おならがすかせない、スカした僕は

 さて、僕はオナラがすかせない。


 いやまあ、そう怪訝な顔をしないでくれ。そのままの意味だ。

 まず99パーセントは、すかせないのだ。

 つまり運よくすかせるのは、百回に一回。 


 あのな。コレすっごい苦痛だぞ。ヤバいぞ。


 ふふ。第一話に書いたように、僕は書くコトには真摯でいたい。エッセイを、ノンフィクションを書くのだからな。普段カッコつけてスカしたコトばっか書いてるかもしれん僕でも、ネタになるならなんでも書く。

 それが俺自身の尊厳だからだ!

 僕のエッセイだから、僕の現実を書くんだ! 

 お、こう言うとやっぱちょっとカッコイイか? いやダメか? ……ダメだな。話題が話題だもん。あとこれね、小説で書こうとして、けっこう考えたけどもオチだけが思いつかなかった。超シンプルに悲惨で。



 あ、ちっくしょう。スカシタヤツってワードで思い出した! なんかエスニックなバーを見つけてたまに行ってたのだが、なんとそこの女店主が俺につけたニックネームが

〝花輪くん〟

 だったのだ。芸人の方じゃない。例のアニメの方だぞ。これにはさすがに、

(おふざけにも程度あるぞ、ふざけんなよこの女ァ!)

 ……と思った。ベリーショートで金が無い花輪くんが、ドコにいるんだよォ。あれか? すごい標準語だったところか? 観念的な発言が多いとかそういうトコロか? それともなんか、もう本当に気品が出ちゃってんのか?

 ぜんぜん下ネタでもしゃべくってたじゃん、俺。ま、まあせっかく頑張ってキャラ付けしてくれたんだし? みんな楽しくおしゃべりしてるし? 愛称として受け入れた。そして、もう潰れたので許す。カレーが美味しかったんだけどなー。大麻がどうとか、潜在意識がどうとか、ナンカいかにもな本ばっかり置いてあるバーだった。そのうち書こう。



 さて、いつもの脱線グセがでたところで、全力で戻すのだが!


 オナラをすかせない僕だが、生まれつきそうだった訳ではない。むしろ得意というか、基本的には安定してすかしていた。すかせる人生を送ってた。

 こんなのそうそう他人に聞けないので分からない。だが、集中してれば多くの人は大体すかせるのではないだろうか? 

 気を抜いてなければ。成功率は……個人差があるだろうけど。


 この生活の辛さは結構なものでしてございましてね。全然安心できないからね。まず歩行中ですら、不意打ちにおびえる。人の多い通りだと、常に構えていなくてはならない。

(やばいな。くるか?)

 と思ったら、スマホだとか気にするフリをして、ススーっと道の端の軒下とかの周囲に人がいないトコにさりげなーく移動する。そしてなるべく、ささやかに済ませておく。ごくごくたまーに、すかせる時もあるが。

 あるいは、工事現場とかやたらウルサイ所があれば、そっちにさりげなく接近してすませる。もんッのすごく面倒くさい。

 

 しかし人間の身体と言うのは恐ろしいね。

 日々、放屁を恐れて生きているせいだろうか。仕事中だと全くしたくなくなったのだ。どんだけトラウマだよ。でもありがとう僕の肉体、うまいこと適応してくれて。これからも仲良くしような。

 そう、思っていた。だがしかし肉体くんにも限界があった。そりゃそうだ。生きている以上、消化はしてるし腸は蠕動ぜんどうしているのだ。驚いたことに、午後になると腹回りがキツくなってくる。マジか。ふ、ふくらんでるのか? 

 そしてさらに放置していると、なんと……吐き気がしてくるんだ。

 いや、そこまでしなくていいって。 

 下がダメなら上からだ! とでも言うのか。

 そこまで頑張んなくてイイ。こう、なんなんだ。これは……どうすればいいんだ。うげえ~、って嘔吐して、一緒にガスも出せと言うのか。それは、まぎれてないよ。オナラじゃないだけで別の大惨事だよ。がんばってくれてありがたいけど。

 しかし当然だが、基本しずかなオフィスでイチかバチか、たまりにたまったヤツをかますわけにいかない。

 すすーっとトイレに行く。ココで俺はニンジャと化す。日本にまだニンジャがいるとすればそれは僕である。五感を研ぎ澄ませ、慎重に周囲の気配を伺う……よし、誰もいない。来る気配もないな。そんで男子トイレの個室内で済ませる。

 おっ。なんだか体がラクになった気がする。ホントありがとう俺の肉体。苦労をかけるな。いや、しかしまだ油断はできない。

 また俺は全力で集中し、ニンジャ・スキャンを周囲に張り巡らせる。目で見るな、心で見るんだ。

 ……隣の女子トイレから出てくるヒトの気配はないか? 出くわしたら俺だとバレる。だって朝からずっとガマンしてて、腹部に膨満感を感じるほどのフルチャージなんだぞ。そんなん我ながら、時にはヤベえ音量なのである。どうだ、外の廊下をこちらに来る気配はないか?

 よし……ないな。やっと俺はスタスタと席に戻る。そしてニンジャは何事もなかったかのように仕事に取っかかる。

 いやね、同じ男なら最悪なんてコトないのだよォ。

「酒の飲みすぎっすかねぇ!」だの、

「昨日拾い食いしたのがアレだったすかねぇ!」

 とかね。超ムリヤリ笑いに変えるという最終手段があるから。それだってホントすっごいイヤだけど、まだマシ。僕はまさにこんな日々を戦っている。


(なぜ、いつからこんな事になっちまったんだ!)


 そう思った僕は色々と試した。まず疑ったことがある。

「臀部の脂肪とかの加減で、すかせないのではないだろうか?」

 なので痩せてみたり、逆に体重増やしてみたりした。野菜を食べてみたり、肉をなるべくガマンしたりした。……効果なし。


 太ももからお尻にかけて、真面目に筋トレしてみた。あのゴムバンドみたいなヤツ買ってさ。ジムも行ってさ。柔軟もしてさ。

 だってね、音がするという事はだ。要は何かが振動してるわけだ。じゃあソレがおしりの脂肪だったら、筋肉で固めたら、けっこう改善されるんじゃないか?

 ……けっこう頑張ったのだが、効果なし。ま、ダイエット効果はあった。

 そして思い当たった。まさか、アレか?


 僕は、骨盤をぱっくり骨折したことがあるのだ。そりゃもうキレイにぱっくりと二つに。あれかもしれない。考えれば考えるほど、すかせなくなった時期と退院の時期が合致する。

 傷外固定で治療したのだが、当然ながら元の角度に戻ってはいないハズだ。そんなに人体は単純ではない……だろうよ、きっと。その拍子に、超複雑な股間まわりの筋肉やら内臓の角度が変化した。結果、どうしても音が出る仕様になってしまったんじゃないか⁉

 

 そして残念なことに、詳細に日付を調べれば調べるほどに、この予想は正しいように思われた。もうどうしようもないじゃん、これ。もう一回、ぶち折ってみろとでも言うのか。元に戻る保証ないぞ。なんか失敗して、ほかの障害だとかなったら目も当てられない。くじけないぞ。俺は、この身体と生き抜くぞ。


 もし、すかせない男か女が読んでる人にいたら。僕の事を思い出してほしい。

 キミだけじゃない。その苦しみを理解できる者はここにちゃんといるし、その意味では君は独りじゃない。俺もまた俺の戦場で戦っている。君は君の戦いを、強く生き延びて欲しい。


 ……いや、聞かせには来なくていい。

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