第43話 領主様のお屋敷
とりあえず、昇格試験に付いては大体1週間後くらいに試験内容を知らされる事となった。…これで、しばらくは街を出ることは出来なくなった。
予定がズレてしまったが、もうこれは仕方がないな…
ちょっと腹が立ったし、どうせ街を出ていく予定だったのだ。それならそこまで気を使う必要もないだろう。
…それに、こんな風に理不尽に冒険者の経歴に傷をつけてくる相手に腹が立つ。相手の思惑に乗るぐらいなら多少面倒でも、冒険者ギルドのランクを上げる事ぐらいなら大した手間でもない。
まぁ、ただ…どこまでやって大丈夫なのかっていうのが問題なんだよね…。
ひとまず、相手への苛立ちは昇格試験まで温存し、今は気持ちを切り替えよう。
試験内容が知らされるまでの1週間…まだまだ時間に余裕があるので、私は街を出る前に元々向かうつもりだった領主様のお屋敷へと行く事にした。
教会は絢爛豪華なものだったが領主様のお屋敷はまた違った趣で、外から見ても歴史を感じさせる荘厳な建物だった。
高い鉄柵で囲われており、隙間から見える柵の中の庭はもちろん広大で、噴水等の奥には大きなお屋敷が見える。そして、その奥や横等の周辺には別邸のような建物がいくつもあるように見える。
貴族だと言っていたし、なんだかお屋敷というよりはヨーロッパ系のお城と言った方がしっくりくるような造りになっている。
正面の門には立派な鎧を来た兵士が見張りに立っており、こんな所を私が歩いて訪ねていったら門前払いされそうな雰囲気だ。
…いや、たとえこの門を通して貰えたとしても門からお屋敷までは中々の距離があるし、正面玄関まで歩いて行くのはとても大変そうだ。
…この門はきっと馬車や馬で訪ねてくる相手を想定した門なのだろうな。
奥行きが見えないのでどれ程の広さかはちょっとわからないがこの領主様の住まいがとても広くて大きい事だけは理解した。
正面の門を横目に通り過ぎ、領主様が言っていた北側の出入り口へと向かう。
鉄柵沿いに歩いて向かったのだが、敷地が広くて辿り着くまでに思っていたよりも時間がかかってしまった…。
辿り着いた北側の門はしっかりとした造りの割にとても質素だった。
多分、こちらは業者や使用人達が出入りする門なのだろう。
質素な門ではあるが、門自体は大きく荷物なども搬入出来そうな大きさだし、造り自体もしっかりしている。門の横には門番が立っており警備も万全だ。
正面の門のような重厚感もあまり感じないので確かにこちらの方が声もかけやすい。
「…あの、すみません」
私の声掛けに門番の人はハッとした後にこちらを向き、少しだけ警戒するような不審な者を見る視線を向ける。
その様子に疑問を感じて自分を振り返ると認識阻害をかけたままだった事を思い出した。
認識しづらいように存在が薄く、軽く話すぐらいでは女だとわからない認識阻害の魔法を掛けていた事をすっかり忘れていた。
魔法を解除しながらフードから顔を出す。
門番は私の顔を見ると驚いたようなポケッとした表情になった。
「…あの、領主様から伺う場合はこちらへと声をかけるようにとお聞きしたのですが…」
私の言葉にハッと気が付き、こちらへと向きなおるとなにやら納得した様子で頷き始めた。
「…あぁ。…大丈夫、聞いているよ。
…なるほどな、これは目をつけられてもしょうがないなぁ…
あ、今、連絡を入れるから少し待って貰えるか」
門番の人は私の事を聞いていたようでフードから顔を出すと納得したようにどこかへ連絡をしようとする。私は思わずそんな門番を引き止めた。
「あ、あの。…領主様に会いに来たわけではないのです」
「…?」
門番は再びコチラを向いて不思議そうな顔をする。
「…これをお返ししたくて…」
そう言って差し出したのは領主様に渡された金貨2枚。
一応、ハンカチには包んであるが不審物ではない事の確認に中身を見せる。
