第23話 聖女と精霊

資料室にてベルに詳しい事を聞く為、例の貴重な薬草についての資料を広げ情報を確認しつつ資料室の様子を伺う。


明るい時間にはそれなりに人の出入りがある資料室も既に遅い時間な為、人は誰も居ないし来そうな様子もない。


念の為、外では光達が誰か来た時には教えてくれるように見張りをしてくれている。


「ベル、さっき言ってたこの町にこの薬草があるって話なんだけど…」


ベルは役に立てるのが嬉しいのかニコニコと張り切って教えてくれる。


『はい!量はそんなに無いですが、教会の北の辺りに生えてますよ』


教会の北…私がまだ行ったことのない辺りだな…


「…この薬草って滅多に生えてない上に育てることもとてもとても難しいって資料に書いてあるのに…」


…なんで、町にしれっと生えてるのか…


『あ、多分この草、私たちのいる所でしか育たないんじゃないですか?』


「…?

…どういう事?」


首を横に傾げるとベルも同じように首を傾けつつ答えてくれる。


『この草の成分が私たちから流れてる魔力を元に成長しているのである程度精霊が居る所でしか育たないんだと思います』


…あぁ、なるほど。そんな薬草があるなんて、それは貴重そうだね…。


資料には一部教会が管理する場所があるって書いてあるけど…


「…あ、教会が管理してるって…聖女が居ると精霊も居るから薬草も育つって事なのかな?」


思いついた事を口に出すと、ベルはニコニコしながら返事をしてくれる。


『そうですね。そうだと思います。

この町に生えてる草も聖女が町に来たので付いてきた精霊達によって育ち始めたのかもしれないです』


…なるほど、ちなみに莫大な費用がかかるとも書いてあるけど、これはひょっとして…薬草ではなく聖女に費用がかるってことなのかな…?


「…ベル、北の教会って豪華だったりする…?」


なんとなく教会に対して軽い疑惑を思いつき聞いてみたがベルはキョトンとした顔をしている。


まるで思ってもいなかった質問をされた顔だ。


『えっと、教会は古いです。…劣化も酷くて聖女に付いてきた精霊達が怒ってました」


ちょっと考えつつ話すベルの周りを光達が飛び回る。


何かを伝えているようだ。


『…どうも、この町に居る聖女は国を追い出されたようですね…』


ベルが話始めると光達が静かになる。


「…国を、追い出された?」


『はい。…なにやら聖女の座を別の聖女に奪われたらしいです』


え、不穏…。

ベルの横を光達が静かに飛んでいる。


『大したことのない魔力なのに、いつも偉そうにしてる女にここに追いやられたと言ってます』


どうやら、光達の中に聖女様に付いていた子も混ざっているようで、ベルはいくつかの飛び回る光達を捌きつつコチラへと説明してくれる。


聖女なのに…聖女なんて清廉潔白な憧れの存在なはずなのに…

…そんな陰湿なドロドロした部分があるなんて、なんかガッカリだ。


『この町の聖女を気に入った子達がずっと付いて見ていたらしいのですが…その事で精霊達はぷりぷりと怒っています』


光達はそれを伝えたかったのか、賛同するように赤くピカリピカリと光る。


精霊達はこの町にいる聖女の味方のようだ。


…この町の聖女様は精霊達に随分気に入られてるんだな。


さっきから周りの光達もずっとこの話を聞いて欲しそうにしてたし…精霊とこの町の聖女との親密そうな関係性に少しホッコリする。



『…残念な事に…国を追い出されてからはせっかく上質だった聖女の魔力の質が落ちてしまったらしいです…』


ベルは同情を滲ませた顔で光達を見る。


『…貴重な、上質の魔力を損なった事にそれは当然みんなご立腹になりますよね…』


「…」


…ベルの言葉に思考が一瞬停止した。


…上質な魔力を損なったことに…ご立腹…。


はて…?


