第31話 エリスの忠誠
色々と考えていたが、話し合いの結果、とりあえず神聖国には戻りたくないなら戻らなくても良いのではないか…という結果になった。
不安げなエリスに対し、ベルもルミナも励ますように両肩に乗っている。
「精霊様の意思ですって言えば良いんじゃない?」
…と、いう私の提案により、この方向で話が纏まったのだ。
「…そんな、精霊様の名を使うなど、そんな不敬な事は…」
と、エリスだけが反対していたが、どうせ他に精霊が見える人はいないし例えいたとしても何も問題ない。
実際に精霊が言っているのだし…。
私やベルが居なくても、ルミナがついているのでいざとなったら薬草を増やす事も根こそぎ枯らせる事だって可能だし、何より物理的にエリスを傷つける事は出来なくなった…。
いっそ、本当にエリスを歴代随一の聖女として推そうかな…と、思っていたトコロ、ベルに『主様の祝福があるのですから歴代の聖女とは既に格が違い過ぎます』と、言われた。
つまり、エリスは既に歴代にも並ぶ相手がいない程の聖女の中の聖女となってしまっていたようだ。
そして、ベル曰く私の祝福の印を見ればほとんどの精霊達は好意的に接してくれるようになるらしい…
この事実に、驚きの衝撃を受けていたのは言うまでもなくエリス…と私本人だった…。
「…あ、あの、ミサト様はいったいどのようなお立場の…」
何やらベルよりも高位の精霊であった事は事情説明等からも、光り具合からもうっすらとは理解していたようだが、そこまで詳しくは話していなかった為、とても戸惑っているようだ。
何と説明するべきか悩んでいると、ベルとルミナが揃って前に飛び出てくる。
『なんと!主様は原始の精霊様であり、全ての精霊の始まりであり頂点でもある…すごーいすごーい主様なんです!』
「ピピピピーッ」
やたらドヤ顔でベルが言い放ち、ルミナも心なしかドヤ顔で鳴いている。
…いや、そんなドヤ顔で言うほどのことでは無いのでは…?
「…あの、今は普通(?)の人間だから…」
私の言い訳のような言葉は既にエリスの耳には入っておらず、口を大きく開けたままポカンとした顔をしている。
人は何故、大きく開いた口を見るとそこに何かを入れたくなるなるのだろうか。
「ひょぇぇぇぇぇー」
飴か何かを放り込もうか悩んでいたら、我に返ったエリスがおかしな叫び声を上げた。
正気に戻った後は再びエリスが土下座をしたり、口調がおかしくなったりはしたが、時間と共に落ち着いたようだ。
そして今後について少し話し合った結果、誰にも何も言わずに出て来てしまったエリスは一度教会へと戻る事を決めた。
いくらルミナが一緒でも1人は少し心配なのでベルと共に送り届ける。
「わ、私のような者の為にお手数をお掛けして申し訳ありません。
…そ、それに、祝福を頂いた上に更に御名前までお呼びして本当に良いのでしょうか…?」
歩く道すがら、エリスは不安そうに何度も確認してくるが、そろそろ覚悟を決めて欲しい。
「エリス様、私はただの冒険者です。目立つつもりも予定もないので、是非ミサトと呼び、普通に話してください」
ここは、町の通りなので他の通行人もいる。
そんな場所で、おかしな言動は困るのでニッコリ笑顔でそう答えると、何故かエリスはコクコクと頷きカタカタと震えている。
その怖がりように少しだけ不貞腐れた気持ちになる。
「…別に、何かしたりしないから大丈夫なのに…」
私のポツリと呟いた言葉を聞いたエリスはハッと何かを思ったらしくこちらへと視線を向ける。
そして、暫く何かを考えていたがポツリポツリと話し始めた。
「…ミサトさま…いえ、…ミサト…はずっとこんな私に親切でした」
エリスは何か覚悟を決めたような顔をしている。
そして、頑なに名前に付けていた“様”も外そうとしている。
「…素晴らしくも畏れ多い御方なのは間違いありませんが、何よりとてもお優しい方なのは理解していた筈なのに…。
