なんか躁鬱っぽいというか気味な、僕は(鬱編)

 ちょっと前の週末。

 やたらと長時間眠れた。僕はあまり寝つきが良くなく、また些細な事で目が覚める。


 だから、

(先週疲れてたんだな俺。しっかり回復できた。よかったよかった)

 と喜んだ。そしてしばらく遊んでるとガクッと電池が切れた。こいつぁ……。

 ちきしょう。やがったな!

「あー。めんどくさ……」

 と口に出して毒づいてしまった。


 僕はどうも、躁鬱のケがある。

 躁鬱でないのは、病気と言うほど生活を邪魔されていないから。ただでさえ気分とホルモンバランスの動きが激しい少年時代には、流石にコントロールに苦労した。だが今となっては、ぶっちゃけ躁鬱よりも、オナラすかせない体質の方がよほど病だ。生活の邪魔だ。


 もし通りすがりの神様に、

「ヘイそこの君。躁鬱か、すかせないのどっちか治してあげるけど?」

 と訊かれたら俺は迷わず、

「すかせる身体に戻してくれ!」

 と絶叫する。

 ついでに嫌味のひとつも言ってやりたいが、機嫌を損ねられてはマズイ。全てはすかせない身体をゲットしてからだ。


『それはもう、ただの自称躁鬱ではないのか?』


 というツッコミは予想されるし、言われたこともある。それでいい。そのようにみなされても不都合がない状態が理想だ。

 なんでわざわざ文章に起こすことにしたか。

 この手のアップダウンのやり繰りにはコツがある。それが誰かの役に少しでも立たないかなー、と考えた。これは人の数だけコツある。知る分にはいくつあっても困らない。知恵ほどかさばらないお役立ちツールないもんね。


 いや一応ね、医者は俺を躁鬱病だと言っていたよ。必要なら診断書も書く、などと言っていた。でも診断書……いまのとこは要らない。その、ひとえに使い道が思いつかない。なんか特典あるのか?


 今は双極性障害と言うのだねー。

 僕は躁と鬱で区別した方が、生活上都合がよい。非常に使い勝手がいい。うむ、僕は躁鬱病がイイ。その方が生きやすい。

 

 それで鬱のターンに入ったとする。

 あーまったく鬱だ、鬱なのだねェ!

 などと口に出すと優しい人達が、

「大丈夫? なにかあった? 良ければ話きこうか?」

 となりかねない。スマンなんにもない。そういうのじゃないのだ。

 ひとまず困るのは、朝の起き抜けに身体が重い。だから速攻シャワー浴びる。もしくはムダに早く目が覚めて全然眠れず、出撃時間には既にもう疲れてる。これも非常に始末が悪い。昼過ぎには油が切れてダレてくる。

 まあそれでも、動くだけマシだ!

 

 そして、オフィスで困る。

 鬱ターンは! 短期記憶力がザッコザコになるのだ‼


「部長、本社ナニ部の……えーと、イワなんとかさんから電話です」

 とか電話を転送して、机にもどる。

 走り書きのメモには『本社ハシモト』と書いてある。

 うわぁ、一文字も合ってないぞ。

 ボーっとするな、と怒られるならまだいい。ボーってなってるのは事実だからな。幸い、この程度なら怒る人が幸いにも今いない。

 あっ! ちょっと今の文見て。上の。

 ほら『幸い』って二回、書いちゃってるじゃん。短期記憶がザコザコになってる。まさに証拠がこれだ。鬱ターンで書いた文章はこの手の重複が頻発する。ときには同じ文章が数行はなれて二回ご登場する。


 おおっと。話を職場に戻す。そう、ボーっとしちゃうのは隠しようが無い。

 しかし、

(コイツやる気ないのか?)

 と思われると評価が下がり給料が下がる。それは切実に嫌だ。

 なので、普段から〝大体あってるふう〟……にしておく。半分と少しぐらい合ってるラインをキープしている。手抜きだ。

「本社ナニ部のイワヤマさんです(じつはイワタニ)」

「ナントカ商事の、例のスゴイ聞き取りにくいヒトです」

「いつものスキンヘッドから折り返しくれって電話きてました」

 とかをブレンドしておく。たまにだよ、たまに。全部にやったらそれはそれで評価が下がる。


 鬱の人けっこう根がマジメな方が多いからな。

 調子いい時から偽装しとかないと、ガチで症状がひどい時にギャップが出すぎてしまう。しかも抑鬱状態だと自責傾向に頭が走りがちなので。こういうちょっとした都度に、キッチリとダメージを受けてしまう。

 数回続くと、当日中にメンタルの態勢立て直しは困難。

 この悪循環……あると思います。


 そしてさらには。

 僕はたった今自分が何しようとしてたかすら忘れる。

 ちょっと別の事に意識が行って――たとえば通知とか時計見て――それからフリーズする。

 ボケボケのアタマで、

(えーと? 俺はつぎに、何をしようとしてたのだっけ……?)

 で、机の上やPCで立ち上がってる窓を確認する。


(ああ、そうだアレしなきゃだった!)