聖女を不当に追い出した事に…じゃなくて…?


『…珍しくとても良い魔力の持ち主のようだったのに…環境や食生活の変化のせいで質が少し落ちてしまったようで気の毒です』


ベルは同情を浮かべた瞳で光達を見つめ、光達も分かってもらえて嬉しいのかピカピカと光っている。


そもそも魔力の質って環境や食生活で変わる物なんだ…。


ベルは光達からコチラへと視線を戻す。


『…あの、だから、この町に居る聖女は聖女ではありますが、今は聖女の地位には着いていないようです』


どうやら聖女の世界も色々と大変そうだ…。


そして、どうも聖女と精霊の関係も私が思い描いていたモノとは少し違いそうだ。


…やっぱり聖女となると教会や国が絡んで政治的なアレコレとか関係してくるのかな。



「…じゃあ、今は別の聖女が聖女様なの?」


『そうみたいです。でも、この町の聖女より全然美味しくないので精霊達もそんなに付いていないらしいですが…』


美味しくない…


精霊にとっての聖女の魔力って嗜好品的な感じなのかな?


…聖女と精霊の関係はやっぱり私が思っていたのとなんか違うようだ…。



「…そもそも聖女って精霊が見えるなら誰でも良いモノなの?」


『いえ、見える時点で一応聖女にはなれるようですが、付いている精霊が多い程に聖女としての地位が高いようです。

…なので、一応魔力の質や量も関係はあると思います』


…あぁ、精霊達は質の良い美味しい魔力の方が好きっぽいもんね。


「じゃあ、美味し…じゃなくて、精霊に好かれやすい方がより聖女に相応しいってことだよね?」


『そうですね。

やはり聖女に付いている精霊が多いと、より良い魔力の為にも聖女の身体の質を下げないように周りの実りを多くしたり不穏な物を取り除いたりと環境を整えるような精霊も増えるので…』


…そうか…精霊も好きな物(魔力)をより良くする為に頑張ってるんだな…。


ベルの話を聞きつつ思わず遠い目になる。



『…精霊が多かったり強ければ環境を整える範囲も広がりますし、それによって町や国が栄える事はありますので…結果的に聖女の地位も高まると思います』


それならば、ただの名誉職ではなく聖女としての役割を一応こなしているのだな…。


…でも、それなら優秀な(美味しい)方の聖女を国から追い出してしまって、今の聖女様は果たして大丈夫なのだろうか…?


…うーむ…まぁ、どうなろうとも自業自得であるし…


ま、良いか。


それよりも…


「…この町の聖女様はこのままで良いのかな?」


不当に国を追い出されたしまった聖女様…


なんとなく、故郷を追い出された聖女を思ってしんみりとした気持ちになる。


『良いかはわかりませんが、それなりに楽しくやってるみたいですよ。

精霊たちが言うにはちょっとずつ魔力も元の質を取り戻しつつあると言ってましたし』


特に気にした様子もないベルの言葉に周りの光達もどこか誇らしげに光る。


どうやら、ここでも精霊達はより良い魔力の為の環境作りを頑張っているようだ。動機はなんであれ聖女様にとっては良い事だろう。


どこか自慢げな光達を見ていると、聖女に付いてる精霊達がまるで上質な野菜を育てている農家や酪農家の人達のようににみえてくる…。


質を高める為に何をしているのか具体的に教えて貰おうとした所でベルが資料室の扉へと視線を向ける。


『主様、来ましたよ』


どうやら、アンナさんの仕事が終わったようだ。


聖女様の魔力の魅力とその質の高め方については、また機会があれば聞いてみたいなと考えつつ資料を片付け始めると資料室の扉が開き、アンナさんが顔を出す。


「ミサトちゃん、お待たせ」


アンナさんの仕事終わりなのに疲れを感じさせない、いつもの素敵な笑顔に気持ちがなんだか癒された。


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