第5話 カレンとグランと冒険者

 カレンは六歳であるグランがギルドでやっていけるか不安であったが、それは杞憂であったようである。

 グランはギルドに登録してから毎日ギルドに通っていた。

 

 ドブさらいをした次の日からは、臭いが移ってもいいように、替えの服も持っていくあたりグランは要領がいい子である。

 カレンとしては初日以外、グランがドブさらいをやったあとに体は洗わせようとはしなかったことは不服であった。

 孤児院で下の子のお世話をしていたベテランお姉さんにもっと世話を焼かれても良いと思っているようだ。


 数日を掛けて、グランはドブさらいを終えた。

 カレンが現場に出向き、ドブさらいがされていることを確認し、グランに報酬を渡す。

 数日分の食事になるであろう銀貨5枚を、キラキラした目で年相応に喜ぶグランを見てカレンはほっこりした。

 周りの冒険者もそんな姿を温かい目で見ており、一番温かい目をしていたのは初日にグランに話かけていたキースだった。


 カレンは口をとがらせながら恨めしそうな目でキースを見ていた。


(子供好きの世話焼きのキースさん、そんなに子供の世話を焼きたいならもっとうちの孤児院に来てくださいよ。フレイア姉さんが寂しがってたし)


 グランはそれからも休まず、雨だろうと暴風だろうと雪であろうと仕事をした。

 雑草取りや、迷子のペット探し、商店の手伝いなど、報酬が安くても迷わず引き受けている。

 そんなグランも別の場所のドブさらいを頼まれた時は少し嫌そうにしていた。


 カレンが街を歩いていると時に、グランを見かけることがあった。

 グランはカレンの出身である孤児院の花売りの少女と話している。

 少女は孤児院の運営の費用の足しにするため、庭の花を集め売っているのであった。

 グランは財布と見つめあった後、少女に大銅貨を一枚支払い花を10本受け取る。


 お金をあまり持っていないにも関わらず、ちょっと背伸びをするグランはカレンにとって愛おしかった。


(良い子だ、お姉さんがいっぱい可愛がってあげよう)




 グランはカレン以外のギルドの人達からも人気がある。

 ドブさらいなどは街の運営に必要な仕事であり、誰かがやらなくてはならなかった。

 ただその大変さから、いつまでも依頼が残ってしまい市民から苦情が来てしまうからことがギルドにはよくある。

 グランが来てからはどんどん依頼を処理していくため、そのような苦情は来なくなった。

 逆に"掃除に来るのが早い"、"前よりも丁寧できれい"であるなどお褒めの言葉をいただくようになっている。

 ギルド職員にとってグラン様様であった。


 それは冒険者にとっても同じであり、グランがやらなければ別の冒険者がドブさらいなどをやる必要があった。

 グランがやってくれることをみんな感謝している。


 そんなグランは皆に弟分のように気に入られていた。

 冒険者達はそんなグランに冒険譚を話したり、武器の稽古や罠の作り方などの指導をし始める。


 そこでグランの悪癖が出る。

 グランは強くなるために必死であった。

 どんなにボロボロになろうとも稽古を途中でやめなかったのである。

 冒険者といっても荒くれ者と紙一重であり、指導が上手いものはそう多くはいなかった。

 基本的に体で覚えるものという考え方である。

 稽古用の木製の武器であったが、実戦さながらに打ち合う指導が多かった。

 グランはボロ雑巾のようによくなっていた。

 カレンは何度か稽古をとめようとしたが、グラン本人がそれを拒否をする

 。

 グラン本人にもなぜそこまで強くなろうとしているのか分かっておらず、心の奥底で何かが燻っているようであった。


 冒険者たちもボロボロになってまで稽古をするグランを見るのは辛く引き受けたくないと感じていた。

 だがグランがお願いしたらきちんと稽古をつけ始める。

 カレンにはそんな冒険者達のどうしてそうするのかわかっていた。

 カレンに稽古をつけることはできないが、もし何か頼まれればいつでもグランの助けになるつもりである。


(グラダスさんは面倒見が良かったから、それをグラン君に返そうとしてるのね。私も初めのころに嫌な冒険者に絡まれたときなんか、助けてくれたりしたな)


 そんなことを考えているとグランはギルドにやってきた。

 掲示板から依頼書を一枚取りカレンのカウンターまでやってくる。


「おはようグラン君。今日は何をするの?」

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