 と閃けばまだいい。

 いいのだが……この時、他のタスクが飛んでいることが多々ある。優先順位ガタガタ。全く安心できない。スリルが過ぎる。

 つまりこの『アレしなきゃだった』は、実は優先順位かなり低めで、後回しで良かったりする。最優先すべき事項は頭から吹っとんでいる。

 なのでボクはもう、しなきゃいけないコトをひたすら走り書く。とにかく記憶のとっかかりだけ、思いついたそばから実況で書く。フリーズした時、とりあえずコイツを全部倒していれば安心という。で、数日前のメモを見てみるとこうだ。


契 23 山中 C 1130 前物 ケーブルのアレ 操 見積 ……(続く)


 と暗号みたいな殴り書きがのこっている。ほぼチェックが入っているので完了しているのだろう。しかし意味が分からない。

「契」は契約書関係だな。思い出せる。「1130」はなんかこの時間に確認か電話とかしろ、みたいな事だったんだろう。

 が、漢字やら23やらは意味がわからん。

 あっ。この『23』、これチェック入ってねえぞ。大丈夫か俺。

 でももう、思い出せないから。知らん。これ『23日の件』だったらヤバいな。何かの締め切りか? これ書いてるの22日(金)だから。じゃあもう、足掻いても詰んでるわ。もう知らん。リカバリに全てを賭ける。


 さてこういう時に来てほしくないモノがある。

『長~い口頭指示』

 コレ。もうね、聞いたそばから忘れていくので無理。メモとらなきゃいけない。だが、それなりに手順と留意すべき事項が文章になってないと、先のメモと同じ現象……つまり自分で見返しても思い出せないという事態になる。つまりしっかりとメモる。これがまた、すごくモタモタする。

 しかも、なんでか知らんが……。

 メモった上で忘れるとするじゃん。そして訊き直しに行く。これをやると逆風がすごい。

 いやいやお前メモとってたじゃねーか! と思う気持ちは分かる。

 が、俺からしたら

(テメーはあんとき舌動かしてただけじゃねーか!)

 と言いたい。とかく世の中は理不尽である。もうこれね、ウソつこうウソ。テキトーにウソついて切り抜けよう。

「ちょっと寝不足で集中できないのでメモとらせてください」とか。

「すごい頭痛で集中できないので丁寧にメモとらせてください」とかね。


 ここで正直にだな、

「ちょっと鬱気味なので、しっかりとメモを取らせてください」

 なんて言ってみろ。


 鬱というワードに世の管理職はいまや超敏感だからな。


(あ、やばい。いまコイツに仕事を振っちゃいけないのかもしれない。負荷かかりすぎて休職とかされたらすごく困る。他の奴にたのもう。というかしばらくコイツに仕事ふらんどこ)


 ぐらいあり得るぞ。すげえ面倒くさいだろ。そのうえ仕事上の悩みは無いかとか、人間関係上手くいってるかとか言い出すぞ。面倒だろう。

 それはそれ! これはこれ!

 優しい人の優しい愛を、シカトすべき時がある。

 そもそも鬱っぽけりゃ頭痛や寝不足のひとつやふたつ、あるだろ。今頭痛してなくても5分後してるかもしれん。厳密には嘘でもなんでもない。言っとけ言っとけ。

 

 ここまで総括するとだな……。

①普段から手を抜け

②嘘ついとけ

 とヒドイ悪にみえるが、生き延びなきゃ始まらんのだ。許される許される。


 いくらでも出てくる。まとめんと終わらんな。


「自分を客観的に見ろ」

 などと他人は勝手を言う。

 そんなバカなことがあるか。メンタル不調の最も恐ろしいのは、自分の主観のレンズが歪んでいることだ。

 まず、この歪んだレンズ越しに鏡を組み立ててみろってさ。 

 さぞ歪んだ鏡が出来上がることだろう。

 んでもってさらに自分を映して、見てみろ?

 さらに歪んで見えるに決まってる。

 どれだけ他人の自己認識を歪ませる気だ。

 気のいいひとは

「そうかもしれないな……」

 と強い言葉をまんま食らってしまう。んなわけないのだよ。

 んな知ったかぶり且つ人格者ぶりっ子さんの言うことを真に受けてしまうぐらい弱っちまった人に、何をさせるんだソイツは。悪だぞソイツは。自分に酔ってるだけだ。


 そういうのは無視! 徹底無視! 悪循環が始まるだけだと思います!

 鬱はそこ頑張れ。すごく頑張れ。


 だってどうすんの。客観性を追求するの?

 

 認知行動療法でもするか。素直にゆっくり休むか。山にこもって仙人を目指すのか。神秘主義に染まって神との同一を目指すのか。どれも否定はしないな。で、それで落ち着くまで、何年かかるのかね。どうせ、保障なんぞどこにもないのだ。

 世界は手加減してくれないし待ってもくれない。

 今この時に取り出して使える武器は、自分の言葉しかない。自分自身でこねくり上げた、自分の言葉だ。手抜きもウソも、自分に言葉で許すことから始まる。

 何よりも使い慣れている道具だ。人間だからな。

 言葉のいいトコロは、口に出さなきゃどれだけ異常で歪んでいてもいい事だ。

 最も信頼できる武器は、自分の歪んだ意識で作り上げたことわりしかない。歪んでいていいのだ。歪んだ理こそ、手に馴染む武器なのだ!


 どうだ、この怒濤のペンネーム回収。すごいだろう。今思いついたんだぞ。

 テキトーだぞ。テキトーでいいんだよ、調子さがってるときは。


 躁編はまたの機会に。お楽しみに。

 いやあ、今日はすごく優しい文章を書いたな。気持ちがいい。

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