第80話 転生者
「わたくしがいない間に大変だったようですわね」
キャンディア家の一室にグラン、アリシア、オルレア、ヤルトの四人は集まっていた。
集まったのはヤルトが言った、転生者であるという件についてである。
昨夜は話をするには時間が遅かったため、今日オルレアを交えて話をすることになっていた。
既にアリシアの髪と眼の色は変わっており、彼女の中にはファルティナが入っている。
『それであなたが転生者というのは本当なのかしら?』
ファルティナたちはヤルトと机を挟んで座っていた。
だが、ファルティナはこの距離でもヤルトを転生者かどうか判別ができずにいる。
「元の世界では高校生、まあ学生だったんだけど、信号無視をしたトラックに轢かれてこの世界に転生したんだ。ちなみにこの姿も元の世界とは違っていて、転生した時に変えてもらった。ちなみに転生したタイミングは学園の入学式な」
グランたちこの世界の人はトラックや信号などの知らない単語が出てきて困惑しており、ヤルト以外で理解できたのはファルティナだけであった。
彼女は科学文明を発達させた世界ではそのようなものがあることは知っている。
『それでアリシアちゃんを聖女と呼んだのは?』
「元の世界にこの世界そっくりな”ラディアント・フューチャー”ってゲームがあったんだよ。そこに出てくる聖女が今のアリシアちゃんにそっくりなんだ」
『それってどんなゲームなの?』
「イリーニ学園で三年間過ごして勉強したり、冒険者をやったりするゲーム。その中で登場人物たちと仲を深めたり恋愛したりもできる。登場人物に……グランは出てこないけど、オルレアやレニーたちは出てくる。あと、昨日の奴らが使っていた装備もゲームでてきてたな」
話は理解できていなかったが、グランに取って気になることがあった。
「アリシアとも恋愛できたのか?」
その質問は部屋の空気を一変させた。
下手なことを言えば血の雨が降る…………。
グランとアリシア以外に緊張が走った。
聖女推しだったヤルトは何回も聖女との恋愛をしている。
不幸な彼女を幸せにしてあげたくて、色々なルートを模索していた。
聖女だと知らなかったが実際に見たアリシアはめちゃくちゃ可愛く、初めて会ったときは恋人にしたいと思った。
だが彼女にはグランがいた。
そして今、彼女と聖女が同一人物だと知ったが、髪や眼の色だけではなくゲームの彼女とは全然違っている。
ゲームではグランや家族とは再会できずに打ちのめされ教会の言いなりとなり弱々しく笑っていた。
それがこの世界では満面の笑みを浮かべる幸せそうにしているのだ。
ヤルトは推しの幸せのために身を引くことが出来る男であった。
「いや~、俺はアリシアちゃんとゲームで交流していなかったから、その辺は全然分からないわ」
彼の判断により血の雨は回避された。
『ヤルト君をこの世界に連れてきた相手について何か知らないかしら?』
「転生する前に不思議な白い空間で女性──女神?に会ったぐらいです。スタイルの良い赤髪の女性でした」
『……………………うん? ねえヤルト君、あなたの元の世界って急に不死の化け物とか現れなかった?』
「えっ? そういえば、海外で銃で撃っても死なない化け物が出たってニュースでやっていたかも。ゲームかよって思ってました」
赤髪の女神に不死の化け物、そこから導きだされるのはファルティナの同期の女神、ファルエリであった。
『あんのクソ女神~~~!』
「私の姿でそんな言葉づかいしないでください!!」
『ご、ごめんなさい』
今ままで黙って聞いていたアリシア、切れる!!
『ねえ、最近アリシアちゃん私に容赦なくなってきてない? なんかフレイアに似てきたよ』
「フレイアさんは素敵な女性なので似てきたのなら嬉しい限りです」
「それでファルティナ様、ヤルトのことはどうなさいますの?」
『あ~それね……』
ファルティナはジッとヤルトは見つめ、彼も緊張で身を強張らせた。
「はあ~、とりあえずは様子見かしら、あまり力も強くないからこの世界に受け入れることは可能です。ただし! 犯罪などを起こした場合は問答無用で送還するからそのつもりでいなさい!」
ヤルトは息を深く吐き、緊張から解放される。
既に元の世界で死んでいる彼が送還されるということは死ぬということと同義であった。
「宜しかったんですの?」
『ヤルト君は囮よ。転生が入学式からって言ってたけど、もっと前から転生者の嫌な気配がしてたの。力が強い本命はおそらくそっち。ヤルト君たちがゲーム知識で私の気を逸らしている間に本命たちが何かするんでしょうね』
(イリーニ学園を私が見通せなくなってしまったのは、学園の未来を利用してゲームを創ったからね、ファルエリ! 未来を使ってゲームを創ればそれは素晴らしい物が創れるでしょうね!)
『ヤルト君、他に何か気づいたことは無いかしら?』
「聖女……現在の聖女なんですけど、おそらく転生者じゃないかな? ゲームではあんな人は出ません。それに入学式で殿下とあんなに仲が良いのはおかしくて、他の転生者たちともそんな話をしました。殿下は人気キャラでったので、おそらく殿下のことが好きな転生者なんだと思う」
殿下と聖女の話になりオルレアのこめかみがヒクつくようになる。
「ファルティナ様、後でお願いがあるのですが」
『うん、分かったから落ち着こうね』
オルレアを落ち着かせてからファルティナはヤルトの意見を聞いての考えをまとめた。
『そうなるとファルエリから聖女を奪うスキルでも与えられたわね。シュベルト君も洗脳されているってことなら、洗脳系のスキルも持っているのかな』
ファティナは大きく溜息をついた。
『聖女は要注意人物だね。みんなも気を付けておいて。聖女なら光の魔力だから、前みたいにアリシアちゃんでシュベルト君を解呪できるわ。あとヤルト君は他の転生者について教えてちょうだい』
ヤルトの協力のもと、転生者たちはファルティナに目星を付けられた。
グレッグやデューイと違い、ヤルトと同程度にしか力を与えられていなければ、ファルティナの力には抵抗できない。
もし彼らが犯罪を犯そうとすれば強制的に元の世界に送還されるだろう。
そうして彼らの話し合いは終わった。
そしてこの時、ミレイナが住んでいる、バーナーベルク邸に領地から小包が届いた。
────
イリニシア王国第一王子シュベルト・イリニシアは学園の生徒会長ミレイナに呼ばれて生徒会室に来ていた。
大した要件ではなく学園での状況や世間話を二人はする。
学園の生徒会長として、第一王子を気にかけているという程度の内容であった。
要件が終わりシュベルトは部屋から出ていった。
シュベルトが出て行った後、ミレイナはポケットからペンダントを取り出す。
ペンダントに取り付けられている宝石は赤く輝いてた。
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