『キャンプ』をカジって飛んだ趣味イナゴな僕は④

【①~③のあらすじ】

キャンプに来た消防士の大屋、自衛官の森田、会社員の秋島(ぼく)。

イノシシや釣り人の妖精などに遭遇しつつ、我々3人は野外を満喫していた。

ところが夜間の地面からの底冷えを甘く見る痛恨のミス。凍える三人。

こんなんで日本の防災と国防は大丈夫なのか?

しかし! イケメンサイコヒーロー森田君の緊急調達により、追加の段ボールを大量に入手。これでもダメなら、もうどうなっても知らんからな!

森田が昼寝したので、俺と大屋は釣りへ出かけるのだった!


……もっとネタを詰め込んでるので、もう粗すじになってる感じがしない。カツ丼とか。①からナナメ読みした方が分かりやすいし早い。この話が面白かったらご検討くださいませ。



 えー、んでだ。何はともあれ、森田が大量に段ボールを確保してくれた。このキャンプのMVPは森田でほぼ決定、まである。

 今夜は寒い思いをせず眠れるのではないか。寝てみなけりゃわからん。でもあれだけ敷き詰めても凍えるのなら、もうあきらめがつく。


 開き直ってしまうと、俺は素直に遊ぶ気になってきた。よっしゃ釣りだァ!

「その魚が釣れる〝溜まり〟ってどこだ。ホントに釣れるんだろうな」

 と、俺は大屋に聞いた。

 なお森田だが、『釣りは興味ねえ』とハナから不参加。段ボールを運んで疲れただろう。このまま寝かせておこう。

「釣れるって。少し歩くから、水飲んでおこうぜ」

 これも無計画のなせる恥ずかしさだが……。水筒はない。

 なので我々には、登ってくるときにそれぞれカバンに差したりポケットに放り込んでたペットボトル。これしか水筒の代わりが無かった。使いまわしだ。水道水を入れておく。さらに出発前に十分に水分補給しておく。

 ふふ、いやァーテンション上がるわー。それぞれ自分の釣り竿。さらに俺はミミズ満杯の袋。大屋はビニールバケツを持つ。

 

 なお大屋は、兄に連れられてその釣り場に一度来たことがあるという。釣れまくったそうだ。『ハヤが山ほど釣れる!』と聞いていた。

 だが魚の呼称というのは総じて、訳が分からないもんである。地方によって俗称がありすぎるよ。川なら、さすがにアユとイワナとヤマメくらいは区別が付く。

 メジャーだし、プレミア感があるよね。

 しかし〝ハヤ〟とだけ言われてもね……すぐシッカリは思い描けない。この手の感覚は広くあると思う。

 知らない地方のスーパーや魚屋に行くじゃん。

(なんじゃそりゃ? 聞いたことないぞ)

 みたいな名前の魚が並んでないだろうか? そういう経験ないだろうか?

 ロクに海釣りも料理もしない俺ではあるのだが。

「この……『お得! ○○切り身が本日○○円!』っていわれても……なんの切り身だコレ?」

 と思ったことあるのだが。『お得!』なのかどうか、さっぱりわからんのだが。

 逆に、違う名前だけど知ってる魚だったりするよね。


 どういう姿カタチでどういうサイズの魚が釣れまくるのか、サッパリなのだ。それにこの川の流れは速すぎ、急すぎると俺は思った。水深もあまりない。こういうところで、ウキ釣りができるもんだろうか?

 森の精・渓流釣りおじさんも、フライとフロートラインを水面に浮かせ、魚を狙っていた。川釣りでもそう呼ぶのかどうか知らないが、いわゆるトップウォーターというヤツだ。エサや疑似餌を水面に浮かせて、スーッと流すのだ。虫が流れてこないかなぁ~と上方向にも気を配っている渓流魚クンは、よっしゃもらった!

 と急上昇して食いつくわけだ。

 ……たいして我々の装備たるや。

 ウキに、針一本に、ミミズ。仕組みだけでいえばこれはもう、縄文人とかの釣り道具と変わらんレベルである。


 二人でキャンプ地から山道に出る。テクテクくだる。意外と歩いた。しばらくして大屋は、ふっと獣道に入った。水音のする方に折れていく。さらに緩い斜面を下る。

「ここがポイントだ」

 大屋は声を小さく落とし、ささやくように言った。なかなか心得ている。

 俺達は、ここでは異物だ。声も足音も、魚にとって滅多に聞かない異常な音だ。警戒されるに決まっている。というのが今も俺の考えなのだが――効果のほどはぶっちゃけ知らない。でも堤防で糸たらしてる人の横でさわいだら、イヤそうな顔するじゃん。釣りといえばノンビリした印象だが、とどのつまり〝狩り〟だからな。雰囲気だしていこうぜ。


