傾向と対策・2

■応募にむけて


 過去、一次落ちした作品にも、面白く読めるものはたくさんあったし、最終通過したことがある人でも続けて通過できなかったことはある。

 なぜなら、一次選考は九割の作品を落とすために行うから。


 カクヨム甲子園では、応募総数二千あまりの作品を、締切の九月から十一月までの二カ月の間に読み、中間選考作品として選り分けられている。

 どれだけの人数で行っているかわからないが、一人で三十作品を読むなら二十七作、五十作品なら四十五作、百作品なら九十作は落とす計算になる。

 一般的な下読みは、じっくり読んでいる暇はないので、小説の体をなしていないものをどんどん落としていく。

 カクヨム甲子園は、文章の書き方が多少おかしくても通過するものもあるため、一般より甘く、ラノベの下読みに近いと想像する。

 小説として整っているのは前提とし、(整っていないくとも、アイディアやなにかしら特化していれば通過)その先にあるものを重視しているのだろう。

 なにを重視しているのか。

 少なくとも、似た作品は求めていないことがいえる。

 誰もが思いつくテーマやジャンルに合った登場人物を考えたとき、どうしてもキャラクターまで似てしまう。結果、似たような作品ができあがり、同様の作品が多く応募されてしまう。

 一次選考では、そんな似た作品を落としていくだろう。

 


 恋愛ものは、応募作品の中で最も多いジャンルである。

 一般的な流れとしては、「出会い→深め合い→不安→トラブル→ライバル→別れ→結末」といった展開。このようなストーリー展開はわかりやすく、読者に受け入れられやすい。

 文章力さえあれば、恋愛ものの作品を書くことは比較的容易なため、応募数が多いのも当然だ。

 しかし、恋愛ものが多く存在する中で作品を目立たせるのは難しい。設定を追加するだけでは十分ではない。突き抜けた要素や読者が主人公に感情移入できる要素が必要であり、そうでなければ、一次通過は危ぶまれる。

 親友と同じ人を好きになり、恋か友情の板挟みになるといった設定は思いつきやすい。また不倫や浮気、死別、記憶喪失といった要素もよく見られる。しかし、これらの要素をうまく描写しなければ突き抜けることはできない。

 やたらとモテる主人公は、ご都合主義になりがち。登場人物の造形をうまく描き、面白いストーリーを用意しなければ、読み手は途中で飽きるだろう。

 作品を書く際、作者自身が感情移入しながら書くことが多い。二人がハッピーエンドとなることで作者は満足を得られるが、読み手が同じ気持ちを共有できない場合もありえる。作者の独りよがりになっていないか、視野が狭まっていないかを見直すことは重要だ。

 恋愛ものは、ストーリー展開が非常に重要である。読み手がトキメくような展開でなければ、選考通過は難しいだろう。

 最初の出会いはもちろん重要だが、ありきたりな出会いでは読み続ける意欲が湧かない。

 タイトルや出会いのインパクトだけでなく、どのような物語が展開されるのかを読者に想像させては、予想を裏切り、続きが気になる展開を作り出す必要がある。

 普通の出会いからはじまり、何となく過ごしていってうまく結ばれるストーリーでは、読み手の興味を引けないだろう。



 LGBTQをテーマにした作品が増えている。

 よくあるストーリーでは目立つことが難しい。

 かといって、あまりに道徳的な作品や、作者の主張を押し付ける作品も避けるべきである。小説は道徳書ではなく、読み手が自分なりの回答に至るための物語であるべきだから。

 新しい見せ方を見つけるのは難しいかもしれないが、物語に落とし込んで読み手に考えさせる書き方が常に求められる。

 いじめや親のモラハラ、貧困などはテンプレ化していると感じることもある。描写や主人公の感情の変化、見せ方が上手でも、テンプレに頼った作品は通過が難しい。新しさを感じさせるために、差別化を図る必要があるだろう。



 歴史ものは、史実を基に時代や主人公を描くため、上手に書ける人が多い印象がある。だからこそ、新しい解釈や今までにない主人公像を書く必要がある。

 淡々とした書き方をする人もいるが、盛り上がりを大切にすること。文章が上手でも、面白さが欠けてしまうので気をつけてほしい。



 ミステリー作品は、サスペンスや本格ミステリーとして作者が書いていることが多い。しかし、作者が思っているとおりに書けているかは確認が必要である。

 推理に無理がないか、ご都合主義になっていないか、二時間サスペンスドラマと似ていないかなど、様々な要素を考慮する必要がある。

 ミステリーとして無理があったりご都合主義であっても、面白いネタや見せ方、切り口があれば、SFやホラーや恋愛など異なるジャンルで用いることができるだろう。ただし、多くの読者が納得できない作品であれば、ミステリーやサスペンスとしては難しいと考える。

