『キャンプ』をカジってとんだ趣味イナゴな僕は⑧
【あらすじ】
段ボール調達の英雄、語り継がれるべきその男の
二泊目の夜。おかげさまで我々は超快適。
絶好調だぜぃ。
残念なことに当の英雄は一夜にして、英雄からゲロ吐きポンプマンへ評判を落としたが。まさに凋落。無常。盛者必衰。
二泊三日目、午前。今日はいつから雨が降るか分からない天気予報だ。今のところは曇ってるおかげで涼しい。が、遠出はできない。
「よっしゃ。サバゲやろうぜ!」
と俺は高らかに宣言した。キャンプ地からたいして離れずに遊べる。
「……せっかく持ってきたし、やるか」
我々は血と硝煙の幻想に、遊ぶことにした。
ただ、まず先に強く言っておく。このサバゲもどきは絶対に真似してはいけない。理由はずっと後でまとめとく。
俺は事前に、大屋と森田に訊いていた。
「エアガン持ってるか? ガスや電動はダメだぜ。ガチじゃないやつだ。エアコッキングのハンドガン」
「一応、持っている」
「そういえば実家にあるかも」
と二人とも言うので、俺は持参するように厳命。奴らも快諾した。
言い出しっぺなので弾は俺が買っていった。自然分解されるとの触れ込みのバイオBB弾。だってせっかく広いしさァ、思いっ切りバカスカ撃ってみたいじゃん。こういう機会しかないからさ。
『ガス・電動ガンはナシ!』にしたのは、俺としては理由があった。
これはこう……俺たちは3人しかいない。すると撃ち合えば、ときには一対一のタイマンになるだろう。その状況でどちらかが弾切れしたとき、連射できるガスや電動だとどうなるか。
片方があられと一方的に弾を浴びせ、片方はただただ逃げ耐えるしかない。ちょっとそれは笑えないシーンだろう。
熱中したら歯止め効かないからな、この手の遊び。
『そんなんじゃなく! もっと持っていくべき物が! お前らには他に! 山っほどあっただろうが!?』
と悶えてくれた貴方。貴方は正しい。そしてこのキャンプ編を通読してくれているありがたい読者様だ。ありがとう。むしろこのキャンプ編は最初からのほうが、短中編ぽさが増す。
まあいいんだ。んでんでね! そんでね!
なんかエアガンにはおおまかに10歳以上と18歳以上対象がある。たぶんその2種なハズ。
何が違うのかというと、当然だが威力が違う。これを表記の額面通りに読み取るなら、小学校高学年向けと成人向けの差なわけだ。つまり……少年誌ラブコメと18禁マンガ誌ぐらい違うのか?
それはその……ものすっごい差だよな。
だが、素肌に当たれば痛い。近すぎれば血マメくらい出来る。俺なんかには違いがよく分からない。
サバゲを趣味にしている人ならしっかり見分けるのだろうな。でも別にそれでいいのだ。俺達は公平なゲームをし、命中数をカウントして、勝ち負けをしっかり決めようというワケではない。
ワアワア言いながらポンポン撃ちあって遊べれば、それでよい。なのでレギュレーションやルールはどうでもよい。いくらか不公平でもOK。
もうハッキリ言って、これはサバゲかどうかが怪しい。
野蛮の極みだ。動くものを撃ちたいんだ。ヒトの形をしたものを撃ちたいんだ。じゃあいっそ合意の上で互いに、人間そのものを撃ちたい。一度はやってみてもいいんじゃないか。そういう思い付き。普段許されない、原始的な攻撃性の解放だ。
ちょっと真面目にね、時にはそういうのも大事だと思うよ。
だってさァ。
ぜってーそういう願望をヘンにコジらせた奴がさァ。街中でネコ撃ったり鳥撃ったりすんだぜ。そういうトコあるって。なので俺は、サバゲとっても肯定派である。
サバゲがダメなら、スポーツチャンバラとか剣道とか銃剣道とか短剣道とか。世の中いろいろとアウトじゃん。人格形成だとか精神修練をカンバンに掲げてればアリなのかい。あるいは歴史や伝統で、アウトとセーフが分かれるのか。そんなもんで善し悪しを判ずるのはくだらないし、非哲学的だ。
……暴論かな。いやいやそれより脱線してる。戻そう。
3人がそれぞれ、自分のオモチャをテントから引っ張り出した。外箱はもともと無いか、かさばるので持ってきてない。どれが何円で18歳以上のものだか10歳以下のものか分からない。スペックが不明。