 そのポイントだが、俺は驚いた。なんと堰がある。

 小さいが、コンクリで作られた立派な堰だ。水門も何もないただのコンクリート。手をかければエイっと、脇からよじ登れてしまいそうな小さなモノだ。ガクッと真ん中がへこんでいて、そこからチョロチョロと水が垂れている。

 だが、まとまった雨が降れば、すさまじい激流を吐き出すだろう。そいつは川底をえぐるだろう。水流、川底を穿つ。

 その証拠に、堰の下はまさに〝溜まり〟というべき、深く暗い緑色を湛えていた。水面も穏やか。深いぞ。これは、かなり深いかもしれん。

 それはともかく、俺はついつい。

「なぁーんだ、土木工事ちゃんと来てるじゃねーか」

 とぼやいた。

 でも当たり前だよね。ここ日本だし、さらに上流には、水道やらトイレやらあるんだし。しっかしコレ、重機だのトラックだのやってきて、小さめとはいえコンクリ型枠を組んで、工事したわけだよなァ。そん時の道や人間の痕跡はどこに行ったんだろ。


 この堰はそれなりに古いのかな。でもなんか、儚いもんだよなァ。

 だってここまで工事に来たんだぜ。俺はコンクリのことをよく知らない。どう施工したか知らない。それでも低山の裾野とはいえ、少なくとも人員と資材がここまで登って来たわけだ。この程度の場所にヘリは使わないだろう。簡易レール敷いたのかな。それとも当時は、未舗装ながら車道があったのかもしれない。

 そんでさ。ココで会社のみんなで作業してさ。汗かいて、楽しく昼メシ食ったりしたんだろ。なんか青春じゃね? ここホント遠いよなーって。グチいったりバカ話したりして。廃材もゴミも出たろう。いや出ない方がいいけど。仮設トイレとか置いたのかな。

 そうやって人間がこの堰を築きました、と。その土木工事の痕跡もろもろは何年だか十何年だか……二、三十年もあり得るか。

 ともかく、風雨と水流と森林とがキレイサッパリ流し去り、飲み込んでしまったわけだ。なにやら儚いのだ。


 あ、よく考えたら、その後も釣り人は来てるか。大屋自身が兄と来ているくらいだ。でもやっぱりゴミやら糸やらの痕跡は無い。皆さまマナーが良くて素晴らしいことである。


 さっそくミミズを餌に釣りを始めた。

 俺は、いわゆる『坊主』で終わるのが、とても嫌いだ。釣れない時間を楽しんだとか、贅沢な時間とか色々いうけどさ……。やっぱナニカは釣れた方がいいだろ! 確かにつれない時なりの感動はあると思う。本音だとも思う。

 だが……正直に言え! なんでもいいから、何か釣れては欲しかったはずだ!

 俺は、やっぱり魚を見て帰りたいタイプである。卑怯くさい手法を使ってでも、外道でも、一匹は釣って帰りたい。例を挙げると、海でキスやアジが釣れなければ近くの護岸の隙間に糸を突っ込むなどして、ハゼ一匹だけでも釣る。手で糸ひっぱって。

 ……他の例は、別の機会に語ろう。


 そんな心配をする間もなくアタリがあった。なんとなく……でアワせ引き寄せてから引っこ抜く。リールがない釣り竿を使うのは初めてでハラハラしたが、無事手元にキャッチ。

 でもちっさい! すごいちっさい。9センチくらい。

「なァ大屋。これが〝ハヤ〟か?」

「おう。釣れるだろ」

「カワイイけど小さいなァ」

 こう……細身で、ヒレの位置だけ少しウグイに似ているかな。で、ちょっと黄色っぽい感じ。全身銀色キラキラではない。でも町の川魚みたいに、変なニオイがないね。やはり水が綺麗なおかげだろう。仮にもココは、渓流釣りガチ勢おじさんがウロウロする川だもんな。

 ビニールバケツに川の水を汲み、最初の釣果を放り込む。

 そこからはもう入れ食いだった。俺も大屋もざっくざっく水面からハヤを釣りまくった。

 そのうち、大屋がこの小魚を『バカハヤ』と呼びだした。

 ちょっとヒドイ。生命への冒涜を感じる。しかしあまりにもこう……語感がいい。俺にも伝染した。すまんハヤ。もうね、テンションあがっちゃってるの。

「バカハヤ、バカハヤ~」

 と罵倒されながら殺戮されるハヤの身を思うと、今は同情する。

(うるせえな! 良い歳してバカバカはしゃぎやがってオメーラこそバカ!)

