第25話 状況悪化?
少し待つとすぐにギルド長が顔を出す。
後ろにはアンナさんともう1人、補佐の人が居た。
そう、名前は確か…セオドアさんだ。
「よぉ、チビ。お前、すげえ情報持ってきたらしいな」
ギルド長はこちらに来つつ、軽い調子で話しかけてくる。
後ろに居るセオドアさんはそんなギルド長の様子に少し呆れたようにため息を吐きつつ、こちらに向かって会釈する。
思わず私も会釈で返すと後ろでアンナさんがまた少し困ったように微笑んでいた。
「とりあえず、こんな所で話せる内容じゃないし、上に移動だ」
そう言われ、ギルド長に上の部屋へと誘導された。
促されるままに進むと先頭がギルド長で後ろにはセオドアさんがいる。
なんか、挟まれてる…
アンナさんは来ないのかチラリと視線を向けると前にいるギルド長から声がかかる。
「アンナは受付があるからな…」
…そうか…仕事なら仕方ないよね…
なんとなくアンナさんへと視線を向ければ心配そうな顔でこちらを見ていた。
何故か頭の中ではドナドナな牛の曲が物悲しく響いてくる。
来た時は爽やかで元気いっぱいだったはずなのにどこで間違えたのだろうか。
なんとなく腑に落ちない気持ちでギルド長の後について上がる。
今回連れて来られたのは嘘発見のある応接室だ。
これは、嘘は許されないという事だろう。
「まずは、チビ。お前の話を聞こう」
向かいにはギルド長と補佐のセオドアさんが座り、こちらのソファは私1人。
今回はお茶は出ないようだ。
…まぁ、良いけど。
「…あの、以前買い取って頂いた貴重な薬草の群生地を見つけたので報告に来たのですが…」
ギルド長はチラッとセオドアさんを見て、セオドアさんが頷く。
なんだか、最初の時と似てるな…。
「それは、お前が今日持ってきた薬草で間違いないか…?」
「はい。今日の朝、確認してきました」
「…今日の朝…?」
「はい。昨日…話を聞いて、思い当たる事があったのですが…、確認をしてから報告をした方が良いかと思いまして…」
嘘は言わないように慎重に言葉を選ぶ。
「…朝、キチンと確認をしてからギルドに報告に来ました」
「…て事は、群生地はこの町の近くって事か…?」
ギルド長は真剣な面持ちでこちらを見る。
「…この町の近くと言うか…この町の中に生えてました」
…そして、群生地にしてきました。
心の中でギルド長へは言えない一言を呟く。
「「…は?」」
ギルド長とセオドアさんの声が重なった。
「あの、教会の北の方に(今では)沢山生えてます」
「…教会…か…」
「…」
ギルド長とセオドアさんは一度2人で視線を合わせ、何やら頷き合っている。
「…なるほど。…あり得なくは…無い、か…」
ギルド長は何かを考え込み、セオドアさんは私の方をジッと見つめる。
「貴方は何故そんなところに生えている事を知ったのですか?」
落ち着いた様子のセオドアさんから質問された。
「…えっと、私は、この町に来て日が浅いので…町を色々と歩き回っていました…。
そしたら…たまたま教会の北側に生えているのを知って…」
私は慎重に答える。
セオドアさんは視線を逸らすことなく、質問を続ける。
「なぜ、知った時点でその話をしなかったのですか…?」
「…それは…それが本物だという確認をしてなかったので…ちゃんと自分の目で見て本物だという確信を持ってからお知らせした方が良いと思って…」
嘘にならないように返事をするとギルド長が口を挟んできた。
「あー…、だから昨日、資料室に寄ってから帰るって言い出したのか」
「…どういう事ですか?」
セオドアさんの視線がギルド長へと移り、少しホッとする。
「コイツに昨日狙われる可能性を伝えただろ…?」
ギルド長はチラリとこちらを見る。
それに釣られてセオドアさんもこちらを見る。
「狙われてるって言ったのに、すぐに帰る事もなく資料室に寄りたいって言われてな…」
「…不用心ですね」
セオドアさんの素朴な感想が胸に刺さる…。
…そうか、不用心だったのか…
「…ちょうどアンナの上がりの時間まであと少しだったし、都合はよかったんだが…
…普通は、狙われてるかも…なんて言われたら怖くてすぐに帰ろうと思うだろ」
…え?
