5章 王都動乱編

第90話 一夜明けて

 陽が上りグランは目を覚ました。

 アリシアはまだ寝ており、グランの胸に顔をうずめながら、すう、すうと寝息を立ている。

 グランはアリシアの可愛いらしい寝顔眺めながら、彼女の頭を撫で始めた。


「んっ……グラン……?」


「ごめん、起こしちゃったか?」


「大丈夫ですよ。おはようございます」


 アリシアは目を閉じながら顔をグランに差し出してくる。

 グランはアリシアが何をして欲しいか分かっているため、彼女のふっくらとした唇に軽くキスをした。

 アリシアはにへらといつになく気の抜けた顔をしてしまうが、恥ずかしくなったのかグランに背を向けてしまう。

 グランはアリシアを後ろから抱きしめ、彼女のお腹を優しく摩り始めた。


「体調は大丈夫?」


「少しだけ違和感がありますが、問題ないです。 ただその、足、腰がグランといっぱいしたので……疲れてしまっているみたいです……」


「お水飲む?」


「ありがとうございます。頂きます。」


 グランはベットから降りて、二人分のコップを準備した。

 水を溜めているかめからコップに水を移す。

 グランがアリシアにコップを手渡すと、体がよほど水を欲していたのか、グランよりも早く飲み干してしまう。


 水を飲むために体を起こしたためにアリシアの胸は見えてしまっていた。

 グランはその形の良い胸を見てしまい、あまり見てしまわないように目線を逸らす。

 アリシアの方も、先ほどグランがコップの準備をしているとき、彼が全裸なのを忘れており見てしまった後、視線を外していた。


 サイドテーブルにコップを置くと、二人は再びベットに横になり上から毛布を掛けた。

 今度は互いに向き合いながらである。

 グランがアリシアを抱きしめると、アリシアもグランを抱きしめた。


「今日は家でゆっくりしような」


「はい」


 二人は既に学園を休む気満々である。

 互いの鼓動の音を感じあう静かな時間が流れていった。


 ────


 オルレアは焦っていた。

 その焦りは御者にも伝わり、急ぎながらも安全に気を付けて馬車を走らせている。

 彼女たちが目指しているのはグランとアリシアの家であった。


(まさか昨日の今日で敵が襲ってくるだなんて思いませんでしたわ! 無事でいてくださいまし)


 どうしてオルレアがこんな勘違いをしているかというと、グランとアリシアが学園に行かなかったからである。

 オルレアは二人と話したいことがあったため、学園で待っていた。

 ただ二人は午後になっても現れない。

 昨日のドウコという男は強敵であったため、オルレアは思った。

 何かあったに違いないと……。


 昨日あんなことがあったのに、まさか二人がベットの上でイチャついているとは、オルレアは思いもしていなかった。


 目的地に着いたオルレアは馬車から飛び降り、ドアを強くノックする。


「アリシア! グラン! 大丈夫ですの!!」


 オルレアは涙目になっていた。

 何度目かの呼びかけで、ようやくドアが開く。


「オルレア、どうかしたか?」


 グランが顔を見せると、オルレアは抱き着いた。


「良かったですわ。わたくし、お二人が学園に来ないので、何かあったのかと心配で……」


 ぎゅーっと抱きしめてくるオルレアにグランは困ってしまうが、とりあえず頭を撫でてあげる。

 グランに抱き着き、撫でられているうちに落ち着いてきたオルレアは彼から離れた。

 そしてグランを見て、顔を赤く染める。


 グランはズボンを履いていたが、上半身は裸であった。

 グランの肉体は鍛え上げらており、胸板は厚く、腹筋は綺麗に六つに分かれ、肩回りや腕も大きくなっている。

 キャンディア家の騎士にもここまでの肉体美を持つ者はいなかった。

 その立派な体に抱きしめられたら、安心して身を任せてしまえる様な逞しい体であった。


「グ、グラン、その、焦らせてしまったのは申し訳ありませんが、今度からちゃんと服は着てきてから出てきてくださいまし」


「ああ、すまん」


「オルレアどうかしましたか?」


 グランの後ろから現れたのはアリシアだった。

 アリシアは急いで、下着とワンピースを着てから顔を出したのだ。


「良かったですわ。アリシアも無事だったのですわね………………」


 オルレアの言葉は徐々に歯切れが悪くなっていた。

 オルレアの視線の先にいるアリシアは、グランにしがみ付きながら生まれたての小鹿のように震えていた。


 オルレアは慈愛の眼差しをグランとアリシアに向ける。


「……見に来て分かりましたわ。学園に来れなかったのは、昨日の戦いで疲れ果ててしまったからですわね?」


 ニッコリと微笑むオルレアに、グランとアリシアは言えなかった。

 学園に行けなかったのは、アリシアが疲れ果ててしまったのは一晩中愛し合っていたからだとは………………。


「そう「だ」です」

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