第50話 試験勉強

 グラン達が受験するのはイリーニ学園という名のイリニシア王国の中でもっとも権威のある学園であった。

 王族が学ぶ学園でもあり、その試験の難易度は計りしれない。

 そのため、レオンはグラン達を屋敷に招待して学習させることにしたのであった。

 

 クライン家の屋敷を前にグランはその大きさに圧倒された。

 自分の家何個分か数えようとしたが、それが無駄に思えるほど大きかった。

 

 門にいる守衛に緊張しながら話しかけると門を通され、屋敷の入り口に案内される。

 入り口にはメイドがおり、屋敷の中はメイドが案内をしてくれた。

 案内してもらってもらった部屋で待っているとレオンが老齢の教師を連れて部屋に入ってきた。

 

 挨拶と教師の紹介を終えるとレオンは部屋を出て行った。

 

 「まず、自己申告でいいので、お二人の学力を知りたいのですが」

 

 「冒険者のこと以外、何も知らないです。でも読み書きはアリシアに習っているのでできます」

 

 「わたしは入試程度の問題でしたら、おそらく解けます」

 

 アリシアの強気の発言に教師は入試の過去問題をアリシアに解かせ、その結果に驚く。

 

 「すごいの、ほぼ満点じゃ。後は最新の情勢を学ぶだけで、問題はなさそうじゃの。基礎から学ぶ少年と一緒に授業を受ける必要はないが、どうするかのう?」

 

 教師の発言に、捨てられた子犬のような目をしたグランがアリシアを見つめる。

 アリシアはそんなグランにキュンとしてしまう。

 今まではグランの格好良いところしか見れなかったが、最近はグランの弱いところを見ることができてアリシアのテンションは高まっていた。

 

「わたしもうろ覚えのところがありますので、授業を一緒に受けます。ご教授よろしくお願いします」


「うむ、分かった」


 アリシアの返事にグランはパアっと笑顔になり、目を輝かせる。

 その姿にアリシアの胸を衝撃が襲う。


(可愛いですグラン。今すぐ抱きしめたいですが、今は落ち着きなさいアリシア)


 平静を装いながら授業を受けていくアリシアは、教師の言うことが理解できないときにグランに補足をするという形で授業を受けていくことにした。

 最近は字の読み書きなどや魔力制御をグランに教えることも増えてきたが、冒険者のことなどグランに教えてもらうことの方が多いアリシアはグランに教えることが出来るものが増えてご満悦だった。




 お昼近くになるとグランの頭から湯気が出始めるようになった。

 初日から勉強になれていないグランが、午前午後と授業を受けることは流石に辛かった。

 そのため午後からは戦闘試験と魔法試験のための訓練となる。

 それらの試験が不要な学校も存在するが、名門であるイリーニ学園では文官もある程度戦闘力が必要ということで、どちらかの選択が必須であった。

 ただその前にお昼ご飯となり、レオンと共に貴族の料理を二人は食べた。

 美味しい料理に目を輝かせるグランを見て、アリシアもまた幸せであった。


 昼食の後、三人は戦闘試験と魔法試験のために庭に出ていった。

 庭にはすでにクレイン家の騎士が待機しているのと、魔法試験のための的が用意されていた。


 グランは騎士から木剣を受け取る。


「どれほどの強さかを知りたいから、本気でやってみてくれ」


 その言葉にグランは身体強化の応用で木剣を魔力で覆い強化してみせた。

 その行動に大人たち二人が驚く。

 騎士も強化することは可能であるが、十二歳で行っている点が驚異的であった。


 二人の戦いは騎士がプライドをかけて何とか勝ったが、辛勝である。

 グランが素手であったらどうなっていたかは、アリシアは黙っていた。


 レオンはこの結果を見て驚く。

 グランは悔しがっているが、本来戦闘試験は騎士相手にどれぐらい戦えるかを見るテストであり、騎士に勝つためのテストではなかった。

 騎士を相手に接戦を演じるグランの実力なら試験は問題ない。

 木剣を強化できるのなら上位は間違いなく、加えて入試は十五歳であり、その時には一般の騎士では相手にならなくなっているだろう。

 

「それじゃ次はアリシアちゃんの魔法を見せてもらっていいかな」


「はい、『ホーリーバレット』」


 アリシアは的に向けて十連射し全弾的に命中させて見せた。

 これにもグランを除く二人は驚いた。


 まず十回唱えたわけではないため、一度の詠唱で複数の弾丸を創ることができる。

 さらに斉射ではなく連射ということは各弾丸に発射と滞空の切り替えができる。

 そのうえで全弾を的に命中させており、精度も問題ないということであった。

 魔法試験の点数は満点であろう。


(末恐ろしい子供たちだ)


 レオンは二人にこれらのテストの対策は不要として、当面は午前を勉学にあて、午後の授業は無しとした。

 午前の授業のみとしたが、レオンは二人には毎回昼食をごちそうした。

 貴族の料理のおいしさに胃袋を捕まれたグランはレオンと仲良くなっていき、貴族への苦手意識もなくなっていった。


 その仲の良さはライルを上回っているとアリシアは見ていた。

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