「だから、わざわざ何を調べてんのかなって思ってたんだが…そうか、この薬草について調べてたのか…」
ギルド長は勝手に納得しつつこちらへと確認の視線を向ける。
…えーっと…まぁ、そうなるのかな…
「…昨日は確かにこの薬草について調べてました」
セオドアさんは何かを確認したのか、ギルド長に向かって頷いている。…嘘はついてないよ。
「…そうですか。では、本当にこの薬草がこの町に群生しているのですね…」
セオドアさんはそう言うと難しい顔をして黙り込んでしまった。
「…あぁー…面倒くせぇ事になってきたな…」
ギルド長も頭を掻きつつそう呟いている。
あれ?…町の中に不足していた貴重な薬草が沢山生えててラッキーって感じじゃないのかな…?
「…ひとまず、薬草の規模と場所を確認しましょう」
セオドアさんらはそう言うと、この町の簡単な地図を広げ私へと確認を促す。
請われるままに場所と生えている薬草の種類や量とその辺りの様子を伝えるが、話す度にギルド長とセオドアさんの眉間には皺が増えていく。
「…やばいな」
「…こんな規模の薬草畑が出現するとは…」
2人は難しい顔をして唸っている。
「あ、…あの」
声を掛けた私に2人の視線が集中する。
「…私って、もう狙われる心配は無いですか…?」
「「…」」
1番気になっていた事を聞くと、2人は黙ってしまった。
え、貴重な薬草の仕入れルートが確立したなら私なんてもう用無しなのでは…?
「…これから上役達で薬草畑の今後と整備等についての話し合いをする事になるだろうが…」
ギルド長が話始めたが、その内容は私には関係のなさそうな話だ…。
ギルド長はグリグリと眉間を揉みつつため息を吐く。
「…色々と国の上層部での問題が絡んでいるからな…状況的に神聖国の介入も検討される事案だ。
…そして今の所、この情報は機密扱いとしての制限を受ける場合がある…」
…神聖国…?…機密扱い…?
…神聖国ってこの町にいる聖女様を追放した国だったよね…。
「…よって、方針が決まるまでは一般に情報が公開される事は無い…つまり、状況的には何も変わらない」
…え…状況、変わらないの…?
「ついでに、…情報漏洩を防ぐ目的によりお前は暫く護衛兼監視対象となる可能性が高い」
護衛兼…監視対象…。
…あれ、前より悪化した…?
いや、狙われてるだけよりは…良い…の、かな…護衛もして貰えるみたいだし…?
…護衛…いらないけど。
私の複雑な表情を見てギルド長は少しだけ顔を緩める。
「…まぁ、今後の方針が決まればお前への処遇もすぐに決まるだろう。情報漏洩の監視と言っても念の為程度の軽いものだし、護衛だと思えば悪くはないだろう。
…それに、薬草畑を確認して方針が決まれば情報提供の謝礼金もそれなりに貰えるはずだしな」
情報提供の謝礼金…
「…謝礼金なんて出るんですか?」
「あぁ。…当分先の事にはなるだろうが、結構貰えるんじゃないか…?」
「…そうですね。いち早くこの情報を知れたのは不幸中の幸いです。…それを踏まえるとギルドへの貢献度は高いと判断されるでしょう」
セオドアさんも頷いている。
「それと、アンナに渡した薬草も買取にするから後で受付で報酬を受け取っておけよ…」
手渡して忘れていた薬草も買い取りして貰えるようだ。
あれ、思っていた展開とは違うが、結果的に稼げてる…?
落として上げられた気分で少し複雑だが、とりあえず予定に無かった臨時収入がある事をラッキーだと思う事にしよう。
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