 歴代の受賞作中、朔(ついたち)さんの『残夏――zange――』『たんぽぽ娘』は上手に書かれていた。

 より良いものを書くためにも、読んでみてほしい。



 ミステリー作品ではよく、「冒頭で死体を転がせ」と言われる。

 物語を推進する魅力的な謎を用意することを意味するが、それだけでは物足らない。物語の展開が重要であり、主人公やその身内が狙われたり、友人が殺されたり警察に疑われたり、謎のメッセージが届いたりするなど、新たな謎を用意する必要がある。

 とくに「魅力的な大きな謎」と「先が気になる小さな謎」の両方がなければ、読者は続きを読み進めることが難しいと考える。



 作者が自作を傑作だと思っても、読者からすればご都合主義な場合が多い。そのため、書き上がった作品を他の人に読んでもらい、意見を聞くことは非常に重要である。

 気になるのは、カクヨム甲子園が本格ミステリーを求めている賞なのかどうか。カクヨム甲子園に適した内容で面白ければ、本格ミステリーだろうと薄味ミステリーだろうと通過するだろう。

 カクヨム甲子園は、どんな作品を書いて応募してもいい。

 だからといって、どんな作品でも通過できるわけではないだろう。



 カクヨム甲子園の応募作品を読んでいると、たまに文章の上手い人に出会う。これらの作者は、作家を志しているのだろう。

 文章力は書くほど上達するため、文芸部に所属していたり、独学で書いていたり、国語の成績が優れているかもしれない。

 文章力のある人が注意すべきは、ネタや視点の面白さ、展開の勢いなど、文章以外の要素にも力をつけることである。

 文書の上手い人はざらにいるため、それだけでは他の作品に見劣りしてしまう。文章以外を磨く必要がある。


 上手い文章を書ける人は、以下の特徴を持っている。

一、語彙力があり、同じ言葉が続かない

二、表現力が豊かで、地の文も書ける

三、情景描写と心情描写と人物描写が重ねて書ける


 一般の賞ならば、文章が上手い人が多く応募してくる。

 カクヨム甲子園に応募参加できるのは、同年代の高校生のみなので、全員が上手い文章を書けるわけではないが、純文学や私小説をよく書いている人は感性が異なるので目を引くほど上手い人はいる。

 上手い文章でなければ通過できないのなら、中間選考作品は純文学や私小説だらけになっているはず。

 実際はそうなっていないし、ならない。

 つまり、上手い文章よりも、完成度の高さやストーリーの面白さ、新奇性がなければ選考通過は難しいのだ。



 カクヨム甲子園には、純文学や私小説の作品も応募される。

 これらの作品は語彙力があって同じ言葉をくり返さず、表現力があり、地の文が多く書けて、情景描写と心理描写と人物描写を重ねて表現でき、独特な文章が書ける点があげられる。

 ただし、これらは最低基準であって、「主語がない」「一文を長く、短くする」「会話文と地の文が混在」「過去と現在の自分が混ざり、文体も異なる」「会話の鍵カッコをなくしたり、心情描写をなくす、視覚情報を書かない、直喩を避けて隠喩を用いるなど、書くときに縛りや制限を設ける」「それとは逆に特定の表現や描写を濃くする」など、文章技術が求められる。

 カクヨム甲子園でも、文章技術を用いて書かれた作品を応募されることがある。そうした人は、純文学を志望しているかもしれないし、少女系や乙女系、ハイファイタジーやミステリーなど、自分が

書きたいジャンルを明確にもって日々、書いているのかもしれない。

 ただし、出来のいい作文のような作品も応募されたこともある。

 そうした作品は、読みごたえがすばらしいときもあり、

大事なのは内容に合った書き方や表現ができているかだ。

 こなれた文章も大事だし、等身大の作者を感じられる文章も、カクヨム甲子園に適しているかもしれない。

 作品の内容にあった書き方、表現が大切だと考える。



 一次通過をするには、次の要素が必要と考える。


一、最後まで書き切る文章力

 文法や表現の正確さに気を配り、読みやすく魅力的な文章を作る。

二、ユニークさ

 面白く独自の着眼点や世界観を持つこと。自身の強みや特色を活かし、他の人に書けない作品を作る。

三、読後感

 ネタやストーリー、キャラクターなど、読後に残るような作品を目指す。続きが気になるような結末や、読んだ人を引き込む展開を考えると良い。 


 強みとなるものが二つ三つ書けていれば、一次通過できると考える。


 作者は、自分の欠点に気づきにくいもの。改善点をみつけるためにも、誰かに読んで意見をもらうことが重要である。

 批判的な意見をもらうと立ち直れなくなるため、心を折らない言い方でアドバイスをする読み手を見つけ、一次通過できるよう励まれることを願う。

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