第24話 薬草畑

翌日の朝、町の北の方へと向かう。


狙われるかもと聞いたのでなるべく早朝にコッソリと行こうとも考えたが、精霊達が見張ってくれると言うのでお言葉に甘えて普通の時間帯にした。


『主様、あそこです』


町の端っこにある古い教会。

念の為、少し遠くから教会の様子を伺う。


ベルから聞いてはいたけど思ってた以上に古い…いや、正直に言うとボロい教会に、ちょっと古い質素な服を着て何やらわちゃわちゃとしている子供達。


一部の子供達を引き連れた修道服の人が教会の裏手にある畑などの野菜を収穫している。


あ、そういえばお金が無かったら教会に行くと良い的な事を門番が言っていたな…。


子供が沢山居るし、教会はどうも孤児院的な事もしているのかもしれない。


わちゃわちゃといる子供達はなんだか楽しそうに過ごして見える。


さりげなく、ぐるりとちょっと遠目から教会の周りを歩くと、聖女はすぐに見つける事ができた。


教会のシスターっぽい人と小さめの子供の相手をしつつ、外で洗濯物をしていた。


井戸のような水場で洗濯物を洗っている。


小柄でとても華奢なため子供達に埋もれがちだが、1人だけ周りをピカピカ光る精霊達がずっとくっついている。


なんとなしにその光景をぼんやりと見つめていると、聖女は小柄な割にパワフルなのかちょこちょことよく動き回る。


他のシスター的な人たちや子供と一緒に洗濯をしていると思うと洗い終わった物から順番に干している。


騒ぐ子供達にも目を配り、泣いている子に気づくと抱き上げて振り回し、笑顔になると再び洗濯へと戻る。


コッソリと精霊達が水を温めたり、風を起こしたり、重さを軽くしたりとお手伝いして、それに聖女も気付いてお礼を言っているのが微笑ましい。


それらが終わると野菜の収穫のお手伝いへと移動する。

子供も精霊も引き連れての大移動は見ていると少し面白い。


ミルクティー色の髪に瞳の色は優しいブラウン、軽い足取りでちょこちょこと子供達のお世話や一生懸命洗濯をする様子に聖女様っぽさは無いがなんだか良い子そうだ。


聖女の様子を確認する事ができたので、次は教会の北へと向かう事にする。


聖女には精霊が付いているので見つけやすいが、逆にいえば精霊を連れているとあちらからも見つかりやすいので、もう少し見ていたい気もするけれど長居をするのは止めておく。


聖女は思った以上に良い子そうだったな…。


付いている精霊も多く見えたし、聖女様らしくは無いが、聖女として相応しい人柄に見える。


聖女について考えながら歩くとすぐに目的の場所へと到着した。


思っていたよりも教会から近い…。


今は雑草が生い茂っているが、ひょっとしたら昔は薬草でも育てていたのかなと思うような場所だった。


町の人もあまり来ないような場所で程よい距離感とスペース。雑草に紛れてわかりにくいがチラホラと色々な薬草も生えている。


そして、その雑草に紛れて例の貴重な薬草も確かに生えていた。


…ただ、量が少ない。


10〜20株くらいかな…


うーん…と、しばらく悩んだ結果、増やす事にする。


なんとなくやり方はわかるのでその薬草の成長を促した。


どれくらい増やそうかな…


薬草を増やしつつもどこまで広げるかを悩む。


すると、見ていたベルや他の光達も何やらキャッキャと楽しそうに真似を始めた。


「…ちょっ…待っ…あ」


止める間もなく…


気が付けば、うっかり一面が例の貴重な薬草畑へと変わっていた…。


「…」


ベル達は楽しそうにフワフワクルクルと飛んでいる。


「…あー…、…ま、いっか」


人間、諦めが大事な時もある。

……あれ、そもそも私って人間だ…よね?


まぁ、細かいことは置いておいて…

…なんだかこうなってくると、せっかくなのでチラホラ生えていた薬草達も少し増やしたくなる。


ここに生えている薬草は珍しいモノが多いので、私の薬草採取に影響はないだろうし…。


気持ちの良い場所でご機嫌な精霊達に釣られて私も軽くテンションが上がる。


気持ちよく薬草達に成長を促し、ついでにこの辺りの土壌も豊かな物へと変える。


近くに居た小動物たちのために木の実等も増やし、季節外れの果物が出来た所で我に返った。


…はっ、危ない危ない。 

気分が良くてついつい手を広げ過ぎる所だった…。


多少、やり過ぎ感はなくもないけれど、近くの教会に聖女が居るのだから精霊達がこれくらいしたと思えば許容範囲内だろう。


聖女の周りでお世話する精霊達を見ていたので、これくらいは大丈夫だと思ったのだ。


私は、自分に常識が無いことは知っていたはずなのに…。


…そう、私は知らなかったのだ。


小さな奇跡ではなく、目に見えて自然に影響を与えるほどの奇跡は余程力の強い精霊を連れた聖女にしか起こらない現象だと言う事を…。


そして、そんな聖女は歴代の聖女の中でも、とても稀な存在だと言う事も…何も知らなかったのだ…。


…つまり、突如出来たこの薬草畑によってこの町の聖女の立場が大きく変わる事になるなんて…全く、考えてもいなかったのだ…。 



何も知らない私は爽やかな気持ちで朝のギルドへと顔を出す。


そして、意気揚々とアンナさんへと報告をした。


「アンナさん、私あの貴重な薬草の群生地を見つけました」


受付では、いつも爽やかな笑顔のアンナさんが笑顔のまま一瞬だけ固まり、その後、作ったような笑顔へと変わった。


あ、いきなり過ぎたかな…


「おはようミサトちゃん…。えっと、疑うわけでは無いのだけど…その話は、本当?」


疑う訳では無いと言いつつも、とても怪しい笑顔で対応される…。


いや、メチャ疑ってますよね…?


いつもの優しいアンナさんとは違い、どこか不信感のような空気を感じる。


そりゃ、そうなるか…


なんとなく、無条件に信じてもらえると思っていた自分に気付いて少し驚きつつ、少しだけ反省しつつ改めて落ち着いた態度で報告し直す。


「いきなりの事で信じられないかもしれませんが、本当の事です。もし、よろしれば場所はお教えしますし、希望なら案内も可能です。

…そして、こちらが一部採取した現物になります」


私の丁寧な説明と差し出した薬草に、アンナさんは困惑した顔で私が差し出した薬草を手に取る。


そして、決して悪戯等では無いと言う事を理解したのか雰囲気が少し柔らかくなった。


しかし、まだ完全には信じきれてはいないようだ。


「あ、えと、…疑ってる訳では無いのだけど、急な事過ぎて…少し信じる事が、難しいというか…その都合が良過ぎるというか…」


戸惑いつつも、正直に都合が良過ぎる事を伝えてくるアンナさんは基本的に正直なのだと思う。


そうか、都合が良過ぎたか…


…でも、まぁ都合が良いなら別に悪い事じゃないよね。


「確認して貰えば、すぐにわかると思いますが…」


私の少し困ったような顔にアンナさんも少し困ったような笑顔をみせる。


なんか、困らせてすみません…


「…そうね、ごめんなさい。

ちょっと奥で報告してくるので、少し待っててくれる?」


アンナさんはそう言うと、薬草を手に持って奥へと入っていった。


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