第86話 VSドウコ
グランとドウコの戦いの場は訓練場からどんどん移動していく。
二人の殴り合いは結果的に周囲の施設を破壊していった。
「良い、良いぞお前。俺とこれだけ殴り合えたのはお前が初めてだ!! ガハハハハハ、ああ気分が良い。最高だ」
体から血を流しながらも愉快そうに笑うドウコに対して、グランには笑うほどの余裕はなかった。
校舎に向かって吹き飛ばされたグランが瓦礫の中から立ち上がろうとしていると、周囲が騒がしくなる。
「犯人がいたぞ! 応援を呼べ!」
逃げ惑う生徒がいる中、学園の施設を破壊していくドウコに対して、衛兵、教師、力自慢の生徒たちが集まってくる。
「あ~また、ハエ共が寄って来やがったな。萎えるぜ~」
各々がドウコを攻撃していくが、彼らは一蹴され地面に倒れていく。
学園の衛兵でさえも相手にならなかった。
その内の一人をドウコが踏みつけようとしたため、慌ててグランはドウコを殴りつける。
グランの拳は確実に決まっているのだが、ドウコは揺るがなかった。
お返してばかりにドウコが振るう拳がグランを打つ。
"頑強"のスキルを持つグランであるが、その攻撃に倒れそうになた。
ドウコの一撃一撃はグレッグ以上である。
グランは既にガクツク足に何とか力を入れて両足で立っていた。
フットワークを活かした、攻撃などグランにはすでにできない。
そんな事をすればたちまち足がもつれてしまう、グランの体力は危険な状態であった。
グランは足を止め、一発一発に必殺の意思を籠めて打ち込んでいく、それは常人であれば、死に至る威力がある。
ドウコもグランの意図に気づいたのか、足を止めて拳を振るっていく。
グランの拳を何発を受けているにも関わらず、ドウコは揺るがない。
手ごたえは感じているがドウコは一向に倒れる気配がなかった……。
ドウコの拳がグランの頬に入る。
その一撃が入った瞬間、グランは足から力が抜けるのを感じた
踏ん張りが効かなくなった体は吹っ飛ばされ、校舎の瓦礫の山に埋もれた。
立ち上がろうにも足に力が入らない。
「ナイスファイトだったぜ。この世界に来て初めて満足に殴り合えたぜ。この世界の連中はすぐに魔法っていう変なものを頼りやがるからよ」
ドウコが求めるのは殴り合いであり、魔法での戦いなどナンセンスであった。
だからといって、ドウコが身体強化をしていないというわけではない。
彼の肉体は魔力で強化されているが、それは意識的にやっているのではなかった。
戦闘によって鍛えられた肉体に魔力が馴染んでいき、それが無意識的な身体強化になっている。
そして、その浸透率は誰よりも高かった。
ドウコが止めを刺すためにグランに近づいていくと、頭の中に声が響く。
『やあ、ドウコ今良いかい?』
「なんだ、エマニル今良いところだ邪魔するな。ったく、しょうもないことだったら許さねえぞ」
『それは良かったね。ただ先ほどから聖女と繋がらなくてね。どうやら彼女は負けてしまったらしい』
「おいおいマジかよ。あん? それなら────」
ドウコの言葉の途中に四本の『ホーリーランス』が飛来した。
ドウコはそれを容易く砕く。
その光景にアリシアは顔を歪ませるが、声を張り上げた。
「グランにそれ以上手は出させません」
アリシアはドウコから走って距離を取りつつ、『ホーリーバレット』や『ホーリーランス』を放っていく。
だが、そのどれもがドウコの身体強化を突破できずに、打ち砕かれていった。
側面からも『ホーリーランス』を当てたが意に介していないようである。
「手品はもう終わりか?」
攻撃するのを止めたアリシアを嘲笑い、ゆっくりとした足取りで近づいていく。
アリシアは深呼吸をして、集中し魔法を唱える。
攻撃を止めたのは、魔力を練るためであった。
「『ホーリーレイ』!」
白い光がをドウコに襲いかかった
アリシアは連続する光の線をドウコに対して放ち続ける。
