第44話 マントの男との再会

「…聞いてはいたが、…君はなんて無茶をするんだ…」


一応、ひと通りギルドでの内容を説明すると領主様は苦い顔でこちらを見る。


「…君は早くにDランクへと上がり、簡単に考えているかもしれないが昇格試験は甘くない…」


そう言われ、コンコンとお説教を受ける。


正直全く響いていないが、コチラを心配してのお話なので神妙な顔で聞くだけは聞いた。


「…ひとまず、罰金等のその後についてはコチラも考えてあげるからすぐに昇格試験の取り消しをしてきなさい」


「……。…いえ、あの大丈夫です…」


「…」


私の譲らない態度にお互い無言で見つめあっていると、横から銀髪碧眼のイケメンが口を挟んできた。


「おい、お前。いい加減にしろよ…

…嵌められた事くらい、気づいてるだろ…

…何を意地になっているのか知らんが、お前のような子供に太刀打ち出来るような相手じゃないんだよ…」


クールな色合いとは反対になかなか激情家のようだ。


横からはゾイドさんが止めようと肩に手を置いている。


「…お前は知らないだろうが、同じような手口に何人も引っかかってるんだ。たとえ運良くランクの正当性が認められようと怪我をすれば全てが終わる」


苛立った低い声で話し続けるのを領主様が止めないのを見ると気持ちは同じなのだろう。


「…試験の最中に怪我を治すためのポーションを使えば全て本人へ請求が行く。試験の費用もポーションの代金も、…不測の事態があった時は救出するための依頼料や負った怪我が酷ければ酷い程、後で請求される金額は高額になる。

…払えなければ結局は借金奴隷となり奴の所へと渡される事になるんだぞ!

…今まで、このパターンで無傷だった者は誰一人としていない!」


…なるほど。聞けば聞く程あの司教のタチの悪さがわかるな。


「…えっと…私、ポーションはそれなりに持ってるので…怪我に関しては大丈夫かな…と」


怪我の心配はしていなかったが、どうせなら後で上級ポーションまで作ろうとコッソリ心に決めた。


「…お前、どこの家の者だ…?」


「…?」


急な話の転換に驚いて銀髪イケメンの顔を思わず見つめる。


「…始めは、金を返しに来たなんて口実で相談する為来たのかと思っていたが…お前は本当に金だけ置いてサッサと帰ろうとするし…これだけ話しても慌てる様子もない。

…おまけに低ランクで所持する事は難しいポーションを普通に所持して…しかも、それなりって事は一本二本じゃないだろ……普通に考えて、可笑しい事ばかりだ」


「…」


…あれ、ポーションって貴重なの…?


