第27話 【聖女エリスside】
古い教会から少し離れた通り沿いを歩く1人の少女。
教会の中でも比較的綺麗目な部屋の一室で他の人々から隔離された環境から私…エリスは抜け出してひとり通りをトボトボと歩く。
こうなってしまった始まりは一体何だったのか…。
何故このような状況になったのかを考える。
そう、今思えば…精霊様達のいつもとは違う様子が始まりだったのかもしれない。
色々あり、この町に来て良かったと思えるようになった頃、精霊様達の様子がおかしくなった。
子供の頃からいつもボンヤリと暖かい光りを発しながら優しく助けてくれた精霊様達。
その精霊様達の数が最近少し増えたと思っていたら、急にピカピカと光輝いて見えるようになった。
動きも何故か前よりも良くなり、元気いっぱいにフワフワと飛び回るようになり、それと共に町の空気が明るくなった気がした。
こんな事は神聖国でも経験した事がなく、その変化に驚いていたある日、遠くにこの子達よりも一回り大きな…とても綺麗な光を見つけた。
すぐに何処かに行ってしまったけれど、あれは力の強い精霊様の光だったと思う。
きっと精霊様達の変化はあの大きな光の精霊様の影響なのだろう。
前よりも光輝くようになった精霊様達に驚きつつも、特に変化のない生活に落ち着きを取り戻した頃、今度は精霊様達が急にフワフワと空へと上がり、楽しそうに踊り出した時があった。
ピカピカと点滅するように光りながら空を舞う様子を見て、そんな風にも光る事が出来る事に驚いた。
何か良い事でもあったのか、目に見えてピカピカフワフワと空中で舞う姿は野菜の収穫中だったのに思わず見とれてしまう程、楽しげな様子だった。
きっと精霊様達の楽しそうな様子はあの力の大きな精霊様からの影響なのだろう。
力の強い精霊様は周りの精霊様へと影響を与えると聞いた事があるし…
…あの精霊様に何か楽しい事でもあったのかな…。
そんな事をのほほんと思っていた翌日、教会の北側に薬草畑が現れたと知らせが届いた。
…そして、その薬草畑の出現により、私の立場がまた慌ただしく変化した。
出現した薬草畑は聖女である私の影響なのではないかと言われ、いくら否定しても聞いて貰えず神聖国の教会からは上位神官達御一行が派遣され私は下にも置かぬ扱いをされる事となった。
…今までやっていた仕事はすべて他の者へとまわされ、仲良くなったシスター達とも子供達とも気軽に会えなくなってしまった。
このままでは、また以前の様に良いように扱われてしまう…
そんな焦燥に駆られ、隙を見てつい勢いのままに教会を抜け出してしまった…。
逃げ出しても行く宛なんて無いのに。
幸いな事に町にはあまり出て来ていないので、顔を知られてはいない。
しかし、お金も何もない状態で一体これからどうしたら良いのか途方に暮れつつ、ボンヤリと今までの事を振り返る。
「あなたは、聖女様です」
10年前、その一言で全てが変わった。
住んでいた村に偶々訪れた神官様により、そう告げられた事でこれまでの生活が全く違うモノへと変わった。
既に死んでしまった両親に代わり育ててくれた祖母はその言葉に驚きと喜びを示し直ぐに私を神官様へと引き渡した。
村での生活は決して裕福なものではなく、両親の居ない私は村でも粗雑に扱われていた。
祖母も例外では無く…血のつながりがあった為仕方なく引き取りはしたが、愛情を持っていたわけではなかったのだろう。
偶々訪れた神官様の言葉と謝礼金という形の手切金が渡され、祖母は悩むこともなく大喜びで私を引き渡した。
私は神聖国の聖都にある大聖堂へと連れていかれそこで過ごす事になった。
私の生活は一変し、お腹いっぱいの食事や暖かい寝床を手に入れる事が出来た。
…しかし、神聖な筈の教会も綺麗なだけの場所では無かった。
嫌な事も沢山あったけれど、私は精霊様達の手助けを受けながら、そしてその姿に慰められながら聖女としての様々な教育を必死に受けた。
皆に認めて貰える様に必死に頑張った結果、私は大聖女様の後継に1番近い聖女としての地位まで上り詰める事が出来た。
