第21話 ランクの抜け道

「お前ら何やってんだ」



…ッ


まさに動こうとした直前、そう、あと1秒遅かったら手遅れだった…その寸前に、救世主が登場した。


その声と気配に、ギリギリ反応出来てなんとか止める事が出来た。



なんと、こんな町には不釣り合いな金髪碧眼の騎士服を纏った大人なイケメン…


…ではなく、厳つい顔のギルド長だ。



厳つい顔に合った低めの迫力ある声で私たちの間に割り込み助けてくれた。


…いや、命を助けられたのは私ではなく相手なんだけどね。


そう、危なかった。


…もう少しで、うっかりこの世からチリも残さず綺麗に消し去るトコロだった…。


アブナイアブナイ…


…私、かよわいJKだし、そんな事シナイヨ。



「お前たち、こんな小娘相手にいったい何をしているんだ」


知らないうちに命を救われた男達はギルド長を見て小さく舌打ちする。


命の恩人に向かってなんという態度だ。


「ただパーティーに誘ってただけだろ。ギルドには関係ないはずだ!」


男の方はイキりつつ言い返したが、ギルド長の登場に若干腰が引けている。


女の方もいつの間にか男の後ろへと隠れつつコチラを睨みつけている。


「お前たち、ギルドカードを出せ」


ギルド長の言葉に男達は少し戸惑う様子を見せた。


「…な、なんで、カードを出す必要があるんだよ!」


少し勢いが落ちて顔色も悪い。


「お前らの素行の悪さに最近苦情が来ている。合わせて減点だ」


「は?何だよそれ!」


「身に覚えがなければ再調査要望書を提出しろ。調査次第では減点取り消しだ。…ただし、再調査でも結果が同じなら減点ポイントが加算されるがな」


女が男の服を引っ張ると男は女の様子を見て少し考える。


「俺らは別に何もしてねぇ。

…ただ親切心で声をかけてやっただけだ!

…なのに、こんな風に扱われるなんて、やってられねぇぜ!!」


男は最後の男気を振り絞ってそれだけ言うと、急いでギルドから飛び出して行った。


女達もそんな男を見て慌てて追いかける。


そんな彼らを見て、ギルド長は大きく溜息を吐いた。


「…今カードを出さなくとも次回カードを出した時に減点はされる。遅いか早いかの違いなんだが…」


独り言のようなその発言を聞き、反撃する事は出来なかったが、あの人達にそれなりのペナルティが課せられるようなので今回はそれで収めてあげる事にした。


よくわからないが、これでもうBランク間近だとは吹聴出来ないだろう。


…そして、走り去る彼らにベルさん指導の下、小さい光が2、3個くっ付いていたのは見なかったことにしようと思う。





「ありがとうございました」


ギルド長はあの後、すぐに私を2階の部屋へと案内してくれた。


雑然とした部屋の中、私が頭を下げてお礼を言うとギルド長は厳つい顔を崩して少し情けない顔をする。


「いや、今回はこちらの落ち度だ」


混み始める時間帯でもあり騒がしかった下の階とは違い2階はとても静かだ。


今回はどうやら応接室ではなくギルド長個人の部屋のようで机には書類等が積まれ、雑然とした印象を与える部屋で話を聞いている。


大事な書類とかあったら怖いので入る前に確認したところ、笑いながらそんな大事な書類をこんな所に置く筈がないだろうと言っていた…いや、普通は大事な書類だからこそギルド長の部屋にあるのでは…?


ひとまず部屋に設置された応接セットの椅子に座らされ、ギルド長自らお茶を入れてくれる。


前の時とは対応がえらい違うな…。


頂いたお茶を飲んでホッとするとギルド長が話を始めた。


「あいつは少し前から問題になってたんだ」


苦々しい表情から思っていた以上の問題児だったのかもしれない。


「元々この町でもそれなりに有力な商家の1人息子でな…顔も整ってるし女にもモテて調子にのった…まぁ、元から問題児な奴ではあったんだが…」


この町の人なのか…なんだか面倒そう…。


「ギルドに登録してからも、実家やお金の力を使ってトントン拍子でCランクまで昇ったんだがな…ま、それも問題でな…」


え、実家やお金の力でランクって上げられるの?


私の驚きの表情に気まずそうに頭を掻きつつ説明してくれる。


「ギルドは一応、国に縛られる事のない独立機関の組織ではあるが、大きな組織を保つ為にはそれなりの忖度も必要になる…」


ギルドって独立機関だったんだ…知らなかった…

…それに、大きな組織にはだいたいそれなりに後ろ暗い事もセットであるよね…


「さすがにBランク以上は無理だが、Cランクまでは抜け道があるんだ…

貴族の坊ちゃんとかが箔付のためにランクを取る事もあるしな…」


「…あの、そんな事、私が聞いて大丈夫ですか…?」


そんな裏事情を私のような新人が聞いて良いのだろうか…?


私の心配を他所にギルド長は苦笑する。


「これは公然の秘密というか、ある程度知られた話だから大丈夫だ」


「…そうなんですか…」


「しかしな…貴族の箔付なら実力が伴ってなくても良いが、冒険者としてやっていくのなら致命的だ」


そりゃそうだろう…。

いくらランクが上がっても実力が上がるわけでもないし…


「あいつはそれを理解してないんだ…。

そもそも全部自分の実力だと思い込んでいてな…下手に自信がスゴいからアホな奴はそれを信じて奴に付いて行く」


アホな奴…あ、あの女の人達みたいな?

…そうか、実家の力で楽にランクアップしてたのに実力でCランクになったと思ってるから冒険者なんてチョロいと思ってるのかも…


「…奴はBランクも間近だと思っていたようだが、さすがにそれはない」


「…」


「そもそも、奴は討伐さえ経験がないのにBランクになれる筈がないんだ…」


「…え?…討伐に連れて行ってやる…的な事言ってましたけど…?」


ビックリしてギルド長を見つめるとギルド長は大きなため息を吐き出す。


「討伐には一応行っているのだが…実際に討伐を行なっているのは雇われた護衛達だ」


え…


「…それって、アリなんですか…?」


「奴の実家は“人を使うのも実力の内”だという理念を掲げている」


いやいや、それが通るなら国の王様筆頭に管理職の人達みんな、冒険者ランクトップになっちゃうじゃん…。


「…まぁ、そんな事が許されるのもCランクまでだ。

Cランクはある程度真面目に長く頑張れば到達出来るランクでもあるし…

本当に才能のある認められた実力者はBランク以上だからな…」


…実力者として認められるのがBランクからなんて…そんな暗黙の了解があるのなら先に教えておいて欲しい…。


…あれ、じゃあ私のEランクって初心者って丸分かり…?


「…ま、だからコツコツやってりゃお前もすぐにランクは上がるさ」 


絶妙なフォローをされたが全く腑に落ちない…。


今度、アンナさんに詳しい話を聞いてみよう…


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