第33話 聖女様の迎え
「ミサトちゃん…これはどういう事かしら…」
教会へと向かう途中に冒険者ギルドへと立ち寄った。
万が一、エリスの捜索等の依頼があった場合に面倒な事になるのを避けようと思ったのだ。
そして、ギリギリ捜索依頼の受理直前には間に合った。
ただ…間に合いはしたのだが、既に受理直前のギルド職員達には通達済みであったようで、ギルドに入ってからアンナさんのもとへと行くまでにギルド職員達からとても強い視線を感じた。
アンナさんはすぐにギルドから教会へと知らせの人を走らせると、私とエリスを速やかに応接室へと案内した。
今は、応接室にて丁寧にお茶とお菓子でもてなされている。これは、エリスが聖女様だからこその対応なのだろう…。
今回は真偽を問う為ではなかった為か、聖女様の身分を考えての事なのか、前の時とは違う豪華な応接室へと案内された。
…こんな部屋もあったんだなーと、現実逃避しているところでアンナさんからの先の問いかけがあった。
「…いったいどうして、聖…いえ、この方と一緒にいるの…?」
…あれ?…聖女様って事は内緒なのかな?
「…えっと、エリス様とは偶然町で会いまして…」
どこまで話すべきか悩みつつ答えていると…
「あの、ミサトさ、…ミサトは悪くありません。私が声をお掛けしたのです!!」
何やら私が困っているように見えたのか…我慢が出来なくなった様子のエリスが口を挟んできたのだがその勢いにアンナさんもギルド長も驚いている。
「…私が勢いのままに教会を飛び出してきてしまったのです。…ご迷惑をお掛けした事は…本当に申し訳ありませんでした。…しかし、そんな中でミサト、に出会い、話を聞いて貰って気持ちの整理をする事が出来たのです。
…こうして戻ろうと思えたのも…全て、ミサト、のお陰なのです!」
「そ、そうでしたか…」
「ですから、恩人でもあるミサト、には感謝こそすれ
責める事等…私の名において許す事は出来ません!何かありましたら私の方へおっしゃって下さい!」
「か、かしこまりました…」
エリスの気迫にアンナさんもタジタジでなんとか返答をしている。
「…教会に戻りましたら、今までの事、これからの事についてキチンとした話し合いをするつもりです」
決意を込めた様子で語るエリスにアンナさんもギルド長も若干ポカンとしている。
「ひょっとしたら、この町の住人方やギルドの方々にもご迷惑をお掛けする事もあるかもしれませんが、その時はどうぞよろしくお願い致します」
「…あ、はい」
エリスの勢いに飲まれ、応接室の中の空気は変な事になっている。…しかし、誰も何も言わない。
エリスの周りには応援するように光りが舞い、ベルが腕を組んで頷いている様子は…まるで授業参観にて子供の発表を見守る親のようである。
気まずい空気のまま時間が過ぎ、暫くすると教会からの迎えが来たとの知らせが届き、一同ホッとする。
エリスの迎えにはシスターや神官達が来るのかと思っていたら品の良い騎士っぽい人達で少し驚く。
彼らは聖騎士と呼ばれ、神聖国の聖都にて教会の大元である大聖堂へと仕えている世間一般では憧れの騎士様方らしい。
エリスに対しても礼節を持って接していたので少し安心する。
…まぁ、何かしたらルミナが黙っていないだろうし物理的な面での安全は大丈夫だろうけど…。
「ご迷惑をお掛けしました」
エリスは深々と頭を下げてそう言うと、騎士達と共に教会へと戻っていった。
エリスの肩にはルミナがいるし、周りには以前よりも輝きの強くなった光達もついている。きっとエリスは大丈夫だろう。
「…さて、詳しい話を聞かせて貰おうか…?」
エリスを見送り、教会へと戻るエリスについての思いに耽っていると、ギルド長から声が掛かった。
こちらへと向きなおるギルド長の横には詳しい説明を聞きたそうなアンナさんも居る。
…まだ、終わらないのか…。
ギルド長とアンナさんに連れられ、エリスを見送る為に出た筈だったのに…
再び応接室へと再び戻る事となった。
今日はアンナさんも同席出来るようだ。
そんなアンナさんは困ったような心配そうな複雑な顔をしている。
