第16話 療養

 グランが目を覚ますと、そこは自分の家ではなかった。

 体は痛くて動かなかったので眼だけであたりを見回す。

 すぐ横に花売りの少女が椅子に座り、グランを看病してくれていた。

 少女に声を掛けようとしたが声が出ないどころか、口もほとんど開かない。


 少女は目を覚ましたグランを見て目をしばたたせた後、大きな声でフレイアを呼んだ。


「フレイアお姉ちゃん、グランお兄ちゃんの目が覚めたーー!!」


 誰かから聞いたのか少女はグランの名前を知っていた。


 少女は目に涙を溜めてグランに抱き着く。

 グランに激痛が走るが、声も出ないため耐えるしかなかった。

 

「グランお兄ちゃん! グランお兄ちゃん! 全然、起きないから、死んじゃうのかと……」


 少女は何度もグランの名前を呼び、グランの顔を見る。


「助けてくれてありがとう、グランお兄ちゃん」


 部屋に来たフレイアは一先ず少女をグランから引き剥がすことにした。


「リースさん、グランさんは怪我人ですから抱き着いてちゃダメですよ」


「ごめんなさい、グランお兄ちゃん」


 フレイアとリースは姿勢を正す。


「グランさん、今回はリースを助けて頂いてありがとうございます」


「リースです。助けて頂いてありがとうございます」


 フレイアはグランに現状を説明する。


「グランさんは2日間眠っておりました。何かあった場合に備えて、回復魔法を使える私の傍が良いだろうということでグランさんには孤児院に泊まってもらいました。そのことはグランさんのお母様にも許可を頂いております」


 2日間も眠っていたと聞き、グランはエリスに心配を掛けてしまったことに申し訳なく思ってしまう。


「グレッグはあの後、他の冒険者さんの手でギルドに移送しました。あの役立──、ギルドマスターも帰って来ていますので、問題は起こらないでしょう」


(フレイアさん役立たずって言おうとしてた?)


 フレイアの毒舌は初めてだった目グランは目を見開く。

 フレイアは珍しく苦々しい顔をしていたが、一度咳払いをして表情を戻した。


「グランさんのお母様にはお目覚めしたことをお伝えして、他の方にはまだ面会謝絶としておきましょう」


 その後、体全体に低級回復魔法ヒールを掛けていく。

 まだ打たれたとこは腫れたり青々しくなっており、自身の体のダメージにグランは驚いた。


「とりあえずグランさんのお母様にお伝えしてきます。リースは言っても離れないので、残しておきます。何かありましたら彼女を頼って下さい」


 フレイアが部屋から出って行ってから2時間後にエリスはグランの部屋に来た。

 エリスはグランが目を開け起きているところを見ると泣き崩れる。


「心配したんだから」


 エリスは落ち着いてから、グランの頭を撫でる。


「頑張ったわねグラン、さすがお父さんの子供ね」


 エリスはグランに微笑みかけた。


 エリスが帰った後、再びグランは眠りについてしまい、再びグランが目覚めたのは次の日の昼だった。


 リースがフレイヤを呼び、低級回復魔法ヒールを掛けてもらう。

 先日とは違い体の痛みはいくらか引いておりグランは話すことと、体を起こすことが出来るようになっていた。

 

 少し余裕が出てくるとお腹が空き始めてきて、3日も食べていなかったグランのお腹は鳴ってしまった。

 フレイヤとリースは顔を見合わせて笑い、食事を持ってくるために部屋を後にする。

 部屋に帰って来たリースは温めた牛乳で作ったパン粥を持ってきた。


「グランお兄ちゃん、あーん」

「リースちゃん、一人で食べれるよ」

「まだ体が痛むよね。はい、あーん」


 グランは諦めて口を開ける。リースはパン粥を掬ったスプーンをグランの口に運ぶ。

 普段なら物足りないはずのパン粥だったが、ファングボアの肉を食べた時のような感動だった。

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