私の目が泳いだのを見て、銀髪イケメンが更に圧力をかけてくる。


「…お前、何者だ…?」



…この質問…2回目だなぁ…



「まぁまぁ、落ち着いて。リックの気持ちはわかりますがこんな小さな女の子に対してそのように一方的に責めるものではありませんよ」


緊迫した空気を壊してくれたのは側近のゾイドさん。

落ち着いた声で諭すように声をかける。


「…色々と気になる事はありますが、ひとつだけ確認させて下さい。

…ミサト様、あなたはこの昇給試験に受かることが可能なのですか?」


「…落ちる可能性はほぼ無いかな、と思ってます」


「わかりました」


「…!」


「…おい、ゾイド…」


驚いた顔でゾイドさんを見る銀髪と困惑した声をあげる領主様。


「ここまで言うのです、この際、本人にお任せしてみるのも良いでしょう。…それに、これで少し時間も出来ますし、対策を考える事が出来ます」


納得は出来ていないようだが、私が折れる事もないと感じたのか領主様はそれ以上昇給試験について何も言ってくる事はなかった。


その後、領主様のご厚意により、せめて宿よりも安全な領主様のお屋敷への滞在を進められた。


昇格試験の前に何かあってはいけないと説得され、(断ったらそれならば金貨を受け取れと無茶な要求の押し問答が始まったので)今回はこちらが折れる形となった。


宿の方には領主様が連絡をしてくれるそうでそのまま屋敷の案内へと移行する。…宿の荷物は後で届けてくれるそうだ。


領主様はやはり忙しかったらしく呼びに来た使用人に急かされ仕事へと戻り、結果…銀髪イケメンのリックに屋敷を案内される事になった。


正面から見えた本家の裏側に大きなお屋敷がもうひとつあり、其方のお部屋を借りることになった。


…部屋というよりもマンションのワンフロアという表現の方が合いそうな広いお部屋な上にバルコニーまで付いている。


「…俺もこの屋敷に世話になってるから…何かあれば訪ねてこい…

…お前を信用した訳ではないが、…怒鳴ったのは悪かった…」


部屋の豪華さと広さに驚く私へぶっきらぼうにそう言ってリックは去っていった。


うーん…悪い人ではないのかな…?



部屋の中を見て回っていると扉を叩く音が響いた。返事をするとゾイドさんが顔を出す。


「ミサト様。少しお話があるのですが…」


ひとまず部屋の中へと招き入れ、神妙な面持ちのゾイドさんと向き合うと、後ろからワゴンを持った使用人が現れてお茶を入れてくれた。


お茶とお茶請けを用意した使用人が去っていくとゾイドさんが話し始める。


「…こんな事を初対面に等しいミサト様にお願いするのは、とても図々しいと承知しておりますが…

…もし可能ならば手持ちのポーションをいくつかお譲り頂けないでしょうか…?」


頭を下げる勢いでお願いされて、私は呆気に取られた。


てっきり、私の事について色々と聞かれるかと思ったのに…



「もちろん、試験の時に必要な分まで寄越せというわけではありませんし、お金も正規のお値段より高くお支払いします…。

…たとえ一本でも良いのでお譲り頂けないかとお願いしたく…」


「いや、あの、ポーションは良いのですが、一体どういう事ですか…?」


必死な様子のゾイドさんに驚いて、思わず理由を聞く。

お金が無いわけでも無さそうだし、ポーションが必要なら普通に手に入れれば良いのではないだろうか…?


私の疑問を感じ取ったのか、ゾイドさんが理由を説明し始めた。


「ポーション類は教会の管轄になりますので司教様との御関係でなかなか仕入れにくい状況と、こちらにもポーションを必要とする理由がありまして…」


司教関係でポーションの仕入れが難しくなってるのかな…?


それにしても、ポーションなんて滅多に使わなさそうな物だけど…


「…その為、このお屋敷にて現在ポーションが不足しております…」


「ポーションを必要な理由っていうのは…?」


「…それは…大変失礼な事に…申し上げられないのです…」


…うーん…なるほど。


「良いですよ」


「…!」


別に正規の値段で買ってもらえるなら問題ないし、ギルドが買取を停止するなら、こちらもわざわざギルドに拘る義理もない。


理由は教えて貰えなかったけれど、そこまで知りたいわけでもないので…まぁ、いいや。


とりあえず、10本くらい渡せば良いのかな…?


鞄にポーションを移してゾイドさんへと渡す。


「え…、あ、いや、少しお待ちください。…1〜2本お譲り頂ければ有難いと思っていたのですが…え、こんなに…?」


何やら慌てた様子のゾイドさんだが、我に帰ってこちらを向く。


ちなみにポーションは小さな小瓶だ。


「ミサト様。…金貨の件でもお伝えしようと思っていたのですが、高価な物を簡単をお渡ししてはいけません。

もし、わたしがこれらを受け取ったにも関わらず、知らない、受け取ってないと言い出したら困るのはミサト様なのですよ。

…金貨も同じです…もしも門番が不心得者であったなら、懐に入れて誰にも知られる事なく奪われていたかもしれません」


…何故かお説教モードになったゾイドさんに私は叱られた…。


そこら辺は精霊達もいるし、一応人柄は見ているから大丈夫なのに…。


私は、正直理不尽な気持ちいっぱいだったが…コチラを心配してのお説教なので大人しく、本日2度目の神妙な顔を作る事にした。


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