 と、俺がハヤなら思う。

 しかし上がっちゃったテンションはもう上がっちゃったものなのである。覆水は盆に返らないのである。俺たちはハヤを釣りまくった。俺も大屋も、大声を遠慮しなくなってきた。だってそれで釣れるんだもん。大きくて約12センチ、小さいと7センチぐらい。

 そんな我々のバカになった頭を思い切りケトバすような出来事が起こる。

「ん? ちょっと待て――」

 大屋の釣り竿が、大きくしなっている。

「どうした」

「重い……デカいかも」

 空気が変わった。俺はささやき声に戻っていた。

「オイ落ち着け、バラすなよ、絶対バラすな! ゆっくりだ」

「いま話しかけるな」

 今までなかったほどに大屋の竿は曲がり、強く揺れている。

 俺はぐっと息をつめ、黙って大屋の竿さばきを見守った。ラインはグイっと右に走り、左に走る。これだけ動くというのはそれなりのサイズでは。そう俺は思った。力ずくで引っ張れば、逃がしかねない。

 しかし大屋は、さすが伊達に大屋ではなかった。伊達に経験者でもなかった。一分か数十秒か。慎重に糸を張らず緩めず、急がずに魚を疲れさせた。そして、ついに引き抜いた。その姿を見て、俺たちは感動した。

「ヤマメだ!」

 連続する楕円の黒い紋。それを横に貫く、ほの赤い帯。型は16から18センチといったところ。


「おい、これヤマメだよな?」

「ああ、ヤマメだろ!」

 少なくとも俺から見て、図鑑でみた典型的なヤマメに一致する。すげえ。これヤマメだと思う。バカ呼ばわりまでしたハヤには申し訳ないが、やはり格が違う。

 この一尾のサイズ。何より美しさに俺達は、雷のような感動に打たれた。

「めちゃキレイだな。俺はやったぜ」

「このヤローお前やったよ。いるんだな。ココはヤマメいるんだ!」

 俺たちは鼻息2倍。静けさは3倍。真剣度百倍で再びエサをつけてはキャストした。ちくしょう、俺もあれを釣りたい。

「くっそォ、またハヤか」

 もはやハヤは外道扱い。俺たちは何度もキャストしたが、とにかくハヤが釣れてしまう。大屋も同様で、やはりハヤが食いついてしまう。

 敢えて小さいアタリを見逃したりしてみる。が、エサをもっていったり、しっかり針に食いついたりしてしまう。

「バカハヤ……どいてくれないかな」

 なんかいろいろマジですまん、ハヤ。バカ呼ばわりしまくって本当すまん。


 結局、夢中になっていたら15時が過ぎた。

 俺たちはライトを携行していないし、両手がふさがった徒歩でキャンプに引き返すことになる。登りにはひょっとしたら30分要する。退き際か。

 俺はヤマメ釣り上げへの執着を捨てきれなかった。が、何度投げてもハヤがアタるだけだ。これでは埒が明かん。

 大屋も未練タラタラだったけどさ。いいじゃんよ、オマエは一匹ヤマメ釣れたんだから。いいな~。

「うす暗い道を歩くべきでないし、メシの準備もある。余裕をもって戻るべき」

 と決まり、おとなしく退くことにした。残ったミミズをポイントに投げ込む。


(さんざん釣ってしまった。せめてこれでも食って、もっと大きく育ってくれ)


 みたいな気持ち。ハヤさん達は喜んで食うだろ、多分。御馳走を投げ込むだけ投げ込んで、大屋と俺は帰路についた。

 もう一回釣るなら、ミミズはまた掘りなおせばよろしい。


「いいよなァ……本当。ヤマメなんかヒットしちゃってさァ」

 と俺はやっかみのまま口に出した。

「俺だってここでハヤ以外が釣れたのは初めてだ。思いもしなかった」

 そう大屋が素直に言う。よく飽きなかったなソレ。スタスタとキャンプへ歩く。森田は何してんのかな。まだ寝てるかな。


 往きとさほど変わらない明るさの内に、俺たちはキャンプへ帰還した。しっかり明るいのは、あと二時間くらいかも知れない。斜面にあるキャンプ地は一気に暗くなる。森田は体でも拭いたらしい。着替えて小ざっぱりして、のんびりタバコをふかしていた。

 釣果は、ハヤ二十数匹。ヤマメが一匹。立派なもんだ。森田も興味がないなりに魚を触って面白がっていた。


「で? これどうやって食うんだ?」

 と大屋が俺に尋ねてきた。は?

「お前が調理するんじゃないのか。御兄さんと来たことあんだろうが」

 と俺は切り返した。

 しかし大屋は涼しい顔で、

「兄貴がやったから、俺はわからん」

 と……ぬけぬけと言い放った。いやいや。

「待て。俺だって川魚を調理したことなんてない」

 そう告げると、大屋は意外そうな顔をした。

「でもアキシマがこの中で一人暮らし一番長いよな。だよなぁ森田」

「多分そうだね」

 たしか大屋は実家か、そのすぐ近くに住んでいる。森田はそもそも釣りに行っていない。料理をさせるのは筋違いである。


 波乱の気配がしてきたところで文字数カウントが五千を軽く超えている。

 続くっ!

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