『キャンプ』をカジってとんだ趣味イナゴな僕は⑪
【前回のあらすじ】
サバゲもどきにて渓流に転落した俺ことアキシマこと筆者。森田への恨みはいずれ晴らすとして、ずぶ濡れになったジーンズに困り果てた。
自然乾燥は無理とみた。俺は岩の横で火を焚き、熱した岩にジーンズを貼り付ける天才的奇行に出る。これは乾くだろ。
しかしなんだかウマくいきそうな気がしたところで、雨が本降りに。
中断やむなし。
テントに潜り込んだ三人は揃って、昼から眠りこけたのだった。
グースカ寝ていた俺達三人だが、ほぼ同じころ目を覚ました。空腹がアラームとして機能したのだ。
ぐあぁ。腹がすごく減った! 腹に差し込むような空腹感。胃痛レベルだ。
とくに筋肉ダルマの大屋は辛そうだ。ツマミ代わりのナッツやらボリボリ食っている。ノド渇くぞ。
日が落ちかかっている。時刻を確認すると、なんと17時を過ぎていた。ゆうに3時間以上寝てる。雨でやることも出来ることも無かったとはいえ、
(やっちまったなぁ)
みたいな空気が流れた。ホント寝すぎた。
ともかく当面の問題はメシだ。食わなければ。
我々の主食は、乾麺もしくはレトルトご飯という清貧さだ。つまり熱湯なくしては始まらない。という事は、熱源が無くては始まらない。
そしてガスバーナーを持参していない。
全員が思っていた。
『誰か持ってくるかもな……持ってくるだろう』
結果として、誰も持ってこなかった。絶対に冬山とかに行ってはいけないタイプのパーティである。まず遭難する。
夏のキャンプでよかったよね、出たとこ勝負でなんとかなるから。
ともかく速攻で火を起こし、お湯を沸かして腹を満たしたい。腹が……減ったんだ。もう空腹感というより飢餓感だ。疲労回復にエネルギー量がまったく足りていないので、お腹が悲鳴をあげている。完全に暗くなる前になんとかしなければ。
とはいえ降雨のあとだ。すぐに火が着けば良いのだが。
「腹減ったなぁ」
「なんか食いたいなぁ」
などと我々はボヤいた。
誰かなんかしねーかな……とおそらく全員が期待してのボヤキである。しかし誰も動かない。押しつけをあきらめた我々はペンライトをポケットにぶち込んで、それぞれ散った。
薄暗いがなんとかまだ見える。
俺はまず一縷の望みを抱いて、カマドの様子を見た。例のあの……アレ。道路の排水溝。側溝にある、鉄のアミのアレ。(グレーチングと呼ぶらしいぞ!)
石の上に、あの鉄格子を橋のように渡しただけのカマドだ。
たしか『トム・ソーヤーの冒険』ではだな。
大嵐の翌朝に、トム達は焚火の底から小さな火種をなんとか発見していた。マッチもないのに、その火種をなだめすかして火を復活させていた。
しかし残念ながら俺はトムではなく、ここはミシシッピの無人島でもない。俺はカマドの中を掻きまわしたが、中心に火が残ってる部分なんか無かった。
ダメだ。ものの見事に完全に濡れ切っている。灰だ。むしろ泥だ。
俺は次に、流し場と公衆トイレの付近に向かった。
仮にも建造物だから、屋根がある。その軒下あたりに、まあまあ乾いたものが落ちているかもしれない。そういう目論見。
しかし先客がいた。森田がうろついている。
「ちょい濡れてるけど、ずいぶんマシだ」
と言う。風で吹き込んだのだろう。細かい枝や枯れ葉が落ちているのを、すでにビニール袋に収穫しはじめていた。真面目な男だ。じゃあココは任せるか。このトイレ変なニオイするし。
さて……ほかに直接、雨にぶっ叩かれていないトコってあるかな。俺は考えた。あっても樹木の足元くらい?
