第30話 忘れていた勇者達
「勇者様のお話ですが…」
私がウッカリ忘れていた事を思い出しているとエリスから思わぬ情報を聞く事になった。
「…多分ですが…今、神聖国へと向かっていると思います」
「…へ?」
「…聖剣を無事に手に入れる事が出来たので、旅に同伴する聖女と合流する為、神聖国に向かっていると思います」
聖剣を…手に入れた…。
聖女と合流…。
おお、ファンタジーだ…。
いつの間にやら彼らは聖剣といういかにもファンタジーに出てきそうな名前の剣を手に入れていたようだ。
私が地道に資料室や薬草採取に通っている間にそんな物を手に入れているなんて…ちょっと順調過ぎる気もするけれど…さすが勇者様だな。
ところで、結局2人とも勇者様だったのかな…?
素朴な疑問が浮かんで思いを巡らしていると、エリスから続きの情報が語られる。
「…通常ならば、聖女が同行するような事は無いのですが、今回の勇者様はどうも文武に優れた上に眉目秀麗な優秀な方のようで、行く先々での評判がとても良いのです。
その為、他の国々や勿論教会も出来るなら取り込みたいと考えているようです」
…文武に優れた眉目秀麗な逸材…うーむ…これはどうも、八神君っぽいな。
さすが八神君…召喚先でも優秀なんだな…。
「…そして、…どうも私を追い出した聖女様がその同行者に名乗りを上げているらしくて…」
エリスは苦々しい顔をしている。
「…丁度良いのでその聖女の代役として、再び神聖国へと帰還し聖女となるようにと私に要請が来たのです」
あー…そうなるのか…。
「…あれ、でもそうなるとこの町の薬草畑はどうなるの?」
素朴な私の疑問にエリスの眉間のシワがよる。
「…聖都の教会で育てれば良いと気軽に言われました。
…あれは、私の力では無いので無理だといくら言っても取り合ってくれません」
エリスは、さっきよりも大分落ち着いた様子ではあるが、再び教会や王宮への怒りを表す。
「…婚約破棄してきた王子からも手紙が届きました。
…やはり君は聖女だったのだな、本当は信じていたよって…いやいや、そんなの信じるわけないでしょ…気持ち悪い!」
…少し語り始めると、一度は落ち着いた怒りが再熱するようだ。
「教会はさらなる権威を高めるために、勇者一行に聖女を送り出し、魔王討伐後にはあわよくば聖女様と良い感じになった勇者を取り込みたいと思ってるのです…!
…あの聖女様は、王子と婚約する筈だったのに。
その為に私は婚約破棄されて追放までされたのに…。
…あの事を無かった事にして、もう一度婚約しろなんて、絶対に嫌です!!」
エリスは聖女の中でもそれなりの地位だった為に、神聖国の思惑により第二王子と婚約していたらしいが高位貴族から聖女が現れるとサクッと捨てられたらしい。
しかも、王子は平民出身という事で普段からエリスを散々見下し、高位貴族出身の聖女と共にエリスを陥れて聖都から追放までしたという…。
そんな王子から上から目線の復縁要請が来ているなんて…
「…あー…。それは、嫌ですね…と、いうかその王子、高位貴族出身の聖女様と良い仲だったのに、復縁要請ですか…?」
「…それが、あいつは我儘だの金がかかるだのといった文句を手紙に書き連ねて来て、おまけに勇者様の噂を聞いてからは態度が冷たいだのなんだの、なんでそれを私にわざわざ手紙で言うのか…しかも、お前の方がマシだからもう一度婚約してやるって…私を一体なんだと思っているのですかッ!」
うわー…神聖国の第二王子は関わりたく無いタイプだな…。
「神聖国から訪れた教会の神官達は皆、名誉な事だと言い勇者一行が国に着く前に聖都へ移動するように言ってきますが…私はこの町から離れたくありません…」
エリスの瞳にはうっすらと涙が浮かんでいる。
それまで一緒に大人しく聞いていたベルが、小鳥と一緒に飛び上がる。
『…よし。消しましょう』
そう言うと、窓の方へと向かおうとする。
「…ちょっと待って、ベル」
エリスを気に入ったベルは話を聞いて怒りが沸いたのか即断即決でルミナと共に飛び立とうとしているので、飛び立つ前に一旦止める。
泣きそうになっていたエリスは少し驚きつつもキョトンとしている。
『主様、大丈夫です。上手くやれます』
「…いやいや、ちょっと待って。
…ベルは何をするつもりなの…?」
『…?』
ベルも私が止める理由がわからないようでエリスと同じ顔でキョトンとしている。
そして、少し考えながら答えてくれた。
『…とりあえず、教会を順番に無くせば良いのでは…?』
ベルの言葉にエリスが驚愕の表情を浮かべてベルを見る。
『…あ、もちろん、神聖国の王宮も消して、その王子とやらも埋めてきます』
「…」
ドヤ顔で宣言するベルに頭が痛む。
いや、気持ちは分かるけれど、消してしまえば全て解決ってわけでは無いから…。
神聖国はきっと、更なる権威の為に勇者の看板も、聖女の血縁という神聖国としての正統性も欲しいのだろう…。そして、王子は高貴な方の聖女を勇者に取られるならば、やはり聖女の肩書をもった可愛いエリスが惜しくなったのか…。
うーん…あれ?…以外と…両方とも…
「…消しても…良い…?」
「全然良くありませんっっ」
エリスから渾身のツッコミが入ったのでやはり消してはダメなようだ…。
いや、わかってるよ。…こういうのは、悪いのはきっと上の人達だけなんだよね。
「ベル…面倒な事だけど、人間社会では消すだけでは無かった事にならないんだよ」
あ、面倒とかちょっと本音が出ちゃったけど…まぁ、良いよね。
私がベルを止めようとしている事にエリスは少しだけ安堵した顔になる。
「ただ消すだけだと、ウッカリ生き残った人から敵認定を受けて更に面倒…大変な事になるから…」
『…では、それらも纏めて全部消してしまえば良くないですか?』
「…それだと、最終的に人類皆消さないといけなくなっちゃうかも…」
『あー…そうなんですか…?…それは確かに面倒ですね』
ベルはうーんと考え込み始める。
エリスはそんなベルをハラハラと見つめている。
『…なら、とりあえず王子だけコッソリ埋めますか?』
なかなか良い案を出すベルに、私も思わず悩む。
…うーん…まぁ、1人くらいならならいなくなっても大丈夫…かな…。
「あー…それ位なら良い……」
「いや、ダメです!!」
ダメだった…。
「いや、あの、す、すみません…。
…ただ、確かに私も、出来ることなら…聖女様ごと埋めてしまいたい気持ちは山々なんですが、仮にも王族なので…それは、流石に、したいと思っても…するのには問題があると言うか…」
エリスは反射的に、強めな言い方をしてしまった事を後悔しているのか必死に説明しようとして、しどろもどろになっている。
…でも、やっぱりエリスも埋めたいとは思ってはいたんだな。
…しかも、聖女様も一緒に。
正直者なエリスは本音も混ざってしまっている説得力のない説明を頑張っているが、既にベルもルミナも王子と神聖国を敵認定をしたようだ。
…あれ、神聖国なのに精霊に嫌われて大丈夫…?
そんな疑念と共に、もはや私も神聖国とその国の王子に対しては良いイメージは持てなくなってしまった。
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