掌ほどの大きさがあるそれを、ドウコは片手で受けて前進していく。
本来であれば人体を燃やすほどの高温であるはずのビームであるが、ドウコの手の表面に火傷を付ける程度のダメージしか入っていなかった。
アリシアは歯を噛みしめて、さらに魔力を籠めて威力を上げるがドウコの歩みを止めることはできなかった。
ドウコはついにアリシアの前に立ち、その細い首を掴み持ち上げる。
「ぐっ!」
息苦しそうな、声を漏らすアリシアをドウコは愉快そうに眺める。
「ホ、『ホーリーバレット』」
呼吸が困難な状態であっても魔法を唱えたアリシアは速度を高めた一発の弾丸は放つ。
だが、その一撃はドウコの顔に傷を付けるに留まった。
「愛する男のためならって奴か? 良いねえ~そういう女は好きだぜ。屈服させると従順になって良い声で鳴きやがる」
「あ、あ、かは」
グランはアリシアが戦っている間から、何とか立ち上がろうともがいていた。
そしてアリシアの苦しそうな顔を見た瞬間、脳内で何かが弾けた。
グランは力の入らない足に無理矢理力を籠めていく。
「おおおおおお!」
それでも動けないグランは、両腕両足に魔力を流しこみ身体強化をする。
それは許容値を超える強化であり、キースやフレイアに危険だからと修行中に止められていた行為であった。
本来であれば、意識的に許容値を超えようとしても脳がブレーキをかける。
そんなことが出来るのは初心者かイカれた奴だけである。
だが、アリシアのこととなれば、グランは簡単にブレーキを取っ払ってしまえた。
両腕両足に破裂するような痛みが襲ってくるが、アリシアのことを思えば何てことは無い。
走ると今までとは比べ物にならない速度が出た。
アリシアを掴むドウコの腕に左手で手刀を放つ。
その威力はドウコにとっても予想外であったのだろう、この戦いで初めてドウコは顔を歪ませた。
アリシアを離したことを確認すると間髪入れずにドウコに顔に右手の拳を叩きこんだ。
その一撃は今まで揺るがなかったドウコを瓦礫の山に吹き飛ばした。
グランはドウコの手から離れたアリシアを地面に落ちる前に横抱きになるような形で受け止める。
吹き飛ばされたドウコは顔を歪ませながらも起き上がってくる。
だがその顔はどこか楽し気であった。
「今までで一番拳だったぜ。お前まさか女のためなら本気を出せるって奴か? ガハハハハハ、おいおい漫画かよ? いや、ゲームの世界だったなここは」
ドウコは視線をグランからアリシアに移し笑みを浮かべる。
「じゃあ、次はその女を狙った方がより楽しめるってことか?」
「殺す!!」
「いいね~いいね~。殴り合ってた時よりもよっぽど殺気が籠ってるぜ。おいエマニル俺は帰るぜ」
『おや、止めは刺さなくても良いのかい?』
「おいおい、止めを刺しちまったらもう楽しめないだろうが? 聖女を守るためなら最後までやったが、もう負けちまったんだろ?」
『そういうことかい。前に凄腕の暗殺者が来た時に殺してしまってことを後悔をしていたね』
「そうそう、そういうこった。ってわけだからじゃあな、グランまた会おうぜ。ガハハハハハ」
ドウコはしっかりとして足取りで学園から去っていった。
周りで様子を窺っていた生徒や教師たちは誰も手を出せなかった。
視界からいなくなるまで待ってからグランはアリシアを地面に下ろした。
「グラン、大丈夫ですか? グラン!聞こえていますか!?」
泣きそうなアリシアの問いにグランは答えなかった。
グランがよろけ始めるの同時に、グランの両手両足から血が噴き出す。
許容値以上の身体強化をおこなった副作用であった。
「グラン!? ヒ、『ヒール』」
血の海に沈むグランにアリシアは必死に回復魔法を唱えた。
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