第81話 転生者たち4
「最近人が減ってきていないか?」
「それは俺も思ってた」
今日も転生者たちは空き教室に集まっていた。
入学当時は大勢いた彼らもすでに半分ほどにその数を減らしている。
最初はデューイがいなくなり、その後にファビオ、セブラン、サーミルたちが
暴行の罪を問われどこかに移送された。
他にもレベリングと称し危険な魔物に挑み呆気なく命を散らす者たちもいる。
この世界はゲームではなくステータスを見ることはできない、実力をきちんと把握できていない者たちは命を散らしていった。
中には犯罪を犯そうとする者たちもいる。
転生者たちの中には誰が一番うまく主人公としてステータスを向上させられるかゲーム感覚で生きている者たちもおり、そんな彼らが他から差をつけられ始めると簡単に諦めた。
そして一発逆転狙いや愉快犯として犯罪を犯そうとするのである。
だが、すでにヤルトの協力によりファルティナに目星を付けられている彼らは要監視対象であり、たとえ転生者と判別できていなくても犯罪を犯そうとしているかどうかは判断できた。
グレッグやデューイとは違い彼らに使われている女神の力は弱く、わざわざ弱らせなくても元の世界に送り返すことは可能である。
同じ転生者が一人また一人と消えていく中、彼らは不安に駆られていく。
女神ファルティナの恩情により強制送還はされていないが、一体何人が無事に寿命を迎えることが出来るかは分からなかった。
────
女神ファルエリの本命である力を与えられた転生者たちも別の部屋で集まっていた。
「先日殿下とデートで劇場に行って来てのよ、内容はそこまでだったけど、二人だけの特別席で王子の顔が近くで見れるだけで最高よ。ちなみにこの劇場は"ラディアント・フューチャー"でも出てくるの。その時は殿下と聖女が一緒に入っていくのを目撃するシーンがあるの。聖女ルートに入るにはこの後────」
「聖女、お願いしていた素材は集まりましたか?」
部屋に来てから話し続ける聖女にテイマーのケネスは遮ってそう声を掛けた。
聖女は深い溜息をつく。
「……ケネス、アンタが私にお願いしていた、素材だけど全部揃えてアンタの家に送っておいたわよ」
普段あまり感情をださないケネスが嬉しそうに笑顔を見せる。
「ありがとうございます。これで私の悲願に一歩近づきました」
「Sランクの魔物の魔石にドラゴンの血、伝説の鉱物であるオリハルコンにその他の魔物素材、全く何をする気なんだか……。いいこと、アンタが欲しがる素材が入手できたのは聖女である私と殿下のおかげなんだから、私たちに迷惑をかけないでよ!」
「ええ、分かっておりますよ。王都には手を出しませんよ」
お金を積んだだけでは手に入れることのできない希少な素材を聖女と王子の権力により手に入れていた。
ケネスは素材が揃わずに進めることが出来なかった次の実験のための計画をぶつぶつと呟き始める。
美形の彼であるが、その姿は異様であり狂気が宿っていた。
「ケネスのお願いを聞いてくれてありがとう、聖女。ところでドウコは今日来ていないけれど、彼はどうしたんだい?」
彼らのまとめ役であるエマニルが尋ねた。
「ドウコは最近戦えていないから、どこかで暴れているんじゃないかしら? 王都の闇は彼が牛耳っているから大丈夫でしょ」
ドウコは転生後成りあがっていき、今では王都のならず者たちを牛耳る闇ギルドの長である。
彼には町の衛兵たちも手を出すことが出来ず、指をくわえていることしかできなかった。
それは以前彼を検挙しようとした衛兵および騎士たちを全て返り討ちにしたためである。
そんな状況であっても王都が乱れていないのはドウコが強い者と戦うことにしか興味がないからであった。
聖女の護衛をしているのも、闇ギルドもそれが理由である。
地位を妬むのは何かと嫌がらせをしてくるものであり、それを相手にするのが彼の楽しみであった。
「なるほど、それで聖女の今後の予定は?」
「もちろん殿下とラブラブするわ。あのお顔で見つめられると胸の高鳴りが抑えられないわ。あーでも、なんか生徒会長から呼び出しされていたわ。めんどくさ~」
「そうなのかい?」
「学園の訓練場に殿下と共にね。あ、でも殿下の戦う姿を見れるかもしれないわね。それは楽しみかも」
「君は聖女だから、何かあるかもしれない。近くにドウコを待機させておいてね」
聖女は能天気に笑っていたが、エマニルはちょっとした違和感を覚えていた。
「分かったわよ。ところであんたも私の話を聞いてよ。"ラディアント・フューチャー"の話をしたいんだから」
「残念だけど僕はあのゲームを詳しく知らないから話はできないよ。それに僕はここの住民に興味もないしね」
「はいはい、分かりましたよ」
(全く何でこいつらは"ラディアント・フューチャー"の世界に転生したよ。女神はもっと厳選しなさいよ)
不貞腐れた聖女は話を打ち切った。
流石に王子にゲームの話をすることはできない。
好きな物の話をすることが出来ず、聖女はストレスを溜めこんでいた。
────
聖女、シュベルト、護衛の兵士たち、そしてミレイナは学園の訓練場に向かっていく。
聖女たちは訓練場を使用したことは無かった。
学園の訓練場は戦闘をしても問題ないほどの広さを持っている。
加えて中で魔法の練習ができるようにある程度の魔法を防ぐ結界が張ってあった。
そのような訓練場が八か所学園に存在している。
その中でも今回聖女たちが向かっているのは一番規模の大きい訓練場である。
張られている結界も強固であり、中級の魔法──ホーリーランスなどのランス系の魔法を防ぐことが出来る結界が張られていた。
聖女たちが訓練場の中に入った後、ミレイナは一番最後に入りドアの前で待機する。
訓練場の中にはすでに三人いて聖女たちの到着を待っていたようであった。
「お待たせしたしまったかしら? それで今回はどのようなご用件ですか?」
「用件は単純ですの。そろそろ、殿下を返してもらおうと思ったまでですわ。聖女様?」
そこにいたのはシュベルト第一王子の元婚約者、オルレア侯爵令嬢。
そして最近一緒にいる二人の平民の男女であった。
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