「…な、これは?」
「領主様がご厚意で用意してくれたのですが…お返ししたくて…」
私が困ったように伝えると門番の人は少し驚きつつこちらを見て苦笑する。
「…こんな大金をヒョイヒョイと預かる事は出来ない…。…ちょっと待っててくれ」
そう言うと何かベルのようなモノを鳴らした。
「…何かあったのか?」
奥から別の男が出てくる。門番は今のやり取りを説明すると出てきた男も少し驚いたような表情へと変わる。
そして、こちらへと向き直ると申し訳なさそうに声をかけられた。
「お嬢さん、お嬢さんの事は一応通達されているが、その…お金の話は初耳だ。確認を取るから中で少し待っててくれないか…?」
そう言われて、私は門の中にある休憩室のような場所へと案内された。
コンコン、ガチャ
「こんにちは、お嬢さん。…さっそく訪れたと聞いて何か困った事が起きたのかと思えば、まさかのお金の返金だと聞いて驚いたよ」
お茶とお菓子を頂いて待っていれば、暫くして軽快なノックとともに領主様が現れた。
あれ?…貴族…と、いうか領主様ってこんな気楽に一般人に会ったりする…?
うっすら混乱しつつもひとまず挨拶を返す。
「…こんにちは。
あの、お忙しいところにお手間をおかけして申し訳ありません。…今日はこちらの金貨をお返しに来ただけですので…」
だからわざわざ領主様本人が来なくても大丈夫です…と、そう言外に含めつつ金貨を机の上へと置く。
「…いやいや、それはお嬢さんに差し上げたモノなのだから返しになんて来なくて良かったのに…」
「…いえ、気持ちだけで十分です。ありがとうございました」
そう言って、立ち上がって頭を下げると領主様は少し驚いたような顔になっている。
「…お仕事の邪魔になるといけませんので、私はこれで…」
「…あ、いや、ちょっと待ちなさい」
私が辞去の挨拶を始めると少し慌てて引き留めるように声を掛けられる。
私がキョトンとした顔で領主様を見れば何やら困惑した顔でこちらを見ていた。
「…本当に…何か困った事があって来たのではないのかな…?」
「…いえ、あの先ほども言いましたが、こちらの金貨をお返しに…」
領主様は何やら少し考え込んだ後にこちらを向き、少し困ったように話し始めた。
「…いや、実はね…冒険者ギルドでの一件をちょっと小耳に挟んでね…」
…
…昨日の今日で小耳に挟めるなんて随分大きな小耳だ。…まぁ、情報は大事なので、それだけ優秀という事なのだろう。
「…それは、お耳汚しを…」
少し呆れた顔で領主様を見ながら立っていると領主様が目の前のソファへと移動する。そして、そんな領主様の後ろには見覚えのない男と見覚えのある男が続いて入ってきた。
「…とりあえず、その辺についても詳しい話を聞きたいので、もう一度座って貰っても良いかな」
領主様にそう言われてしまっては仕方がない…。
私は渋々ともう一度ソファへと座り直した。
「あぁ…それと、こっちは私の側近のゾイドと…縁戚のリックだ」
見覚えのない男は側近のゾイドさん、そして見覚えのある以前ギルドで会った銀髪碧眼で王族なマントの男はリックという名前で紹介をされた。
…今日はあのマントを着ていないようだ…。
彼が初対面のような雰囲気で爽やかに挨拶をしてきたので、私もそれに合わせる。
…しまったな。…あの時、後でベルに王族についての情報を教えて貰おうと思っていたのにすっかり忘れてた…。
悪い人では無さそうだが、神聖国の王族には良いイメージもない。あまり関わらないようにしようと思い、最小限の簡単な挨拶が終われば意識を領主様へと戻す。
そんな私の様子に領主様達が何故か驚いているようだった。
…まさか、銀髪碧眼のマント男に見惚れない事を驚かれているなんて私はカケラも想像もしていなかった…。
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