第26話 監視期間終了

翌日から私のこの世界での生活がまた少し変わった。


早めの時間にギルドへ行く事は変わっていないが、薬草の採取に行く事は無くなった。


人を派遣すると言われたが、知らない人がずっと付いてくるのは嫌だったので、ギルド内の見える場所で過ごす事で無しにして貰った。


それでも一応私に気づかれないように監視は付けられていたけど、そこは敢えて黙って知らないふりをした。


余計な疑いは持たれたく無いし…。


ギルドの資料室の資料もほぼ読み終わり、やる事がなくて暇なのでちょこちょこと色々な所の雑用のお手伝いしてみた。


ギルド内は、あの薬草の件以降何やら忙しいらしく、みんながバタバタとしていた。


最初はなんとなく邪魔にならない様にギルド内の簡単な掃除をしたり、アンナさん達受付の事務処理のお手伝いをしていた。


…なんとなく見ていたらあまりに忙しそうで、裏にいる事務員さん達の簡単な計算や書類の分類等も出来る範囲で手伝っていた。すると、それが何やらとても助かったそうで後日正式にギルドから依頼という形で短期雇用して貰えると事になった。


お金にまだ余裕はあるけれど、収入無しの時間はなんだか勿体無い気がしていたので少し嬉しい。


そして、この世界の事を知る機会が増えたのも助かった。


思ったよりも楽しく過ごす私にベルや精霊達もご機嫌で、ギルド内での雰囲気もなんだか明るくなった気がする。


いつか、食べてみたいと思っていたギルド内の食事処もなんとお昼ご飯でアンナさんと一緒に食べる事が出来たし、食事処のマスターにも挨拶をして貰えるようになった。



色々と楽しんでいる私とは反対にギルド長とセオドアさんはどうやら本当に大変そうで、色々な場所へ行ったり何やら手配したり、ギルドの高ランクの人達を収集して色々と相談等もしているらしく…見かける度に少しずつ窶れていっているように見える。


上層部の意向が決まるまでの1ヶ月程、ギルド長達の苦労などつゆ知らず私は毎日を楽しく過ごしていた。




そんな新しい日々にも慣れたある日、アンナさんに呼ばれてギルド長室へと案内された。


「…詳しい事は中で聞いてね」


ドアを開けて優しく微笑むアンナさんに頷いて部屋へと入る。


この1ヶ月間一緒に過ごした事によってアンナさんからは前以上に可愛がって貰っている。…なんとも、ありがたい。


少し緊張して入ると部屋の中にはギルド長とセオドアさんの姿があった。


「…よぉ、チビ」


「こんにちは」


ペコリと挨拶をしてギルド長とセオドアさんを見ると、心なしか前よりも痩せた気がする。


「…ひとまず、座ってくれ」


以前の応接室の時と同じ座り位置だが、応接室ではなくギルド長室だからか若干気が抜けた様子だ。


そして、今回はセオドアさんがお茶を用意してくれた。


最初の内は世間話よろしく、最近の私の様子についてとギルドへの貢献に感謝を言われた。


そして、本題の話へと移る。


「…ひとまず、お前の護衛兼監視期間は終了だ」


ギルド長からのその言葉にホッとする。

色々と楽しんではいたけれど、やはり影から監視されていると落ち着かないしもう少し自由に動きたいと思っていたのだ。


ギルド長の説明によると、もうすぐこの薬草の件についての正式な発表があるらしく、そうなれば私の持ち込んだ薬草もこの町の物だと言う事で追求もなくなるだろうとの事だ。


「…お前はある意味1番な貢献者でもあるし、ここ1ヶ月の様子を見ても信頼しても大丈夫な奴だと思っている…」


ギルド長はそう言うと背筋を伸ばして真面目な顔になる。


「お前の情報提供によりこのギルドに大きな利益をもたらしてくれた事…感謝している」


「…あなたのお陰でいち早く手を打つ事が出来ました、本当にありがとうございます」



そう言ってギルド長と隣に居たセオドアさんまで深く頭を下げたので思わずビックリしてしまった。


「…いや、…あ、あの…た、たまたまの事なので…。…なので、頭を上げてください」


慌てる私にギルド長とセオドアさんは優しい顔で笑いながら頭を上げる。


「喜べ、謝礼金はかなりの額が出る予定だ」


「…発表後になるのでもう少しかかりますが、楽しみにしていて下さい」


「あ、ありがとうございます」


具体的な金額は教えて貰えなかったが、ギルド長とセオドアさんの様子から結構貰えそうな雰囲気なので私も嬉しくなり、戸惑いつつも笑顔でお礼を伝えた。



「…そんでな、今回の処遇なんだが…」


処遇…?


「…あの薬草の権利で国の上の方が揉めていたんだがな…結果的には一応権利や、管理は教会となった…」


教会…?

…町や国じゃなくて教会なんだ…


…あ、聖女が居るから…?


「物が物だけに国の上層部やらなんやらも割り込もうとしていたが、今回は教会が上手だったようであっさりと持っていかれた…」


俗世と関係の遠そうな教会が1番なやり手ってどうなんだろう…


あぁ、でも教会の大元は神聖国だったな。

…つまり、神聖国に上手いこと持っていかれてしまったのか…。


私の複雑な顔を見てギルド長とセオドアさんは少し笑う。



「…上での決定はそうなったが…それとは別で今回の発見等の功績を踏まえ、冒険者ギルドにもある程度の利益が入る事になった」


ギルド長はニヤリと悪い顔で笑っている。


「あそこで薬草が生え続ける限り、冒険者ギルドにも利益が上がる。…それ以外にも少し融通も利かせて貰ったしな」


おぉ…そんな、利益をずっとギルドに渡し続けるなんて…教会的には大丈夫なのかな…?


私の少し驚いた顔を見て、ギルド長が笑いながら話を補足する。


「見つかった他の薬草も貴重な物が多く、莫大な金額が排出されるだろう…そんな中でギルドに払う金額なんて大した事はない…」


そうか、あの薬草畑からは莫大な金額が排出されるのか…


「…あの、もし薬草が無くなったら、どうするんですか…?」


…私は、うっかり増やしちゃったけど…ずっとあそこの薬草を守る気はない。


採りきったら薬草は無くなってしまうのではないだろうか…。


私の不安そうな顔にギルド長はおかしそうに笑う。


「あんなに生えてるんだ。暫くは大丈夫だろう…」


笑うギルド長の瞳に少し暗いモノが混ざる。


「それに、万が一薬草が無くなったとしたら…それは教会の責任だ…」


少しだけ低くなったギルド長の言葉を捕捉するようにセオドアさんも話出す。


「権利を持った時点で管理を引き受けたのと同じです。

ですから、今後の問題は全て教会で解決するべき事となります」


珍しくセオドアさんが笑顔を見せる。


「…私達ギルドとしては、このまま育ってくれても、万が一枯れようともどちらでも大丈夫なのです。今の時点でかなりの利益が約束されていますからね。

…勿論、このまま増え続けてくれれば1番ありがたいですが」


セオドアさんは爽やかな笑顔でそう言い切った。


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