第36話 【レオン・ブライドside】

今までずっと上手くいっていたのに…


この町で俺は特別な存在だった。 

裕福な家に優秀な頭脳と人よりも優れた容姿を持って産まれた俺は当然の如く周りの大人からチヤホヤされて育った。


両親はそれぞれ仕事で忙しくて中々会えなかったが、どちらも俺には甘かった。なんでも言えば買ってもらえたし、願って叶わない事の方が少ない幼少時代だった。

商会に雇われた奴らは俺に逆らえなかったし、町の奴らだって、この町で唯一薬を扱う俺の家に目をつけられればポーションどころか傷薬さえ売って貰えなくなる。


誰も俺を蔑ろに出来る奴はいなかった。


俺は実家が裕福なだけでなく俺自身が優秀な上に容姿も優れていた為、当然年頃になれば女共が寄ってきた。他の者達とは違う特別な存在なのだから自然の摂理だろう。


そして、そんな特別な存在の俺は当然こんな小さな町だけで満足する事は出来無い…。


名を上げたいと思い、考えた末に辿り着いたのは冒険者だ。


親の反対を押し切って冒険者として登録した後も俺の優秀さはすぐに発揮された。他の者が必死で辿り着くCランクにも他の者とは違い、すぐに到達することが出来た。


これは、人よりも優秀な俺には当然の事だろう。


馬鹿みたいに鍛えなくとも頭と金さえ使えばランクなんてすぐに上がる。頭と要領の良い俺の手にかかればこんなの簡単だ。


親だって、すぐに認める事となった。

うるさく言っていた“命の危険”も、しばらくすればうるさく言われる事はなくなった。


俺の安定したランク上げを見て安心したのだろう。


ランクが上がれば客に自慢げに話していた事も知っている。


ただ、俺が自分の力で上げたランクを“自分達の協力のお陰でランクアップした”と自分達の手柄のように言うのは少し図々しいのではないだろうか。


確かに育てて貰いはしたが、それは親として当然の事だし…むしろこんな優秀な息子を持てた事を感謝するべきだ。

 

冒険者の中には偶に“全てを自分の実力だと思うな”とか“お前の実力は大した事ない”と言ってくる奴もいるが、俺の優秀さを妬むのはやめてほしい…。


まぁ、そんな奴らは俺の実力(権力)でボコボコにしてやったが…


その内にそんな事を言うような奴もいなくなった。


だいたい…手段として冒険者を選びはしたが本来ならこんな野蛮で暴力的な組織は、特別な存在の俺には似合わない。もっと優雅で煌びやかな場所の方が俺には合っている…。


まぁ、しかし…周りに認めさせるには1番簡単で分かりやすい手段だったのでそこは仕方ない。


冒険者となり順調だった筈のランク上げだが、Bランクにはなかなか上がらずイライラしている頃にアイツがやってきた。


たまたま昼間っからギルド内で飲んでいる時に、目をキラキラさせた場違いな美少女が入ってきた。


この町では見たことのないような綺麗な少女だった。珍しいデザインの上質な服に手入れの行き届いた綺麗な黒髪を持つまだ幼さの残った…しかしどこか大人びた雰囲気を持つ少女だった。