とはいえ、それぞれのオモチャ。このモデルガンとしての見た目は紹介しておこう。
俺こと秋島の銃はグロック。
なんか刑事ドラマとかでよく見る気がする。場所がわかんなくなるぐらいタンスに眠っていた。マガジンが二つある。
これは模型屋の店主が言ったのだ。
『この予備のマガジンだけ一個ハンパに余っちゃうんで、安くするから一緒に買ってくれないか?』
俺はそういうふうに頼まれたのだ。
五百円でイイからさあ……、と手をこすって頼むので俺は哀れになって二百円に値切り、一緒に買った。
大屋のは、ベレッタ。バイオハザードシリーズでお馴染みのハンドガンだね。
森田は、デザートイーグル。見た目は一番ゴツイ。なんかどの作品でも高威力な設定のマグナムだ。実物の弾もゴツイんだ、たしか。
昨夜飲んだビールの空き缶をマトにする。それぞれ試射をおこなった。
なにせオモチャなので、しっかり
俺がグロックを空き缶に撃ってみると、狙いより右に逸れることが分かった。どうも右に寄る。それでも度合いはそこそこ一定で、クセを考えて狙えば5メートルくらい先ならまあまあ缶に命中する。
大屋が試し撃った。こいつのが一番まっすぐ飛んで命中率が良かった。
「おい俺もブレるぞコレ。あたらねえ」
大屋はそう愚痴りながら空き缶にぴしぴし当てる。ぱかぱか当てる。俺よりも2歩ほど下がって撃つ。それでも先ほどではないが、やはり全然当てる。
「なんか、お前の銃はイイヤツっぽくないか?」
「兄貴から借りてきたから。値段はよく分からん」
ふーん……お前ってなにかと兄貴だよな!
ひょっとすると大屋のだけ比較的新しかったり、ちょっと高いヤツだったりが有り得るわけだ。実際に性能が頭一つ抜けている。
で、続いて森田が試射する。これがヒドかった。可哀想なぐらい。まずまっすぐ飛ばない。ここまでは俺のグロックも似たもんだ。まあいい。
しかし銃口内が汚れてるとか、何かに引っかかってのせいだろーか。BB弾にヘンな回転がかかる。時折、変化球が射出される。クイッと曲がる。これはヒドイ。
それでも決まったクセなら良い。右にズレるか左にズレるか、定まってれば格段に狙いやすい。だが森田のエアガンは〝色んな方向〟にそれた。
左にズレたと思えば次の弾は右上、次は無惨にもナナメ下。といった気まぐれコース。よほど保管状態が悪かったのかなぁ。
みんなでちょっと白けていると、さらによくない事が判明した。
俺と大屋のエアガンには24発ほど弾を込められる。だが森田のデザートイーグルだけ、16発しか入らない。この差は何だろうか。森田のオモチャは元のモデルが大口径マグナムだ。そういう設定は大事なのかな。で、メーカーが少なめの弾数にしたりするのかな。
相当なハンデだ。こいつだけ全性能においてドへこみ状態。
「これじゃ、やりようがねーよ」
とさすがの元英雄も情けない声を出した。
「でもオマエ、本物撃ったことあんだろ。腕前でなんとかしろよ」
俺がそう言うとこの冗談は結構ダメなやつだったらしい。森田は怒りかけた。いや、なんかすまん。
あ、事務方らしいが森田は自衛官なのだ。
「いやいや、落ち着けよ。とりあえずやってみようぜ。全く勝負にならなければ、互いに銃を取り換えながら遊べばいいだろう。落ち込むなよ。そうしようぜ」
そんな感じで大屋が森田を宥めすかした。
すかさず俺も乗っかった。そーだそーだ、そうしようぜと元気付けた。美しい友情。しかしまず銃の取り換えは行われないだろう。
現に行われなかった。
まず俺は自分の優位を放棄する気は無かった。マガジンを二つ所持している。そしてマガジンに互換性はない。銃の交換はこの継戦能力の放棄を意味する。オレのオモチャなら、スペアにとりかえつつ実質48発ほど続けて撃てる。
弾をすべて込めなおすのはチマチマした作業だ。その間は無防備になるので、これは大きなアドバンテージだ。
大屋なんか自分を棚に上げやがって、
「お前だけそれは、なんかズルくねえか」
とぬかした。
いやあ、自分でもそんな気が……しなくはない。
しかし俺だって大屋のスゴイよさげな銃が恐い。言っておくけど、おまえも十分ズルイからな?
