、ガンマの労いの言葉と共に消えた。
「記録を終了しました、ブレイン様。皆様もお疲れ様です。」
「ひとまず部屋から出よう。他は何か予定はあるかい?」
目の前のドアをアルファが開く。ブレインが部屋から出ると拳を身体の後ろに隠して廊下で待機している
「本日は秋来の青哭日です。前回から3ヶ月ほどが経ちました。それと同時に傀儡の目覚めの年でもあります。儀式島まで移動しますか?」
「移動しよう。向こうの住民たちも儀式の島にいるのか?」
「もちろんでございます。念のため、植物も準備しておりました。」
複雑な巨船の廊下を移動して、多くの船が集まるフロアに辿りついた。いくつもの船が着工しては飛び立ち、その都度フロアの開口部が
内部フロアに繋がる扉と、外界へ繋がる二種類の扉が常に動いていた。その他にも船が移動できる巨大な通路や多くの扉、気圧室、電球や廊下、はたまた特定の気体を必要とする生物用の空調施設、フロアや外界を行き来する船の全ての操作が自動化されていた。おまけに一時的な操作も行える。もしもの場合はブレインが頭脳を支配しているゾロイド種が補佐として操作していた。その中でも、アルファやベータ、ガンマと呼ばれる種は最たる配下だ。他のゾロイドの上位種モデルと言ってもいい。賢く、力強く、そして
「儀式島までは20分ほど、かかります。」
「ベータ、私は少しゆっくりするよ。今日は重大な決め事をすることが多かった。」
「私が近くにおりますから……どうか安心して、ゆっくりお身体を休めてください。」
「ありがとう、そうするよ。」
席に着いて足を伸ばす。巨船から出た船は砂嵐の中を突き進み始めた。儀式島は面積で言えばメザラの中でも小さい島だ。切り立った崖、溢れて海に落ちていく砂金の滝、島の中央に大樹がそびえだつ浮遊島だった。
原住民のゾロイドから見れば聖地である。儀式島は小さい島だが、すぐ近くに4つの大きな島があり、中ぐらいの島が更に36ほど、小ぐらいの島なら1300と7つほど
いつでも絶対的に守ることはボスから命じられた三つの事。
<誰にも知られないこと>
<その星に来た部下は必ず殺すこと>
<その星から出ないこと>
それさえ守れば良く、むしろ守れないのであればマフィアとして身を置く現在が限りなく危険だ。掟を破った者がどうなるのか。それを語る者の肉体は既に臓器すら動いていないのだから。
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