誰も聞いてくれなかった私の意思まで尊重してくれて……私はこんなに良くして頂いたのに…ミサトさ、ミサトに対してとても失礼な態度を取ってしまいました…」
エリスは心なしかシュンと落ち込んでいるように見えたので、思わず声をかける。
「…別に、そこまで落ちこまなくても…別に失礼な態度なんて取られてない…し…」
私の言葉に、こちらを見るエリスの顔が泣きそうな笑顔になる。
「そんなお優しいミサト…の為なら、私はこの命でも差し出す所存です」
…え、…いや、別に命までは求めてないんだけど…
「…ミサト、私の忠誠を貴方様に捧げます…いえ、捧げさせて下さい」
よく、わからないが…忠誠とか面倒な響きな気がする…。
命や忠誠を捧げられるよりも、友達から始めるとか…そっちの方が嬉しいのだけど…
…よし、とりあえずお友達から…とでも返事をしよう、そう思っていたのだが…
『…良いでしょう。その言葉、私が証人として聞き入れます』
「…まぁ、ベル様!ありがとうございます!」
何故かベルが了承をしてエリスが嬉しそうに返事をしていた。
そして、そのエリスの嬉しそうな返事と共に謎の光が発生した。
一瞬の事だったが、何かが成されたようだ。
…あれ?…私の…意思は…?
忠誠を誓われた筈の私の事は置き去りに、またもや2人は見つめ合い頷き合いながら何かを通じ合っているようだった…。
…まぁ、2人が納得出来たのなら良いの…かな…?
こうして…私の意思が反映する間もなく、歴代一になった聖女様からの忠誠を受け取ることになった。
『…貴方は、主様の祝福を頂いたのですから、それに恥じぬような態度を取りなさい』
何やらエリスはベルからご教示されている…。
「はい!」
『主様から祝福を授かった貴方が侮られるという事は、ひいては貴方を祝福した主様までをも軽視しているという事です』
…え、そうなの…?
私の軽い驚きとは違い、エリスは何やらとてつもない衝撃を受けている。
「…そ、そんな…私が侮られる事が…ミサト様にまで……」
いや、そんな事は気にしないから大丈夫なんだけど…
そもそも、よく考えたら私の名前が表に出る事なんて無いし…
ベルは何やら物知り顔でウンウンと頷きながらエリスへと語りかける。
『…そんな事は耐えられるはずないですよね…?』
「もちろんです!…そんな事…」
『…では、主様が軽視される事のないように、貴方は貴方の行動に自信と責任を持たなくてはいけません』
エリスはハッとしたようにベルを見つめる。
「…私の…行動に…」
ベルはエリスに自信を持たせたいのかな…?
既に力を手に入れたのなら、後は教会の良い様にされない為のメンタルも大切なはずだ。
ベルの巧みな言葉選びに思わず感心する。
『…今の貴方なら主様の為に教会を掌握する事も出来る筈です』
…あれ?
『…主様の為に、今の間違った教会を叩き直し、主様の為の教会へと立て直すのです!!』
「…私、やります!」
エリスは何やら火がついたようにやる気になっているが、方向性が私の思っていたものと違う…。
「…ミサト様の為…いえ、少しでもミサト様の力になれるような…、これまでとは違う正しき教会の形へと戻します!
ミサト様へ感謝と祈りを捧げ、全ての人々に分け隔てなく手を差し伸べ、助け、守り、祈る為の本来の正常な教会となるように…祝福を授けて頂いたからにはミサト様の名に恥じぬ様、私がきっと変えて見せま
す!!」
『良く言いました!』
「ピピピピーッ」
高々と宣言するエリスとそれを褒め称えるベル達を見つめつつ、正直そんな事を全く望んでいなかった私だが、この真っ直ぐな決意に水を差す事も出来ずにひたすら遠い目をして見守ることにした。
エリス、それ正しい教会の姿ではないと思うよ…
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