第22話 貴重な薬草
「…ま、今回の問題は、そこじゃないんだが…」
私が腑に落ちない顔をしている事には触れず、ギルド長は話を進める。
…?
話は大体終わりかと思ってたんだけど…
ギルド長はまた苦い顔に戻って話し難い雰囲気で先を続ける。
どうやら話の本番はこれからのようだ…。
「…アイツ…というか、アイツの実家がお前が貴重な薬草類を持ち込んだ事を知ったらしくてな…その伝手を狙ってる可能性がある」
「…」
貴重な薬草類…?
…あぁ、最初に持ち込んだ奴か…
ベルがまだ沢山持ってるし、出来れば残りもその内に売れたら良いのになぁ…
…って、私がその薬草を持ち込んだ事を知ってるって…それって情報漏洩じゃないの…?
「…ギルドは個人情報を教えたりするのですか?」
私の不信感の混ざった視線を受けて、ギルド長は苦々しい顔のまま首を振る。
「いや、情報は基本的に外部には教えたりしない。冒険者にとっては命綱の場合もあるし…それだけは確かだ。
今回は…奴の実家が商家であり、薬草等を扱っている関係でたまたま情報を知る事が出来たのだと思う」
ギルドが教えたわけではないのか…
「あの薬草を冒険者ギルドから卸した時期に登録したそれらしい冒険者はお前しかいないからな…。
そこまで大きな町でもないし、他所から来た冒険者で絞り込んだら簡単に辿り着いたのだろう…」
えぇ…
「あの薬草はそれだけ貴重だし、ついでにお前はそれなりの見た目だし、アイツが目を付けそうな事ぐらい予想できた筈なのに…」
それなりの見た目…褒められてる…?
「通常なら卸す日をズラすとか他の薬草類とまとめるとかするんだがな…緊急時なのもあって慌てて届けたのと…」
ギルド側も普段はそれなりに配慮をしているようだ…
「…お前が毎日、のほほんと薬草採取して受付の奴らと楽しそうにしてるから…つい、気が緩んでいたというか…注意するのを忘れたというか、なんというか……その…」
ギルド長は気まずそうにコチラを見る。
「…わるい…うっかりしていた」
…ギルド長はテヘペロみたいな苦笑いでコチラを見る。
えぇ…いや、そんな顔でそんなコト言われても、良いよ気にしないで…とはならないよ。
しかも…なんだか、微妙に私にも責任被せてない…?
「…でも、私の手元に既に薬草はないのでそれを知ったら終わりな話なのではないですか?」
少しだけムッとしながらギルド長を見ると再び首を振られる。
「いや…それが、そう簡単にはいかんのだ…」
「…それは、どういう…?」
「最近貴族の間では、ある病が流行っているんだがな…それを治す為に必要なのがあの貴重な薬草なんだ…。少し前までは一定数確保出来ていたのが、急に不足し出してな…」
えぇ…
…いや、でも既に私が薬草を持っていないのなら…やっぱり関係ないのでは…?
「貴族達も命が掛かっているし、なんとかして手に入れようとその薬草入手の為に人脈の争奪戦が始まっていてな…貴族、商家関係は今あの薬草を巡って大変な事になっているんだ…
そんな中、誰の手も付いてない入手経路が出てきたら何としても手に入れようと考えるだろう…」
…えぇ…
「…既に手元には無くても、一度貰ったのだからまた貰う事は可能だろうと考えてもおかしくはない」
…いや、おかしいでしょ。なにその図々しい考え…
ギルド長はこちらをジッと見つめる。
…なんだか嫌な予感がした。
「…つまり、お前は狙われる可能性が高い」
………最悪なんですが…。
「しかも、情報が漏れれば貴族にも狙われる可能性がある」
「…」
ギルド長からの同情と憐憫の混ざった視線は今の私にとって何の足しにもならない…。
別に薬草を渡して解決するのなら喜んで渡すけど…でも、そんな簡単な話でもないしな…。
むしろ、そんな事したら余計に悪化する未来しか見えない…
「ひとまず、今日のところは送って行くが、今後1人になる時は注意してくれ」
「…」
「本当なら護衛でも付けてやりたいが、ギルドとしても今回の件はまだ不確定要素が多くてな…。
狙われると言ってもまだ予測の段階だ…確実に狙われていると決まったわけじゃないから表立っては動けんのだ…」
ギルド長はきまり悪そうな表情でコチラを伺う。
何かが起こるか、確実なモノが無いと動けないのは現代の警察と一緒らしい。…権力者相手には特に。
なんか面倒だし、もう…いっそ、この町出てこうかな…。
なんとなくボンヤリとそんな事を考え初めていると飛び回りもしないで珍しく横で一緒に話を聞いていたベルが私に話しかけて来る。
『主様、貴重な薬草ってこの前、整理しようとした草ですよね…?
あれなら、この町にも生えてますよ』
「…え?」
「…ん?どうした?」
うっかりベルの言葉に反応してしまった。
「…あ、いえ、少し…思いついた…事が…ありまして…」
ベルの話を聞きたいが、ここでは聞けない…。
「少し、資料室で調べ物をしてから帰っても良いですか?」
私の突然の言葉にギルド長は少し戸惑いつつも頷いてくれる。
「あ、あぁ。もちろん良いぞ。
…むしろ、もうすぐアンナの仕事終わりだから都合がいい。少し待っていてくれるなら丁度アンナに送らせる事が出来る。
…お前、確かアンナと仲が良かったよな?」
ギルド長はそれなりに私の事を考えてくれているようでアンナさんを付けてくれようとする。
でも…夜道を女の人に送らせるなんて…
「…確かにアンナさんには良くして頂いてますが…
…若い女の人に送らせてるなんて、逆にアンナさんが危ないのでは…?」
私の心配気な様子にギルド長は少し遠い目をして答える。
「あー…、あいつはあんな見かけだが、そこらの冒険者より余程腕っぷしは強い。…だから心配するな」
…アンナさんて強いんだ。
すごい。可愛いのに仕事が出来て強いなんて最高だな。
…アンナさんに危険がないのなら、よく知らない人よりも全然嬉しい。
…いや、本当は私に危険などまず無いのだけど…。
「…わかりました。
では、お言葉に甘えて資料室でアンナさんを待たせて貰います」
私はペコリとお礼の気持ちを込めて頭を下げつつ返事をする。
「おぅ。もう少しかかるだろうから、これでも持っていけ」
ギルド長は机の引き出しから幾つかアメを出すと私の手へと持たせてくれる。
「あ、ありがとうございます」
甘いモノだ…。
嬉しさがつい顔に出てしまった私を見てギルド長も少し安心した顔になる。
「まぁ、色々と言ったがあくまでまだ可能性の話だからな…。
注意だけは必要だが、あまり考え込み過ぎないように」
ギルド長はそう言うと資料室まで送ってくれた。
このギルドの人って、基本みんな良い人ばっかりなんだよね。
ひとまず資料室にてベルの話を聞きつつアンナさんを待とう。
そして…どうしたら良いのか、少し頭を整理しようと思う。
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