第3話 親切な冒険者

 グランは受付嬢と別れてから、ギルド内にある依頼の掲示板を眺めいていた。

 掲示板には数十枚の依頼の紙が貼られており、依頼内容としてはCランクが最も高く、最も低いものはFランクで薬草の採取である。

 採取といっても、薬草は街の外の森に生えており肉食動物、魔獣、魔物などが現れないとは限らなかった。

 安全とは言い切れない。


 もっと安全な依頼がないかと探していると、不意に首根っこを捕まれた。

 グランの頭上からぶっきらぼうな声が降りてくる。


「ガキ、ここはお前がくるところじゃねえ」


 首根っこをつかんだ凶悪な顔をした男は、威圧的な雰囲気をまといながらグランを部屋の隅に運んでいった。

 運ばれたグランの前にはこじんまりとした掲示板が置かれており、数枚の依頼が貼られている。


「あっちは街の外に出る依頼で、お前みたいなガキはこっちの街の中でやる依頼がお似合いだ」


 張られている依頼の内容は庭の雑草抜きや、ドブさらいなど街の中の依頼であった。


「ありがとうございます。街の中の依頼を探してました」


 探していた安全な依頼を見つけれたためお礼をいうと、お礼を言われることに慣れていないのか男はたじろいでいた。


「お、おう。どの依頼を受けるんだ?」


「このドブさらいを」


 ドブさらいは張られている依頼の中では大変であるが、報酬が一番良い。

 育ち盛りのグランに食べさせるため、エリスは目に見えて自分の食べる量を減らし始めていた。

 それがグランがエリスの反対を押し切ってまで、ギルドに登録した理由である


「それなら、布で口と鼻をカバーしておけ、臭いもキツイし病気になるぞ。道具はギルドで借りられる。借り方は──」


 教え慣れているのか、男は仕事に必要な情報をテキパキとグランに教えていく。


(この人、強面だけどすごい親切だ)


「道具は……、ガキだからな。すくう回数は多くなるがは小さくて軽いほうにしておけ。……おい、聞いているか?」


「はい、いろいろ教えてくださってありがとうございます」


「ふん、分かっているならいい。じゃあな」


 それだけ言うと男は顔を背け、ギルド内に設置されている椅子に座った。

 彼が椅子に座ると周りに他の冒険者たちが周りに寄ってきて、ニヤニヤと話かけている。

 他の冒険者と話しながらも、彼はちらちらとグランの様子を窺っていた。


 依頼書を手に取ったグランはドブさらいの依頼を受けるため、冒険者ギルドに登録をしてくれた受付嬢のところへ向かう。


「街の中の依頼が別の場所にあるなら、教えてくれてもよかったのに」


「あはは、ごめんね~。街の外へ飛び出して行かないか、人に聞くことができるかのテストだったのよ。グラン君はちゃんと街の中の依頼を探そうとしてたし合格だよ」


 受付嬢は依頼の事務処理の手を止め、ニヤニヤしながらグランの頭を撫でた。

 

「この依頼はまだ期限に余裕があるから、明るいうちに帰ってきなさい。じゃ頑張ってね」


 手続きが終わり、道具を借りたグランは仕事の場所へ向かっていった。

 グランに色々教えていた男は、グランがギルドを出ていった後も心配そうな顔をしている。

 その凶悪な顔に似合わない表情に周りの冒険者たちは笑っていた。

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