望んでもいない高貴な婚約者も据えられ、国からも認められたのだと思っていた。
…しかし、所詮は平民。それも金で買われたも同然の身分の私に聖女としての地位など相応しくなかったのだろう。
高貴な身分の聖女が現れると、その高貴な聖女と高貴な私の婚約者によって…身に覚えの無い罪でアッサリと国外追放される事になった。
…他国の貧しい教会へと送られ、私の生活はまた一変した。寝食だけは保証されているが以前のような貧しい生活へと戻ることとなったのだ…。
悔しくて悲しかった…。
しかし、この町で過ごす内に…この穏やかな日々こそが自分の望んでいたモノなのだと気が付いたのだ…。
この穏やかな日々が…今が一番幸せだと思えるようになった。
…そう、やっと幸せだと思えるようになった所だったのに…
精霊様の奇跡で希少な薬草畑が出現した。
決して私の力では無いのに、周りにはそれを理解してしてくれる者がいない…。
再び私の周りでは目まぐるしくも状況が変化し、再び神聖国より使者が届いた…。
…今更…もう一度聖女の地位を与えると言われた…
もう…聖女の地位など要らないのに…
思い返せば、今まで誰も私の気持ちなんて聞いてくれる人はいなかった。
だから…今回もまた私の意思なんて関係ないのだ。
気付いたら教会を飛び出していた。行く宛なんてない…。
少し気持ちは落ち着いてきたけれど、それでも戻る気にはなれない…
悲しいような、悔しいような気持ちで目的もなく…とぼとぼと歩いていた。
そんな時、…前方に何か光が見えた気がしてふと顔を上げる。
何かが反射したのか程度の軽い気持ちで顔をあげた。
何気ない動作で特に何かを考えた訳でも何かを期待していたわけでもない…。
そんな軽い気持ちで顔をあげたのだ。
そして…顔をあげた先に、とても綺麗な1人の少女…この世に存在するとは思えない尊きその御方の姿を見つけたのだ。
「…ツ!!」
私はその姿を視界に収めた瞬間、驚愕の余り動けなくなってしまった。
とてもとても綺麗な少女の御姿だが、私が驚いたのはそこでは無く、…なんとその御方から精霊様達と同じ…いや、精霊様達よりもずっと強くて美しい光が溢れ出ていたのだ。
初めて見る強い輝きと人の形をした存在であるという事に軽いパニックを起こした。
少女の姿をしたその御方がこちらを見て不思議そうに首を傾げた瞬間にハッと意識が戻る。
大変だ…、ボケっとしている場合ではない。
私は急いでその尊き少女の足元へと駆け寄った。
「…は…?」
そして驚愕の表情を浮かべた尊い方に跪き頭を地面へと擦り付ける。
「…え?…え、は、何を?」
頭上からは尊き方の何やら戸惑ったような声が聞こえるが関係ない。
こんな尊き方に出会えるなんて、なんという恐れ多くも幸運な事なのだろうか…。
頭を床に擦り付けた状態の中、私は震える声を張り上げる。
「…あ、貴方様のような尊い方に、このような身分の私などがお目にかかれて、恐れ多くも光栄に存じます」
教会にて教わった最上の敬意を表す姿勢…平身低頭にて尊き方の足元にて待機する。
少し慌てたような気配を感じた気はするが…それよりも失礼にも頭を下げるのが遅くなってしまった事の方が気になる…。
「…べ、ベルっ…」
尊き方の呼び声に頭を下げつつ恐る恐るチラリと上を確認すれば以前に見た一際強い光の精霊様が寄ってくるのが見えた。
なるほど、あの精霊様はこの尊き方のお付きの精霊様だったのか…。
道理で力の強い精霊様の筈だと再び視線を下に向けて1人納得し、再び頭を地面に擦り付ける。
さて、尊きお方からお声がけを頂けるのか、それともこんな下賎の身等無視をされるのか、はたまた不相応な声がけに何か罰が与えられるのか、ドキドキハラハラワクワクと胸の高鳴りを感じながら…尊きお方からの反応を待つ。
必死に地面に頭を擦り付ける私は…まさか、その尊き方が私ごときの頭を上げさせようとして困っているなどとは…そして、力技で頭を上げさせられる事になるなどとは露ほどにも想像していなかった。
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