第79話 打ち明ける
「まさかサーミルとファビオを倒すとはな。だが、その状態で拙者と戦うつもりか?」
セブランの言う通りヤルトは剣を失っており、レニーは傷だらけであり剣を持つのもつらい状態であった。
セブランはそんな二人を嘲笑うかのようにゆっくりと歩を進めた。
「我々の邪魔をした報い、その身に刻んでやろう」
二人では勝つことは不可能であると傍目にもよくわかる。
だが、二人は笑い出した。
「何が可笑しい!!」
「大物ぶって静観なんかしているから勝機を逃すんだぜ」
「確かに僕たちじゃ勝てないけど……君たち時間を掛け過ぎだよ」
セブランは周りの気温が高くなったように感じた。
その熱気により鎧の中に汗が溜まっていく。
セブランは前方からすごい速さで駆けてくる人影が二つあるのに気づいた。
その速さは特殊効果を付けたファビオよりも速かった。
特に赤髪の女性の姿は陽炎のようにぼやけて見える
「お前たちが犯人か……学園の生徒が世話になったようだな覚悟してもらおうか!!」
イリーニ学園生徒会長ミレイナ・バーナーベルクは武骨な大剣を地面に突き刺した。
ミレイナと共に来たグランはセブランを戦うために前に出るつもりであったが、彼女がやる気であったため、戦いを譲り後方に下がった。
セブランに取ってミレイナの強さは未知数である
前の世界でレニーの生存ルートに辿り着いた者はいない。
レニーが亡くなった後のミレイナは意気消沈しパーティーにも入るどころか、一度も戦闘する機会がなかった。
燃えるようなミレイナの圧にセブランは怯むが今の自分の状態を見て思い直す。
身に纏っている装備はゲームの終盤でも通用する装備であった。
「この装備を身に付けた拙者の敵ではないわ」
獄炎のデーモンアックスに火が付き周りの闇を照らした。
斧を掲げ自慢気なセブランにミレイナは冷ややかな目を向ける。
「そんな骨董品を持ち出して何がしたい?」
ミレイナは自身の火の魔力で剣を強化する。
それはグランの強化とは違い、燃え盛る焔となって剣を彩った。
ミレイナの剣が纏う焔はセブランが持つ斧の火と比べることがおこがましいほど燃え盛っている。
その輝きに夜の闇はかき消された。
その圧倒的差にセブランは半狂乱でミレイナに斧を振るった。
それに対してミレイナは見惚れるようなきれいな一閃を振るう。
そのひと振りはセブランの斧を、外套と中に身に付けている鎧とを一緒くたに切り裂いた。
だがその一撃はそれでも止まらずに彼の胸に斜めの傷を付ける。
「無知なお前に教えてやろう。お前が使っている装備は今では使われていない遺物だ。それらには魔力が宿っていて未熟者が使えば確かに強くはなれるだろう。ただその魔力は武器の強化とすこぶる相性が悪く反発する。そして自身の魔力で強化した方が装備は強くなる。わざわざそんな骨董品を使う必要はない」
倒れ伏すセブランは胸から血を流しているが、ミレイナが手加減をしていたため死んではいなかった。
気を失っている彼にミレイナは念のために持ってきていたポーションを振り掛けた。
全てが終わった後、アリシアとグレースが合流したが、現場はなんとも言えない状況になっていた。
「レニー大丈夫か? ポーションは無くなってしまったが軟膏の傷薬は持っているんだ。今塗ってやるからな」
「レニー君助けてくれてありがとうございます。私も傷薬持っていますので塗りますね」
ミレイナがレニーに傷薬を塗っているとシエンナが放り出していたバックから取り出した傷薬を持ってレニーの傍まで来る。
いくらレニーが渡した上着を着ているとはいえ、元々彼女が来ていた服はボロボロになっており、下着はすでに破り捨てられている。
彼女が歩くたびにたわわに育った果実は揺れてその存在を主張していた。
レニーは顔を赤くして慌てて目を逸らした。
「…………君はそんな状態だ。塗るのは私に任せてくれ。レニーに肌を見られるのは恥ずかしいだろう」
「その……レニー君になら……見られても大丈夫です……」
「ほう」
一触即発の雰囲気の中、レニーはミレイナとシエンナに甲斐甲斐しくお世話された。
そしてそんなレニーをグランとヤルトは乾いた笑いを上げながら見ている。
「なんというか……気にするな」
「…………直接助けたのはレニーだから……」
グランはほっとかれているヤルトを慰めていた。
レニーたちの様子にジト目を向けながらグレースはポケットから傷薬を取り出した。
「ヤルト君、私も傷薬を持っているから塗ってあげるわ」
「ありがとうございます」
皆が傷薬を塗り始めてしまったため、アリシアは今更回復魔法で傷を癒すとは言えなくなってしまった。
傷薬を塗っている間グランとアリシアは犯人の様子を見ることにした。
全員が気を失っているため、アリシアがバインドの魔法で拘束していく。
犯人たちの顔を見ていたグランがあることに気づく。
「こいつら戦闘実技の授業でヤルトに絡んでたやつらだ」
「何か関係があるんでしょうか?」
二人が考えを相談していると、アリシアの髪が白髪に、眼の色が赤く変化した。
ファルティナがアリシアの中に入ったのである。
『グラン君、こいつら転生者よ』
「……元の世界に送り返しますか?」
『騒ぎが広がり過ぎているわ。いくら私でも学園中の人の記憶から消すのは大変よ。罰を受けてから送り返すことにするわ』
学園での暴行事件と性的暴行未遂での裁きを受けさせて事件を解決する必要があった。
『ただ今までの転生者たちとは違うのよ。スキルも持っていないし、与えられている力も弱いわ。それにいきなり三人も現れるだなんて何か別の狙いが……』
考えこんでしまったファルティナを見ていると、グレースとは別れたヤルトが驚愕の表情を浮かべながらこちらを見ていることにグランは気づいた。
「どうしたヤルト?」
「…………聖女?」
ヤルトの呟きを聞いたグランの行動は早かった。
アリシアを背に隠すように動き、ヤルトを威圧する。
「なぜアリシアを見て聖女と呼んだ?」
強烈な威圧に当てられたヤルトは顔を青くした。
グランは既に拳を構えており、返答次第では命の危険がある。
(どうする、どうする、どうする、どうする)
ヤルトの体から冷や汗が流れ始め、考えはまとまらない。
何とかごまかそうと口を開こうとしたとき、今までのグランとの交流を思い出した。
(グランは理不尽なことはしな……いや、アリシアちゃんに回復魔法を掛けてもらっているときは凄い怖い顔してるときあるわ。まあ、アリシアちゃん関係ぐらいだな。それ以外はまともな良いやつだ。……正直に言った方が良いよな)
グランを信じ、ヤルトは覚悟を決めて口を開いた。
「俺転生者なんだわ」
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