第29話 祝福
私の祝福によって聖女様の手には不思議な模様が浮かび上がった。そんな印が出た事に私は内心焦っていたのだが、聖女様はむしろ恐縮しつつも感激したようにその手を見つめていたので問題は無さそうだ。
そして、その祝福により、ベルの姿や声もはっきりと認識出来るようになったらしい。
初めて見たベルを感激の眼差しでうっとりと見つめる聖女様にベルもどことなく満更でも無いような雰囲気だ。
聖女様についていた精霊の光達も少しだけ大きな光となり、その中のひとつが音を立ててポンっと変化した。
『あら、主様のおかげで昇格したのですね』
ベルの言葉に聖女様と私の視線が変化した精霊へと向かう。
視線の先には真っ白でふわふわの小さな小鳥。
可愛い…。
「なんて、可愛いお姿なんでしょう…」
聖女様も同じ気持ちのようだ。手を組んでウルウルと小鳥を見ている。
『これで、多少は力も強くなったので、聖女の守りぐらいは出来るのではないですか』
なんと、この可愛い小鳥は可愛いだけではなく聖女様を守る事も出来るらしい…なんて素敵な子なんだろう。
小鳥の姿となった精霊は嬉しそうに私と聖女様の周りを飛び回り、他の光達も嬉しそうに一緒にピカピカと光っている。
「…尊き方、いえ、主様?…このような下賎な身である私などに、このような過分なご加護をいただき、…大変、大変光栄です」
聖女様は、喜びの余り涙ぐみながら頭を下げてお礼を言い、横ではベルや小鳥達までウンウンと頷いている…。
「…あ。いや、あの…頭を上げてください。
今回の事は、元はといえば私の責任です…。
私こそ、ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」
私は聖女様のお礼の言葉にお詫びの言葉で返し、深々と頭を下げる。
私が頭を下げると聖女様からはとても慌てた気配を感じた。
「え?…そ、そんな!止めてください下さい!あ、頭を上げてくださいっ!!」
聖女様は私のように強引に頭を上げさせる事も出来ず、泣きそうになりながらアタフタとしている。
「…もし、許してくれるのなら、私のことはぜひミサトと名前で呼んで欲しいです…」
…正直、聖女様からの主様呼びは勘弁して欲しいのだ…かといって、尊き方とか呼ばれるのはもっと困る…。
「…え、お名前…なんと、恐れ多いです!そんな!私なんかが…⁉︎…いや、無理です!」
お詫びと言いつつこんな要求をするのも申し訳ないが、ここは譲れない。
「…許しては、貰えないですか…?」
「よ、呼びます!!」
少し悲しげに言ってみると聖女様は快く返事をしてくれた。良かったー。
私はホッとしつつ笑顔で顔を上げる。
「聖女様、ありがとうございます」
「せ、聖女…様だなんて!!そんな…!!」
私が聖女様呼びをした事に何故か聖女様はひどく衝撃を受けた様子だ…
「…あ、あの、今更なのですが、私は、エリスと申します。もしよろしければ、ぜひ、下僕(げぼく)でも僕(しもべ)でも好きなようにお呼び下さい!」
…げぼく…しもべ…って…。
…いや、普通にエリスって呼びたいんですが…いや、世間体も考えるとエリス様、かな…?
大袈裟なエリスの反応に思わず苦笑いになる。
『貴方…自分の立場を良くわかってますね。…わかりました、私のこともベルと呼ぶ事を許します』
「…べ、ベル様。ありがとうございます!!」
エリスの様子を伺っていたベルはエリスの私への態度が気に入ったようで、話に入り込んで自分の名前を呼ぶ許可を出しはじめた。
呆れる私とは裏腹にエリスはとても嬉しそうな様子だ。
ニコニコと嬉しそうな顔のエリスとベルはお互いに目を合わせると頷き合いながら、何かを通じ合っているかのように見える。
…よくわからないが良い関係を築けたようで良かった…のかな?