いつも周囲にいる女達とは違う、可愛いくて大人しそうな綺麗な少女に目をひかれた。


すぐに受付の女に奥へと連れて行かれた為、その日はそれ以上見る事は出来なかったが、出来ればもう少し見ていたかった。


ちょうどうるさい女には飽きてきた所だ。万が一あの少女がギルドに登録するのなら面倒を見てやっても良いかもしれない。


そんな風に思いながら気にしていると、あの少女はギルドへと登録し薬草採取の依頼を受け始めた。


楽しそうに薬草を卸しているが、どうやら見た目通りに弱いのか魔獣等を狩る事はせず、初心者が最初に採るような薬草を納品している。


俺のパーティに入ればあんなチマチマした依頼ではなく討伐にだって連れて行ってやるのに…


いつもいる女共が何やら面白くなさそうにしているが、コイツらにはもう興味が湧かない…


せっかく声を掛けてやろうと思ってもなかなかチャンスが無い…


そんな時、ちょうど実家の親から声を掛けられた。最近登録したばかりの薬草を納品している冒険者についての心当たりを聞かれたのだ。すぐにあの少女の事だとわかった。


何やら貴重な薬草を持ち込んだらしく、入手先を知りたいと言われたので今度こそ声をかけることにした。


両親は基本的に貧乏人は相手にしない。そんな両親の話題に上がるということは、あの少女は有力なコネでも持っているのだろう。


自分の横に並ぶには相応しい人材なのではないだろうか…。


…そう思って、せっかく声を掛けてやったのに邪魔が入った。


しかも、俺の特別さを理解できない脳筋野郎がギルドランクの減点だとかなんだとか…、俺に嫉妬する雑魚がまだ居たのかとゲンナリする。


面倒だが、そっちはまた金でどうにかすれば良い。


それよりも、あの少女だ。


こんな幸運を理解せずに、遠慮しているのか恥じらっているのかすぐに返事をしない事にイラつく。


…しかし、近くで見たらますます手に入れたい気持ちが強くなった。


ギャンギャンとうるさい女共も邪魔なだけなので、もういらない。


実家からも催促され、もう一度話をしようとした。


…なのに何故か会えない。

ギルド内では見張られている為、外で出待ちをしているのにまるで何かに邪魔をされているようにタイミングが合わない…


仕方がないので実家の力を借りようと思ったら、実家の倉庫にある薬草が枯れ始めた。


仕入れた薬草が何故か突然大量に枯れ始めたのだ。


基本的にこの町でポーション関係を作れる薬師はウチの店で囲い込んでいる為、このままでは大変な事態となる。


両親は駆け回り、実家は俺に構う余裕等なくなった。


そんな時、聖女と貴重な薬草畑が現れたらしいとの極秘情報を知らされる。


町の北にあるボロい教会に聖女様が訪れたらしく、薬草畑を作ったとかなんとかと店の者が言っていた。


もし、この町に貴重な薬草畑が出来たならポーション関係を独占していたウチの商会は更なる独壇場となるだろう。


薬草畑の薬草は貴族御用達の貴重なモノらしく、手掛ける事になれば、今とは比べ物にならない程のお金と権力が手に入るだろう。


町の薬草畑なら当然町のものになる。そして、町で薬草を調合出来るのはウチの商会だけだ。


これは、商会にとって素晴らしい歓迎すべき出来事であった。


…商会の者は皆そう思っていた。

勿論自分も例外ではなくそう考えていたのだが…結局、薬草畑の管轄は国や町ではなく教会のモノとなった…。


教会の大元は神聖国であり、神聖国はポーション類の本家本元ともいえる。


実家の商会が囲っている者とは比べられない程に優秀な薬師を揃えているだろう。


…こうして、薬草がウチに回ってくる見込みは儚くも消え去った。


しかも、冒険者ギルドはその薬草畑の発見に協力したとかで、一定期間の間何割かの利益と薬草から作られるポーションを安く提供される事になったらしい。


独占していたポーション類がギルド関係からこの町に安価で出回れば、ポーション関係でほぼ利益を占めていた俺の実家には致命傷だ…。


しかも、今はただでさえ保管されていた薬草がダメになってしまい損害が酷い状況である。


実家から薬草の情報はもう必要ないと言われ、協力は当然のように断られた。


その上、今まで出していたお金ももう出せないとも言われた。


手元の金もほぼない為、金を稼ぐ為にずっと避けていたギルドに行くとランクを下げられた。


そもそも、金のために割りの良い討伐に行きたくても護衛も雇えない。


一緒にいた女達は、こちらが捨てる前に消えていた。



今まで下に見ていた冒険者達からばかにされても、今の俺には報復する手段もない…。


どうしてこんな事になったんだ…?


おれは優秀で特別な存在の筈なのに…


…いったい、どこで何を間違えたのだろうか…








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