第42話 ギルドと教会

こうなってくるとさっさと残りの薬草を売ってこの街を出ようかと思う。


ギルドで薬草を納品か…ポーションも売ろうかな…。


実は私、この短い道中に薬草からポーションを作れるようになっていたのだ。


ファンタジーの定番、ポーション。


作れたら良いなぁと思ってやってみたら結構簡単に出来た。とても簡単だった…。


歩いている片手間に出来た。


流石にエリクサーは作れない…いや、作ってない…あれ、ひょっとしてエリクサーっぽいのも作れたりするのかな…?


…まぁ、とりあえず薬草をポーションにすることが出来たので、いくつか…いや、ちょっと多めに…まぁ…それなりの量を作ってしまったのだ。


どれくらいの値段になるかわからないので一度確認してみたかったし、いくつか売ってから街を出よう。


そう考えを纏めながら宿へと戻り、明日には冒険者ギルドへと向かう事にした。 




「大変申し訳ありませんが、現在ミサト様からの納品は受け付ける事ができません」


「…え?…あの、どういう事でしょう…?」


翌日、ギルドにてあの表情とのギャップ萌(?)な受付に納品を断られた。


「…ミサト様は現在ランクの不正を訴えられています」


顔は不機嫌そうだが声は困ったような声音だ。


「…ランクの不正ってなんですか?」


「…実は、さる御方からランクの不正疑惑を訴えられている為、ギルドにてランクの見直しを行う事が決定致しました」


…は?


「おそらく…不正の訴えは認められ、ミサト様のランクは下がる事になるでしょう。…そして、相応の罰金も科せられると思います」


顔はとても不機嫌そうに見えるが話声はとても申し訳なさそうな、同情するような声音だ。


「え…あの、不正なんてしてないんですが…。

どうしてそんな事に…?」


「…ミサト様の不正を訴えられている方が社会的に地位が高く、更に教会の名前を出しての訴えなので…信頼性が高いと判断され、ほぼ認められる可能性が高いと思われます…」


社会的地位の高い教会関連なんて、あの司教しかいないだろう。


…動きは鈍そうなのに行動が早いな…




「…あの、本当に不正などしていないのですが、ギルドはキチンと調査して頂けないのですか…?」


「…」


私の質問に受付は口を閉ざす。

きっと、それが答えなのだ。


「…では、私のランクが不正ではないと証明する方法はないのですか…?」


「…一応…再調査を申し込む事は出来ますが、基本的には結果が変わる可能性は低いです。…それに、再調査の結果が同じだった場合、更なる減点と罰金が科されるのでオススメは…出来ません…」


あー…つまり、再調査をしても持ってくる情報はおそらく同じなのであまり意味が無い…その上に…無駄にさせられた再調査の費用を罰金という形で請求の上に手間をかけさせた事への減点も追加されるのか…。


「…ランクの証明として、他にも一応昇格試験の申し込みをする事も出来ますが…」


「…昇格試験…ですか?」


「はい。こちらは正規の高位冒険者による判定が行われるので確実に正統な評価を下されます。…しかし、そもそも上のランクに上がるための試験の為、Cランクに値するか実力を測る内容になるので相応の危険が含まれます。

Dランクに上がったばかりのミサト様には厳しい内容でしょう…」


つまり、通常なら何をしても無駄な抵抗ということか…


…は、…独立機関の冒険者ギルドが聞いて呆れるわ。


静かに苛立ちを募らせる私に受付はコッソリと周りには聞こえない小さな声で続ける。 


「…通常、…他の国ではこのような事は無いのかもしれませんが、この国では教会の影響力と信頼度が高く…今回のことは運が悪かったと早めに諦めて移動する事をおススメします」


「…」


「ミサト様はまだお若いですし、頑張ればきっとまたすぐにランクは上がります。

…今後、出来れば教会の方とは関わらず、この街…いえ、出来れば早目にこの国から移動する方が良いでしょう」


早口で伝えられる言葉。

周りに聞こえないように話すという事は、多分教会関連への批判と受け取られる内容は聞かれたら拙い内容なのだろう…。


変わらない不貞腐れた顔だが、この受付はやっぱり優しい人なのだ。


「…お約束は出来ませんが、この国意外での再調査ならば結果は違うかもしれません。資料室に地図や他国の資料もありますので出来れば早めに移動を…

…そして、教会へとの関わりは今後控えるのが良いかと思います」


同情を滲ませた声で一生懸命出来る限りのアドバイスまでしてくれる…


なんとなく、…こういった事態は初めての事ではないのだろうな、と思った…


うーん…



「あの…昇格試験を受けます」


私の言葉にギルド員の不貞腐れた表情が一瞬固まる。

そして我にかえったようにこちらへと向き直る。

その表情はまるで怒りをぶつけてメンチを切る輩(ヤカラ)のようだ。


「…あの、昇格試験は確かに正当な評価はしてもらえますが、そもそも命の危険がそれなりにある試験なのです。

…魔獣を討伐する場合が多いですし合格するような者でも負傷する事が多いような…

…とても危険なものなのです」


「…大丈夫です」


「…いえ、普通にランクを上げるよりも遥かに厳しい内容の為怪我だってしますし、一応試験官は付きますが基本的に助け等ないも同然です…

むしろ、実力不足だと判断されればペナルティとして罰金等も発生しますので…」


ギルド員は何とか私を説得しようと頑張っている。



「そこまで受けたがるのなら受けさせてやれば良い」


後ろから別のギルド員が出て来た。

なんだか嫌な感じの若い男だ。


「本人が希望しているのだからさっさと受け付けてやればいい」


男はニヤニヤしながらこちらを見ている。


…ちなみに今日はマントのフードを被っているので顔は出してない上、軽く手を加えた認識阻害もかけているので幼い女の子には見えていないはずだ。


「…いえ、しかしですね…」


心底面倒そうな表情なのに、心配そうな様子の声を出す受付は多分困っているのだろう…。


「…大丈夫ですので申し込みをお願いします」


キッパリともう一度そう言うと受付の表情がみるみる内に憎々しげにこちらを睨みつける表情へと変わる。


「そこまで言われるのでしたら、わかりました。ギルド試験については日時と内容を後日お伝えします。

…もし、考え直したい場合には早めのご連絡をお待ちしております」


睨みつけるような顔とは正反対のとてもとても心配そうな声でそう言われた。


ここまで顔と言葉が合っていないのはいっそ清々しいな。


ニヤニヤした男はその様子を確認して去っていく。


その後ろに不穏な色を発する光の玉がいくつかくっつけて…。


ベルが私に向かって良い笑顔を向けてきた。


…よし、私は何も見ていない。

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