第15話 VSグレッグ2

 グランから流れ出た血はすでに地面に血だまりを作っており、左目は腫れあがった瞼で見えなくなっていた。


「うおおおおおおおお!!」


 そんな状態であっても、グランは雄たけびを上げ、グレッグの拳をすべて迎撃していく。

 二人の拳の応酬は徐々に加速していった。

 グレッグはたまらず使用していなかった蹴りを放つが、グランは膝でガードする。


 グレッグはグランにガードされる度に痛みで顔をゆがませる。


(くそ何であんなに頑丈なんだよ。雑魚のくせに何かスキルを持ってやがるな)


 グレッグが遊んでいたとはいえグランはすでにキース以上に殴られており、相当なダメージが与えられているはずだった。

 今までの経験上、死んでいても可笑しくないはずである。


 グレッグの想像通りグランはスキルを持っていた。

 スキルはゲームでは修行、イベント、特殊な条件で身に付くが、日々の行動によっても身に付く。


 グランは4年間の雑用によって、身に付けていた。

 雨でも、雪でも1日も休まずギルドに通い続けて仕事をし、冒険者たちによって鍛えられた丈夫な体はスキルの種を生み出す。

 それはファングボアに吹き飛ばされたときに開花していた。


 "頑強"──このスキルは体を頑丈にし、耐久力が上昇する。

 ただそれだけのスキルだが、グランの体本来の頑丈さと合わせて、これまでの"剛腕"を持つグレッグの攻撃を耐えてきたのであった。


 そして今この戦いにおいて"格闘術"のステータスが伸び続けている。

 グランがどのにも合わなかったのは、""に適性があったためであり、そのため何かを装備すると違和感を覚えていたのだった。

 本来であれば適性があったとしても、グレッグに追いつくほどステータスが向上することはない。


 しかし、グレッグは殴り過ぎてしまっていた。

 グランを侮り、嬲るために自身の技術を見せびらかした。

 

 グランは頑強によって増えた耐久力で多くの攻撃を受け続けていくなかで、グレッグの技術を学んでいく。

 体で覚える、それは冒険者たちの指導と同じであり、グランの得意な学び方であった。


 グレッグが冒険者の指導を受けているグランに一方的に攻撃を出来ていたのは、女神から貰った転生によるステータスボーナスのおかげである。

 そしてそのアドバンテージはすでに無くなっていた。


 拳の応酬は立場が逆転する。

 グランの拳がグレッグの顔に突き刺さり、その一撃は鼻の骨を砕き、鼻血を溢れさせた。

 

 グレッグはステータスボーナスと"剛腕"のスキルを持って生まれている。

 その力からすれば鍛錬など必要ともせず無敵であった。

 相手を一方的に殴り倒し、今までかすり傷すら負ったことがない。

 この世界に生まれてから10年間苦痛も苦労とも無縁だったグレッグに痛みに対する耐性などなかった。

 痛みとゲームに登場すらしていないであるグランに攻撃を受ける屈辱からグレッグは勝負に出た。


 グレッグは自身の全力を左の拳に込めて振るった。

 

 グランもまた自身の限界が近いことに気づいており右の拳に全力を込めて振るう。


 その一撃は早い。

 拳の応酬の時よりも早かった。


 グレッグは近づいてくるグランの拳を前に動くことすらできない。


 顔を完全に捉えていたその一撃をグラッグは堪えようとするが、出来ずに地面に倒れ伏した。


 グランはふらつき、肩で息をしながらも、少女の方を振り返る。


 グレッグは音もなく突如立ち上がりして後ろを向いたグランに殴り掛かった。

 

「お兄──」


 少女がグランに声を掛けようとしたとき、グランはすでに振り返り、構えている。


 それは今までで一番の大振りだった。

 肘を高くあげ、上から降りおらされた拳はグレッグを叩き潰し、地面でバウンドさせる。

 グレッグは完全に意識を失っていた。


 グランはグレッグを睨みながら深く深呼吸をする。

 再び振り返り、グランは少女にニカッと笑いかけた。


 グランが歩こうとした瞬間に足から感覚がなくなり崩れるように倒れこんでいく。

 少女が慌てて支えようとするが、体格的に無理があった。

 一緒に倒れこみそうになるが、横から支えられる。


「お疲れさまでした、グランさん。私も彼に説教しようと思っていたのですが必要なかったようですね。あら……」


 グランはすでに気を失っている。

 フレイアはグランに低級回復魔法ヒールを掛け、少女と一緒に孤児院に連れて帰った。

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