第91話 話し合い

 グランとアリシアはオルレアを家に迎え、話をしていた。


「学園は休校になりましたわ。生徒や教師、衛兵の方々の負傷に加えて、校舎や施設が壊れてしまいましたので……。それに犯人が捕まっておりませんもの、生徒たちの中には安全のために領地に帰る人たちが大勢いるそうでわ」


「オルレアはどうする?」


「聖女がああ言ったんですもの、わたくしはもちろん残りますわ。あなたたちもそうのでしょ?」


 グランとアリシアは力強く頷く。

 オルレアは微笑んだ。


「それで一先ず関係者たちで集まることになったわ。わたくし、アリシア、グラン、ミレイナ様、ヤルト、シュベルト殿下」


 オルレアは事情を知る者たちに学園で声をかけていた。


「それと、ファルティナ様とはすでに話しましたが、ミレイナ様とシュベルト殿下には転生者のことやファルティナ様と話ができることは内緒にしますわ。為政者に知られるのは火種になる可能性がありますもの」


 ファルエリが送り込んできた転生者たちはスキルやステータスを女神により与えられた者たちであったが、自然発生してしまった転生者や転移者も世界を渡る際に強力なスキルや高いステータスを得ることがある。

 筆頭聖騎士になったフレイアも世界を渡る際に高いステータスを得ていた。

 この世界の召喚魔法は廃れていたが、転生者や転移者の高い能力に目を付けた為政者に悪用される恐れがある。


 ファルティナと話ができることを隠すのも、女神の力を悪用されるのを防ぐためであった。

 人と話をしてしまえば、女神であっても情が湧いてしまい何かあれば助けたくなってしまう。

 相手の口が上手ければファルティナが騙される可能性もあった。

 条件さえあえばスキルの受け渡しが可能になるなど、女神の力は強力である。

 今はファルエリが送り込んできた転生者がいるため女神の力を使用しているが、本来は女神の力をみだりに使用せず、神託をおこなう程度であった。


 そうはいっても、ファルティナはお気入りであるフレイアやアリシア、グランたちと話すことは好きである。

 その中にはオルレアも入っていた。

 彼女たちとの関係をファルティナはちゃんと自覚して話をしている。


「集合場所は前回行きましたレストランになりますわ。秘密の話をするにはちょうどいいですもの。馬車は後で回しますわ。それで、……アリシアは行けそうですの?」


「休憩してから行きますので、大丈夫です。そういえばオルレアの家ではないんでね?」


「我が家でやったら、シュベルト殿下が血祭りになりますわ。お父様も、お母様も婚約破棄の件で怒っていますもの」


 オルレアは自嘲気に笑った。

 オルレアが帰っていった後、アリシアはグランに膝枕をお願いする。

 グランの固い膝枕を堪能したアリシアは、オルレアが迎えに来るまでに立って歩ける程度に回復していた。


 三人がレストランに着くと個室に案内される。

 まだ誰も来てはおらず、待っていると人が集まってきた。


「集まってくれてありがとうございますわ。ここにいる方々は事情を知っている者たちですので、共に知恵を絞り王国の危機を乗り切りましょう」


 全員が揃ったところでオルレアが場を仕切り始める。


「この場で面識がないのはシュベルト殿下とヤルトですわね」


「知っているとは思うが、イリニシア王国第一王子、シュベルト・イリニシアだ。王国の危機に力を貸してほしい。宜しく頼む」


「イリーニ学園一年のヤルトです。宜しくお願い致します」


「最近実力を伸ばしているようだね。心強いよ」


「お褒め頂き恐縮です」


 ヤルトはゲームに出てきたためシュベルトのことを知っていた。

 実際に会ってみると彼が纏う王族としての雰囲気に当てられ、ヤルトは緊張しっぱなしである。


「ヤルトは今回、ファルティナ様からご神託を賜り、聖女排斥のための決断をする一助を致しました」


 転生者のことは言えなかったため、オルレアはこのようにヤルトのことを話した。

 これでヤルトがゲームの知識について話しをしても、ファルティナから神託で賜ったという言い訳ができるようになる


「なるほどそうであったか」


 シュベルトと発言をしていなかったミレイナも納得したようであった。

 顔合わせが終わり、最初に発言をしたのはシュベルトであった。


「昨日城で確認してみたが、真っ赤だったよ。国王、王妃はもちろん国の上層部はとっくに洗脳されてしまっていた」


 "魅了"の効果は聖女がいなくなっていっても継続されていた。

 その内容が聖女を優遇するだけかもしれないが、お願いされて何かの計画を準備しれいるかもしれない

 ただ、"服従"のように術者がいなくなったことで、昏睡するようなことが起こらなかったのは幸いであった。

 もしそんなことが起きていればこの国は大パニックである。


「解呪をしようにも数が多すぎる。そこでまず、国王を解呪し王命により捜査および解呪を行っていく。アリシア嬢、力を貸してもらうが良いかい?」


「分かりました」


 ファルティナによってアリシアとシュベルトの縁は切られていた。

 そのため、話しかけられても依然のような不快さをアリシアは感じていない。


「今夜私が手引をきして、寝ている国王を解呪する」


 その後いくつかの情報共有を終え、集会は終了した。

 ミレイナとヤルトは帰っていき、他はキャンディア邸に向かう。

 シュベルトを門の外で待たせ、グランたちは屋敷に入っていった。

 王子を外で待たせるという無作法な行為であるが、先に彼らの愛する令嬢を一方的に婚約破棄をしたのはシュベルトであったため、キャンディア家は譲るつもりはなかった。

 門を警備するのは門番だけでなく、キャンディア家に仕える騎士達もおり厳戒態勢である。

 居心地の悪さを感じながらもシュベルトはアリシアの準備ができるのを待っていた。




 キャンディア家でアリシアはシュベルトが用意したメイド服に着替えた。

 グランとオルレアの前で王城で働くメイドに扮したアリシアが、くるっとその場でターンをする。

 ふわっとスカートが広がりその光景は可愛らしいものであった。

 普段のグランであれば、可愛いと褒めちぎるのだが、この時ばかりは不安そうにしている。


 三人は門まで歩き、シュベルトの乗る馬車の前で立ち止まった。


「グラン、そんなに不安そうな顔をしないでください。すぐに終わらせてあなたの元に帰ってきますから」


 アリシアは不安そうなグランを抱きしめると、グランも抱き返した。

 グランから離れると、アリシアはシュベルトが乗っている馬車に乗り込んだ。

 その場にいたグランとオルレアは走り去る馬車を見送った。

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