第7話 新たな出会い
グランは報告を終えたあと、ギルドの解体場へ向かう。
そこではキースが作業員と会話していた。
「魔獣のファングボアだな。素材の買取はどうする?」
「肉以外は全部買取で頼む」
「あいよ。しかしイノシシ狩りに行って、ファングボアとは災難だな」
「人を襲った形跡もなかったし、魔獣に成りたてだったからな情報と違うのは仕方ないさ」
グランは初めての場所だったため、解体場の作業員との交渉はキースに任せていたが大変気になることがあった。
「ファングボアって食べられるんですか?」
「「すげえ、うまいぞ」」
絶賛する二人にグランの肉への期待値が跳ね上がる。
解体が終わり、台の上に素材が並べられていった。
「牙が2本で銀貨20枚、毛皮は銀貨30枚、2つとも状態が良いからな、色を付けておいたぜ」
作業員が説明をしているが、グランの目は積み上げられた肉に釘付けだった。
捌かれたばかりの肉は綺麗な赤色をしているだけでなく、のっている脂が宝石のように煌めいていた。
「ほらよ、折半して銀貨25枚だ」
「討伐できたのはキースさんのおかげなので、折半なんて悪いですよ……」
「ガキが遠慮してんじゃねーよ」
キースが銀貨の入った袋を押し付ける。
「ありがとうございます。これだけあれば、家にだいぶ余裕ができます」
「肉も腐らせない分だけ持って帰れよ」
「てっきり肉も買取ってもらうと思ってたんですけど、こんなにたくさんどうするんですか?」
キースと合わせても1割も持って帰れておらず、まだ山積みの肉が台の上に残っていた。
「こんな良いもの商人に渡すわけないだろ。宴だよ」
キースはグランに笑いながら言った。
グランたちが解体場からギルドに戻ると、いつもより人が多くおり、みんなソワソワしているようだった。
そんな中キースが声を張り上げる。
「お前ら、ファングボア狩って来たから宴をするぞ。狩ったのはグランだ。お前ら感謝しろよ」
キースが言うと冒険者たちは口々にグランへ感謝を述べていき、慣れた手つきでグリルやコンロをギルドの前の広場に並べていく。
グランも手伝おうと動くと、他の冒険者達に止められ座っているように言われてしまった。
「キースさん、グラン君、孤児院の子供たちも連れて来て良いですか?」
「おお、今回のは大物だからな、いくらでも連れてこい」
「やった~」
カレンは言うと同時に孤児院に走っていった。
「こういうことって、良くあるんですか」
「うまい大物が取れた時はやるな。魔獣や魔物は食えないやつが多いが、食える時はだいたいこうなる」
冒険者達はニコニコしながら机を並べ、その上に受付嬢は皿やフォークを出していた。
併設されている酒場の店員は肉を切り分けたり、肉以外の食材の準備をしていた。
今日はギルドの営業は休みになるようだ。
「お母さんを呼んできます。肉が焼けたら勝手に始めてもらって構いません」
「あいつらに待つなんて行儀の良いことできるかよ。焼け次第勝手に始まる」
グランがエリスを連れてくるとすでに肉は焼けており宴は始まっていた。
ギルドの関係者以外も食べており、街の人や、商人なども混じっている。
中には肉のお礼と言わんばかりに、売り物の食べ物を提供している人などがいた。
エリスはまずキースに挨拶をし、息子がいつもお世話になっていると感謝を述べる。
二人の話は今日倒したファングボアになり、グランに怪我をさせてしまったことを、キースは真摯に謝っていた
その原因がグランが油断したために吹っ飛ばされたと、気付いたエリスは笑みをグランに向ける。
その目は笑っていなかった。
その場での説教はなく、エリスは他の冒険者たちにも挨拶をしてくるとグランから離れていった。
エリスが離れていくと今度はカレンが数十人の子供とシスターを連れて二人の前に来る。
「キースおじさんとグランお兄ちゃんがお肉を食べさせてくれるから、お礼を言ってね」
「あ、ありがとうー」
「おう、いっぱい食って大きくなれよ~」
キースはニコニコしているが、強面のせいか、子供たちはおびえたり、目をそらしていた。
カレンはそんな子供たちを連れて肉を食べに行く。
子供たちが移動する中、青髪で長髪の美人なシスターが一人残りグランに自己紹介をした。
「グランさん、初めましてフレイアと申します。本日はお食事のお誘いありがとうございます。子供たちも大変喜んでおります」
グランが挨拶を返した後、フレイアはキースに食事の件のお礼と、次はいつ孤児院に来られるかなどを話していた。
次に話しかけてきたのは、笑顔を浮かべた金髪の男性だった。
「こんばんは、キース。いや~、盛況だね」
「ライルさんお久しぶりです。こちらはグランです」
「グラダスの息子、グランです」
「グラン、この人はライルさんだ。あー、いずれお世話になるから覚えておけよ」
ライルは何かを内緒にするように、キースに合図をしていた。
「しかしグラダスさんの息子さんか…。あの人は優秀だった…まさかあんなことになるなんて」
ライルは笑顔を消し、悲しそうに目を伏せた。
「はっはっは、グランも優秀です。今日もファングボアを倒しましたし、あと数年もすればこのギルドでトップクラスになれますよ」
キースがそんな風に思っていると思わず、グランは顔を赤くし照れてしまう。
「なるほど、では俺も期待させてもらうとしよう。何かあれば言ってくれ。助けになるよ」
ライルはグランの頭を撫でながら言った。
「しかし、本当に久しぶりですね。何かありましたか?」
昔はキースとライルはよくギルドで顔を合わしていたが、最近はライルがギルドに来れておらず会えていなかった。
「会議ばっかりだよ。この後もまた別の街で会議、またしばらく帰れないかもな。最近も魔物が活発でそれの対応だよ」
ライルは肉を何枚か食べると、二人にお礼を言い去っていった。
グランもファングボアの肉を食べるために、キースと別れる。
初めて食べたファングボアの肉は今まで食べてきたイノシシとは比べものにならない味であった。
濃厚な肉の味でありながら、くどくはなく、口の中でとろける様な柔らかさである。
グランが食えるだけ肉を食べても、宴はまだまだ続くようであった。
すでに夜遅くなってしまっていたためグランはエリスと合流し家に帰っていった。
家に帰ったグランはエリスから油断して怪我をしたことを説教される。
徐々に目に涙を浮かばせながら説教するエリスに抱きしめられながら、グランは今後油断しないことを心に誓った。
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