森田にならって俺もビニール袋を取ってきた。そして、木の足元あたりから燃料としてマシっぽいのを見つくろっては袋に押し込んだ。枝ぶりの立派な木の真下はなかなか良いようだ。
しかしだんだんと気力が萎えてきた。頭がボーっとする。腹が減った。
時刻は18時に近付いている。指折り数えてみると、四時間から五時間ほど、何も口にしてない。
午前のサバゲの後に昼メシだろ。で、すぐにジーンズ石焼きに熱中だろ。そして雨が降るなりテントに避難して、そのまま寝入ってしまった。ひたすら寝てただけなのになぁ。
衣食足りて礼節を知るナドというが……最後には食が足りないと、元気は出ないのだな。
(なんかもう……またスギの葉で瞬間超火力を生み出し、この木クズを無理矢理に燃やせばイケるのではないか?)
と思えてきた。お湯さえ沸けばいいワケだし、10分も火が上がれば十分だろ。あとはスギの葉だスギの葉。俺はジーンズ石焼きの時からすっかりスギの葉信者になっている。
いろいろ考えないことにした。腹が減っているので、ごちゃごちゃ考えるとイライラする。
無心で枝を拾い、やはりスギの葉をたくさん持った。これだよこれ。あればあるほどいい。
カマドまで帰ると、大屋が戻っていた。ゴロン棒というか……丸太ほどではないが、かなり太い枝を積み重ねていた。一番太いの、人の手首ぐらいあるぞ。どうすんのそんなゴツイのばっかり。見る限り濡れてるし。
「なんでそんな……火の付きにくいヤツ集めたの」
俺が問うと、大屋は鼻で笑った。
「学がねーなぁ、お前は。もっと頭つかえ」
みたいな言葉をいきなりかましてきた。
おっ、いつかの意趣返しか? やんのか? お? 口喧嘩なら買うぞ?
とか思った俺だったが、大屋は余りにもマトモなことを言った。
「そんな木っ端を燃やしてどうする。火持ちを考えろバカ」
しかし気が立つほど腹減りの俺達にとって、あまりにも悠長ではないか!
「うるせえ。俺はすぐラーメン茹でられればいいんだ」
短命でも良いから火をおこしたい俺。対するは、しっかり焚火を組みたい大屋。二人で苛立ちに任せた不毛な口論をしてると、森田がビニール袋をパンパンにして戻ってきた。
そして不機嫌そうだった。俺達がサボってくっちゃべってると思ったらしい。いや半分当たってるが。
「何してんだよ。火を付けろよ。遊んでんなよ」
森田もめずらしく文句をかましてきた。普段わりと静かな男だけに怖い。三人とも、殺気立っている。大屋がキッチリ木を組みたがり譲らないので、イライラしながら手伝う。
あっ。これもアウトドアの醍醐味だな。よーし脱線しよ。
焚火の木の組み方。これは人それぞれに、かなり独自のこだわりがあるのではないだろうか。まず自分のお気に入りってあるよね……よね? ですよね!
慣れがあり好みがあり。状況で使い分けるよね。
ちなみに盛大に広場の真ん中にキャンプファイヤーを上げる場合、おそらく『井の字タイプ』だ。これ多分、正しい呼び方ではない。他で使わないでくださいね。俺が頭の中でそう呼んでいるだけ。ともあれコイツはイベント用だと個人的にはみなしている。
『広場でキャンプファイヤーを囲んで、みんなでレクリエーションしたいです!』
団体客でキャンプ場に、そんな要望をする。
すると運営がドンと用意してくれるのは大抵、この井の字組みの立派な奴だ。ゆえに見た目はもっとも有名なのではなかろうか。
真上から見ると、井戸の〝井〟の字になる。
そのように互い違いに木で桁を組んでいく。まるで積木だ。角材のようなシッカリとした長さで、太さが一定でないと安定して組めない。組み上がると、とってもハデに燃える。
〝井〟の字を上から見て歴然だが、交差する点が四つある。つまり、メインの燃焼点が四つもある。この四点が同時に燃える。火柱が高くあがり美しい。お祭り感がある。
ただすごく風の影響を受ける。一方からしばらく風が吹くと、そちらからガンガン早まって燃えてしまう。でどうなるかというと、ガラーン! と崩れる。
祭りはさらに盛り上がる。火の粉がハデに舞う。テンション上がる。