だってほら。俺の射程はよく狙って5メートル、まぐれで6メートル程度。試射を見る限り、大屋の銃は8メーター前後でもそれなりに当ててきそうだ。動くとはいえ缶よりは当てやすいだろ。
なんかすまんな、森田。
3人ではチーム決めもルールもあったものではない。合図だけを決めた。
〝鬼ごっこ式スタート〟でばらけてみよう。それぞれゆーっくり大声で三十をカウントする。数えながら、好きな方向に走る。
『さんじゅう!』
で一斉に撃ち合い解禁。バトル開始というわけだ。
BB弾を分ける。走り回ったらポロポロ落としてしまうのでポケットにまんま入れるわけにいかない。小ぶりのビニール袋に分けてから、それぞれズボンに押し込む。ガサガサと音がして、どうもあまりカッコ良くない。
カウント開始!
川の方向には遮蔽物がない。全員が斜面を駆け上がり、林の方へひた走った。それぞれ急所と肌を出さないように防護はしている。
「じゅぅーよんー!」
ぐらいのカウント中盤で、それぞれ別方向にばらけた。どうせ声に出してカウントする。おおよその位置はバレるのだが、近いのはやっぱ怖い。
「にじゅー、にぃー!」
くらい。俺は背丈のある草と樹木の多いあたりにすべり込む。このへんに居るのは知られてるが、出会いがしら無防備に撃たれはしないだろう。残りのカウントを合唱する。
意外なことに、奴ら二人も
「さーんじゅうー!」
までちゃんと声をだして数えた。さすがはどちらも元スポーツマン、フェアだな。大屋があっちのほうで。森田は、もうちょい上まで登っていったか?
ここから格好よく、林のなかで静かに狙い撃ちの応酬が始まる……わけない。多少の差はあれ、射程は互いに短い。対峙すれば泥試合は必至。
にしてもできれば相手の背後とか、不意を突いてみたいな。いっちょ驚かせたい。
俺は中腰でそろそろと歩いてみたが……これは現実で、ゲームではなかった。足音はぐしゃぐしゃ鳴る。普通のスニーカーでステルスは無理だな。
ただただなんとなく、森田と大屋の方向を推測する。左から外まわりに接近してみることにする。ド真ん中を駆け抜けるのは無謀だろう。
しかしそんな俺の策士気取りに全く関係なくチャンスが訪れた。なんかポンポンと発射音が聞こえてくる。大屋と森田が撃ち合い始めたか。
おいコレすげえラッキーじゃないか?
漁夫の利はもらった。音の方へ駆ける。見えた。ゆるい斜面の下。
俺の眼下、向かって左に森田。右に大屋。嬉しいことにやはり撃ち合っている。かがんで、息を整えながら様子を見る。
そののち、しばらく見ていて俺はドン引きした。
大屋の攻め方がスゲーえげつない。
まあ、かるーく想像してみてほしい。コッキングのエアガンは引いて空気を溜めて一発、また引いて溜めて一発。常識的なリズムでいえばだ、カチャッポン。カチャ、ポン……みたいな感じになる。
だが大屋のやつ、〝タタタン! タタン!〟くらいのリズムで撃ってる。
左手をスライドに添えたまま前後にスライドしつつ、右で銃を保持。タイミングよく引き金をひいて3連射、2連射、と繰り返す。森田は攻めまくられていた。
うわーえげつねえ。
思いだせばソレやってる奴は確かに居たよ。
小学生やらの時エアガンで遊んだら、左手でがちゃがちゃコッキングしながら右手で狙って、ひたすら連射するヤツ。
なんでこういうくだらない事に限って名前まで鮮明に覚えているんだかナゾだが、同じ学年だった阿比留くんがいっつもやってた。
スライドを子供の片手で必死に前後させながら撃つわけだ。所詮そんなのは上下にズレまくり、すべてムダに明後日の方向へ撃ちつくす。その後、みんなから手痛く反撃をうけていたもんだ。
それが可愛げってもんじゃないか。
しかし大屋は違った。ラグビーと日々の訓練で鍛え上げた、体幹と下半身。松の枝のごとく太い腕。左手でコッキングしつつも照準した右手はかすかにもブレない。
そうだ。あいつは水に浮かない筋肉ダルマだ。保持した照準のまましっかり全弾を狙い澄まし、森田の位置へ容赦なく撃ちこむ。
3発、2発。姿が見えたらまた2発。といった感じのリズム。