「…ミサトちゃん。
ミサトちゃんはあのお方の事をどこまで知っているの?」
アンナさんからの問いに私は少し考えてから素直に答える。
「…あの、聖女様であるということは聞きました」
私からの返答にギルド長は大きなため息を吐く。
「…本人に聞いたなら仕方ないが…それも、一応発表までは秘匿情報だ」
「秘匿情報…なのですか…?」
「この町はそんなに大きくも無い上に、北の教会はボロ…いや、古い。そんな所に力のある聖女を追いやったとなると教会及び神聖国の評判に関わるからな…。
…聖女様からどこまで聞いたかはわからんが、その内発表される内容が表向きの理由となるだろう」
「…表向きの理由…」
「…そうだ。…教会…ひいては神聖国に目をつけられたくなかったら、余計な事は言わない方が良いだろう」
「…はい」
やっぱり神聖国に良い印象は抱けなさそうだ…。
アンナさんからはとても心配をされていたようで、聖女様との情報を聞かれるよりも、むしろ聖女様と神聖国ついての情報を聞かされて、お説教を受ける事になってしまった。
この国の隣りにある神聖国はその国名の通り、宗教国家であり、神聖国の王も神聖なる存在や神の代理人としての権威を有している。
そして、王位の継承や正統性は宗教的な儀式や神聖なる慣習…つまり歴代の聖女との結婚等によりその地位を維持している。
精霊を讃え、宗教指導者としての役割を持つ王が、聖女や神官と共に国の方針や行動を決定する権限を持つ国だと思われているが、詳しい内情は一応秘匿のようだ。
そして、聖都にある大聖堂の聖職者はへたな王族よりも余程影響力が強い存在であり、その中でも聖女様は奇跡を具現化した教会のシンボルでもある為、とても貴重な奇跡の存在として扱われている…はずなのだ…。
…そう、そのはずなのに…その割にはエリスに対しての扱いに疑問は残る…。
そして、聖都の大聖堂には、精霊を見る事が出来る聖女様が集められ、表向きは聖女様の保護と教育を担う為の場所としても認知されている。
結果、精霊を連れた聖女を集める事により精霊も集まる為、その恩恵にて神聖国には自然災害や魔物、魔獣の被害も少ない。
そして、1番精霊に愛されている聖女には大聖女という称号を与え、神聖国の聖女代表となるようだ。
神聖国にて聖女になると、ほぼ王族や貴族と婚姻を結ぶ為、神聖国の王侯貴族の多くは聖女の子孫でもあるらしい。
その為か神聖国の王侯貴族には精霊達も割と好意的ではあると言われている(あくまで、言われているだけ)。
ひょっとして、美味しい魔力を持った人の子供は美味しい魔力の子が生まれるのかな…?
素朴な疑問を胸に真面目な顔でアンナさんのお話を聞く。
ここからは…アンナさん曰くここだけの話らしいが、教会は各国の権力者達とも繋がりがあり、お金や権力関係も複雑でドロドロとしている上に、精霊という不思議な力まで関係してくるので関わりには細心の注意を払うように、と注意喚起をされた。
末端の教会とはいえ、そんな複雑な所へとエリスを返してしまった事を心配しつつアンナさんからの更なる注意事項へと耳を傾ける。
エリス自体は決して悪い子ではないが、聖女様としての立場からどうしても厄介なしがらみもあるので仲良くする場合は表立っては控えるように言われた。
この町は国が違う上に小さい町なので教会からの影響力は少ないが、隣国では教会の存在は大きく聖都へと近づく度に更に影響も強くなるそうだ。
聖女様の複雑で面倒そうな立場にますますエリスに同情する。
少しでも私の祝福が力になると良いな…
アンナさんの話を聞き、思わずそう願った。
私は…その祝福が、少しどころか教会及び神聖国において、逆らえる者がいなくなるほどの効力を持つなんて知らなかったのだ。
「それにしても、最近の厄介事はだいたいお前が絡んでるな…」
ギルド長の呟きはしっかりと私の耳にも届く。
…失礼な。
別に、私だって好きで絡んでる訳ではないのに。
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