「ピピピピッ」
小鳥も嬉しそうにエリスの肩に止まって可愛い声をあげ2人に同調しているような様子だ。
その様子を見ていた私はふと思い付いた事を口に出した。
「小鳥にも名前も付けてあげたらどう…か、な?」
私の発言にみんなの意識がコチラへと向かう。
「あ、えっと…ずっと一緒なら、名前を付けてあげても良いのではないかなって…思いまして…」
まぁ、…付けても付けなくても、どちらでも良いんだけど…。
なんとなく言葉の後半はモゴモゴと小さい声になってしまった。
「ピピピピピピッ」
「…わ、私なんかが付けるなんて、恐れ多いですっっ」
またまた全力で恐縮されたが、小鳥は是非とも付けて欲しそうな様子だ。
…エリスがあまりに恐縮するので、じゃあ言い出した私が名前を付けるのか…という流れになったトコロでいつもベルの周りにいる光達からクレームが入った。
「ヌシサマ…ズルイ」 「ズルイズルイ」
「サキ、ワタシ、タチ…」
「…ズルイ」 「コチラ、サキ」
「ヌシサマ…ダメ」 「ダめ、ズルイ…」
最初の時以降、ベルの横で大人しくしていた光達からのクレームに私よりもエリスが驚き申し訳なさそうな様子へと変わる。
そして、恐縮しつつも結局エリスが小鳥の名前をつける事となった。
「で、では、僭越ながら…あの、…ルミナ、はどうでしょうか?…光りという意味のある名前なのですが…」
光り…まさにピッタリの名前だ。
「…良いと思います。良かったね、ルミナ」
私が笑顔で小鳥にそう呼びかけると、小鳥…ルミナは嬉し気に大きく羽ばたき空へと飛び上がる。
「ピピピピッ」
…なんか、軽く光ってサイズが少し大きくなった気がするが…気にするのはやめておこう…。
嬉しそうに部屋の中を旋回するルミナと眩しそうにそれを見るエリスにほのぼのとした気持ちになる。
そして…私が無事に名付けから免れる事が出来た事に心の中でコッソリと安堵の息を吐いた。
ひと通りのエリスの事情を知り、人柄も知った所で、ふと考える。
こうなってくると、私の事情もエリスに話してしまった方が都合が良いのではないだろうか。
精霊達も特に警戒していないし、私自身エリスの好感度は高い。
いっそ、全力で彼女を歴代の聖女様に押し上げるのもアリなのではないかと考えてしまう程には気に入っている。
「…ベル。私の事情ってエリスに話しても大丈夫だと思う?」
小さな声でベルへと相談してみた所、
『良いと思います。もし、主様が困るような事があれば…無かった事にすれば良いのですし…』
「…そう、だね。…無かったこと…に、ね…」
と、参考にならない返答が返ってきた。
まぁ、結局は自分で判断する事にはなったけれど、何かあっても責任を取るのは自分なので別に良いだろう。
私は私の直感を信じて、エリスに私の事情を話す事にした。
こちらの世界からあちらの世界へと渡り、何回も人としての生を受けていた事。
今回の生では快適に過ごし、路地裏で見つけた勇者召喚の陣に近寄ったトコロ、こちらの精霊達に引き戻された事。
…そして、帰り道を探している事。
エリスは神妙な顔で話を聞いてくれた。
「…勇者召喚、ですか…」
難しい顔のエリスにそうだと頷きつつ、ふと何かを忘れているような気持ちになる。
「そう、勇者召喚に巻き込まれた…かた、ち…で…」
…勇者召喚。
…ゆうしゃ…
…は!…しまった!
…勇者なクラスメート達の事を今の今まで綺麗サッパリと忘れていた…!!
…そう、この時やっと私は八神君と鈴木君の存在を思い出したのだ。
この時…既にこの世界へ来て、2ヶ月以上が経過していた…。
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