お題『眼鏡』で800字ジャストにならずもう好きに書いてエッセイに置くことにした

 いきなりだが僕は目が悪い。乱視も入ってる。

 となると眼鏡が、どうしても厚くなる。

 さらに片頭痛持ちだ。分かる人は分かってくれると思うのだが、頭が重い時は耳に眼鏡のツル乗ってるだけでイヤになる。

 ゆえに、ずっとハードコンタクトで生きて来た。そして気付いた。

(待て……。最後に買い替えたのいつだっけ)

 思い返せば約8年前だった。うわ、すげえ快適だから気にしてなかった。

 コイツはさすがにヤバい。記憶違いの可能性こみでもヤバい気がする。

 急いで最寄りのメガネチェーンに出かけた。


 実は……かなりウキウキしてる。

 ふふ、さすがに買い替える羽目になるだろうなぁ。

 新品で見る景色は、さぞかし美しいのだろうな!

 酸素透過性もスゴイ進歩してるぞきっと。

 全っ然、疲れないんだろーな!


「大事に使わわてますね」

 と検査の後、ぽつりという感じで店員のおばさんは言った。恥ずかしい。四捨五入で10年モノだもん。

 ハハ、みたいなぼかし笑いをした俺は次の一言に絶句した。

「買い替える必要ないです」

 は?

「キズもないし表面も合ってます」

 いや待て。それはないだろう。

「えっキズ全然ないんですか」

「すごくキレイですよ」

 だとしてもだ。もう俺は買う気満々なのだ。来る途中に勝手にそういう気分に仕上がってしまったんだ。

「じゃあほら、酸素を通す新商品とか。出てますよね」

「ないです」

 ええ⁉

 確かに当時で、一番高い良いヤツを買った。

 だがそれは日々付ける生活必需品だから、こればかりはイイものを、と買ったわけで。

「ほかになんかいい感じなレンズは」

「ないです」

 うそだろ。何してたコンタクト業界。攻めろ。もっと攻めろよ。開発しろ。

「いやでも流石に劣化とかしてるでしょ」

 だって数年間、太陽光浴びてるぞソレ。

「ないです。視力にも合ってます」

 じゃねえって! 

 店員だろう、お前! 

 目の前にネギしょった俺がいるんだぞ。鍋に飛び込む気マンマンで、スゴイ前傾姿勢のカモが目の前にいるんだぞ!

 押すなよ押すなよ、どころか押してほしそうなんだって。

「あっ、仕事でパソコン見るので疲れるんです」

「お客様のはUVカットするレンズですよ!」

 ダメだコイツ誠実すぎる。

 そこは言っとけよ。


『小さ~いキズがありますね~。体感は変わりませんけど念のために買い換えますか? きっと変わりませんけど』


 とかなんとか。わかんねえけど言っとけよ! もうそれでホイホイ買ったよ。

 結局、俺は完膚なきまでに敗れた。

 買い替えても変わらないのだ。これが俺に視える世界なのだ。

 よりクリアで美しい世界を夢みていた。夢だった。儚いマボロシだった。


 なおその店舗は、しばらくしてちょっと遠くに撤退した。

 もー、言わんこっちゃないんだよォ!

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