第35話 終息

あれから二日程後にギルドから通達が出た。


“この町の北の教会にたまたま訪れた聖女様が薬草畑をお作りになられた”との事らしい。


教会管轄となる為一般人の立ち入りを禁止されたが、もともと人が訪れるような場所でもなかったので特に問題もなさそうだ。


町でもギルドでもその話題でいっぱいだが、そこまで影響を受ける者もいないようでみんな驚きと共に好意的な反応をしている。


私の監視期間も終わり、薬草採取にも再び行けるようになった。


そして、なんと報酬額が思った以上に良かった上にギルドのランクが一つ上がったのだ。


ふむふむ。…あれ?…ふと、気がついたのだが…聖女様が薬草畑をお作りに…との通達。これは、よく考えれば最初の予定通りではないか…?


もともと、聖女様がいるから安心してあの薬草畑を作ったのだ。

そして、私の持ち込んだ貴重な薬草の入手先もこれで重要な情報では無くなった筈…。


遠回りしたけれど結果オーライなのではないだろうか。


冒険者ギルドに登録して、お金も手に入れてこの世界にも少し馴染めたと思うし、旅立つ準備もほぼ整った。


唯一の気がかりであるエリスの様子をベルに聞くと、とても良い笑顔で教えてくれた。


『エリスは主様の下僕に相応しい働きをしています』


…いや…下僕では無いのだけど。


『人間の魔道具に精霊を視る事が出来る物があるのですが、其方にてルミナが確認され教会は大騒ぎです。

更にエリスの発言権が強くなった所にエリスが指示を出し始めたので教会は大混乱のようです』


ベルは楽しそうに報告をしている。


…教会には精霊を視る魔道具があるのか…そしてエリスの発言権が強くなった、のは良い事だけど…指示を出し始めて大混乱…?


…ベルはとても満足そうに報告しているが……いや、どういう事?


まぁ、エリスの立場が意見を通せる程に強くなったのなら良かったと思うけど…


『精霊達ももちろんエリスの味方なので、主様を讃える為の協力は惜しんでいません』


何故だろう…不安しかない。


一度教会にも行ってみたいのだが、アンナさんからも表立っては仲良くするのを控えるようにとも言われたし、そもそもこんな一般人が会いに行っても会わせてはくれないだろう。


それでも、一目会えたら嬉しいと思って教会を訪ねてみると、すぐにエリスに会うことが出来た。


ベルが普通にエリスを呼んでくれたのだ。


一応、人目は避けてコッソリと会う事が出来た。


「ミサト、私はお導きのままに頑張っています。ぜひ安心してお任せください」


満面の笑顔で胸を張ってそう言われたのだが、…何故か全く安心出来ない気持ちになった。


「…ただ、私はこのままずっとこの町に居ても良いのか…」


満面の笑顔に影がさす。


「…?

…エリスはこの町に居たいと言ってなかったですか…?」


「…はい。しかし、この町に居ても出来ることは限られています。今の私なら神聖国の中枢部から教会の在り方を変える事も出来るのではないかと考えてしまい…」


出来る事が増えると見える景色も変わるのか新たな悩みがあるようだ。

…神聖国に対しての自身の在り方について悩んでいるのかな…。


「…せっかく、頂いたこのご加護に恥じぬよう、今こそ神聖国にて新たな道を進むべきなのではないかとも考えているのですが…」


エリスが何に悩み、エリスにとって何が正しいかはよくわからないけど…


「…私は、エリスのしたいようにすれば良いと思います。…後で後悔しない道を選んで欲しい…です」


とりあえず、自分で決めた事なら失敗しても後悔しても納得は出来るはずだ。


よくわからないけど、命の危険はないのだし好きにしたら良いのではないかな。


「ミサト様…」


エリスは感動したかのような涙目でこちらを見ているが…名前の呼び方がうっかり様付けに戻ってるよ。


「…ところで、良ければ神聖国について少し教えて貰いたいのですが」


「…私で教えられるような事であればなんなりとお聞き下さい…」


気分を変えるように他の話題を振ればエリスは笑顔で応えてくれる。


神聖国は精霊の恩恵によって成り立っている国だといわれている。


それは、精霊が多いだけでなくひょっとしたら高位の精霊等もいる可能性があるのではないかと思ったのだ。


聖女として精霊の近くに居たエリスなら詳しいのではないかと思っていたのだが…


「…そうですね、私自身は聖女の周りにいる精霊様しかお見掛けしませんでしたが、神聖国の王族は聖女の血筋が多いと伺っています。

ひょっとしたら古くからおみえになる精霊様の中にご存知の方もいらっしゃるかもしれませんね」


「…そっか…」


そうだった…そもそも、聖女は精霊と会話が出来るわけではないので見える範囲の事しかわからないのだった…

それに、ルミナ以上の精霊は確認されていなさそうだな。


「ミサト様は神聖国にご興味が…?」


エリスが何か考えるように聞いてくる。


「興味、というか…そうですね…。

良い印象はありませんが、勇者様達も向かってるみたいだし…強い精霊の情報がありそうなら行ってみようかな、と思ってます」


「…そうですか」


私の返事を聞くと、エリスはそのまま考え込んでしまった。


ひとまず、元気そうなエリスも確認できたので心配事も無くなったし、これ以上この町に居る必要は無いだろう。


次はいつ会えるかわからないが、後悔のない道を進んで欲しいな…。


なんとなくお別れモードでそのまま別れの言葉をエリスに伝えたら、驚きと共に嘆き悲しまれて少し大変だった。


しかし、近いうちに町を出る予定は変わらない。そう伝えると、これから向かう予定を根掘り葉掘り聞かれたが、まだそんなに細かい部分までしっかりとは決めていない。 


そんな私にエリスは比較的安全な道程を知る限りの情報と共に教えてくれた。


そして、


「…私の選ぶべき道がわかりました」


と、爽やかな笑顔で告げられた。

よくわからないが、進むべき道を見つけたられたのなら良かった。


エリスは突如、ルミナを肩に乗せたままベルへと走り寄り、小さな声で何かを話し出す。


…ベルも興味深そうに聞きながら、お互い満足そうに頷き合っている。


きっと、ベルともお別れの挨拶をしているのだろう。


…聖女と精霊の仲が良くてなによりだ。


ベルとの挨拶に満足したらしいエリスはこちらを向く。


「ミサト様、これでお別れするのはあまりに悲しすぎます。落ち着きましたら、私から会いに行く事をお許し頂けますか?」


少し不安気に聞くエリスに普通に応える。


「…それは、もちろん大丈夫だけど…」


「ありがとうございます!全力を尽くします!!」


…いや、何に?


エリスとの会話が微妙に噛み合っていない気はするけれど無事に別れの挨拶も済ませる事が出来た。


あとは、ギルドでアンナさんに挨拶をしたらこの町を出ようと思う。












  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る