ただまぁ……ソロか数人のキャンプでこれやる人は……いないんじゃないか。居るかな。いたら相当のこだわりだと思う。
そもそも組むのが大変だ。現地調達で手に入る燃料は大小も長短もさまざまだ。それをジェンガみたいに組むのすごく大変そうだな。ホームセンター等で市販の薪を買っても、長さはさほどない。
何より盛大に燃えすぎる。見て楽しむにはいいが、すぐ燃え尽きる。
あとは簡易かつ実用的なのが、太めの横木に直角に何本も立てかける組み方だろうか。
〝冊〟の字が、上から見た図示に近い。立てかけて交差してるトコを燃やす。
積み上げないので長持ちするし、燃焼点が幅広いので安定して暖かい。
まあ僕のようなナンチャッテはそもそも、寒い時期にキャンプに行かない。そういうマゾい趣味……いや、自分への厳しさとかない。あまり縁がない焚き方だ。なにより、なんか面白み感じないんだよな。きっとコレがシンプルにしてベストなんだけど。安定してる。
例えば、浅いくぼみしかなくさらに風が強くて困る……なんて状況なら、この横木立てかけを選ぶだろう。背が低いから横風に強い。
俺個人のお気に入りはもう、ほぼ手順が決まっている。
まず真ん中にドスンとなるべく太いのを置く。丸太ぐらいあっても湿気ていてもいい。コイツは他の枝の立てかけを兼ね、しばらくすると全体にコンガリして粘着力のある火種になる。まずは居てくれればオーケー。
ひとまず丸太様、と呼ぼう。
次は焚き付けと細かい枝を、丸太様の周囲に詰める。あとは、なるべくバッテンにひたすら立てかけ、上からも交差させて盛っていく。ちょっと高さが出てしまう。なので周囲に石を置く。下から風が入ると過剰な火力になっちゃうので、ちょっと防風する。
……これも文字にするとなんだか面白みがないな。だが、僕は結局こんな感じに組む。
主な燃焼点は一つ。当たり前ながらド真ん中。枝の交差するポイントらへん。ただどうしても、じわじわとズレてくる。
これの良い点は、上で燃えた枝がそのまま直下に落ちて勝手に循環するところだ。いや実はそうでもないかもしれない。が、そうだと俺は信じている。もうこの信じていることが重要である。
そのため、火の中心がズレすぎたら真ん中に修正する。簡単だ。
中心をそのへんの棒でグイっと戻す。あるいは戻したい方向へ!
「上から蹴る!」
「土台か石を蹴る!」
で一発よォ。いいだろ。……などとまぁ理屈は出てくるのだが、単にこの方法が好きなんだろうね。
ちなみに森田はすごく適当で、放り込めばいいと考えてるのか何も考えてないのか、無造作に枝を折ってはぽんぽん放り込む。ライターのガスを無駄使いして、問答無用で着火する。
たまに燃やすと変なニオイがしそうな、プラが混じってそうな紙でもかまわず放り込もうとする。注意すると止める。でもまたやる。無表情で止めるし無表情でまたやろうとする。なので反省が無いのか、記憶にないのかよく分からない。
こういうやつってほんのりコワイよな。
ガタイに似合わず、大屋が一番几帳面だ。
細い枝から始め、中くらい、太い、と丹念に層を作っていく。さらにライターで焚き付けに火を付けると、うまく燃え上がるかどうか、しばらく眺めている。燃え立ちそうにないと、なぜか微調整したりわざわざ組みなおしたりする。それからまた火を付ける。で、また成り行きを見守る。
もうこのあたりで俺は見ていてじれったい。オラァって横から手を突っ込んで、ライターであちこちガンガン着火してやりたい。でも、なんかこう……窯の中の陶器を見つめる職人みたいな目して真剣にやってるので。じゃあもう気が済むまで理想を追求してくれ……みたいな気持ちにもなる。
なんなんだろうね。達成感か。計算通りに火が伸びて完成すると達成感あって、してやったり、みたいな気持ちになるのかな。そこがあいつのこだわりで楽しみなのかな。
三人はお腹がすいたまんまだけど、キリが悪いので今回はここまで!
ぜひぜひあなたの焚火スタイルやこだわりを教えてね。
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