むやみには撃たない。これがさらにえげつない。着実に連射を刻んでいく。追い込んでいく。獲物をいたぶっているようで、何やら残酷な感じまである。
やっぱ怖えわアイツ。
森田も撃ち返す。だが手数におされる。文字通りに、一発撃てば倍が返ってくる。しかも、なんとか逃げ隠れをしながら撃ち返す。反撃はどうしても途切れ途切れだ。さらに弾の上限が16発しかないハンデがある。
大屋め、筋肉パワーでバースト射撃を実現するとは……。
森田はジリ貧だ。銃からマガジンを抜き出しては、こまめに給弾している。上から見ていたので分かった。
スゴイ。ああいうのが、負けないための戦い方っていうのかね。2個や3個ずつでBB弾を取りだす。超コマメに装填して、残弾ゼロになるのを避けている。スゴイと思うよ、この精神。牽制射撃もできなきゃ、逃げるしかないもんな。
以上はほぼ後から考えられたことだ。
(『おいおい、おイタはそこまでだぜェ、大屋!』)
とかなんとかカッコよく登場したいが不意打ちが大事。無言で半身を乗り出して、俺は大屋へ撃ちこんだ。
森田がかわいそうなので援護するワケではない。大屋の方が堂々と立って全身を晒していた。ヤツの連射はコワいが、既に相当撃っているだろう。打ち止めは近いハズ。そして俺にはスペアの
いきなり斜面の上から――といっても高さは2メートルも無いが――襲ってきた俺に、大屋は動揺したように見えた。そして近くの木陰に逃げ込んだ。ざまみろ。一応撃ち返してくる。
この俺の介入で、森田に余裕ができたようだ。攻め気味に大屋へ撃ち返しはじめた。
……と思ったら、森田はこっちに撃ってくる。
おいふざけんな。パワーバランス考えろって。今オレは大屋を狙ってるだろ。ああもう。この野郎あったまきた許さん。
隠れた大屋をあきらめ、俺は逆サイドの森田へ反撃。さすがに森田のヘロヘロ銃より俺の方が撃てば当たるので、さほど怖くない。そう思っていると右翼から、不穏な足音が聞こえた。
見ると、大屋が俺を狙える位置へ回りこもうと走っている。言わんこっちゃねぇ、俺も位置変えなきゃ。
この後だが……どうにか自分のやったことと、周りで見えた事だけしか記憶出来ていない。まず森田を追いつつ、大屋から距離をとった。ヤツは命中率が良い。離れれば離れる程いい。
だが肝心の森田をロスト。必然、追ってきた大屋との対決になる。筋肉バーストと真っ向から戦う羽目に。俺のアドバンテージは弾数なので、粛々と一対一を続けるが、キツイ。隠れつつがんばるが、正確に飛んでくる。俺はかなり被弾した。
いや。焦ってはいけない。が、ヘンだ……どうも大屋のやつ、うまいこと隙をみて全弾込めなおしたようだ。連射が何回か来たのに弾切れの気配がない。くっそぉ。
ここらのタイミングで、俺にとってありがたい事がおこった。
森田が駆け上がってきた。コイツもいったんどこかに隠れ、弾をこめてから復帰したらしい。ナイスタイミング。いけいけ。森田、おまえが行け。俺以上に接近しないと当たらないので、森田は捨て身の突撃が当たり前になってきている。
あっ。大屋に距離を詰めていく森田の背中がいい的だ。あまりに無防備すぎる。そいつをいただく!
急いで撃つ。背中にヒット。
森田が俺へ振り返った。おいおいおい、マジになるなよ。顔が般若っぽいぞ。反転して俺の方へ迫ってくる。
だが俺から見える景色では、森田の後ろにもう一人。当然だが大屋だ。森田の背後を取りつつ、我々二人を同時に狙い撃てる位置へ付こうとしている。
森田の不意を打ち、ついでにその延長線上の俺も同時にいただこうとしているな。つまり俺はふたり同時に相手するのか。マズイ。それはカンベンだ。
俺は森田を半ば無視する勢いで、
するとなんと森田はあくまで、俺に詰めてくる。おい、ここは大屋を狙ってくれると互いに助かるんだぞ。後ろを見ろマジで。畜生。
まさに混沌。もう混沌。もう字数も混沌。
とにかく切ろう。
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