第15話 ギルド長
ギルドの資料室にて薬草について調べてみたが、先日持ち込んだ薬草は、本当に貴重な物だったようだ。
魔獣の多く住む森の奥深くにしか自生せず、そこに足を踏み入れる事の出来る上位冒険者達が持ち帰ってこない限りほぼ手に入る事がないような薬草だった。
一部教会が管理する場所もあるようだがそれこそ維持に莫大な費用が掛けられているようだ。
そして香辛料の方もこの国では採れず、輸入に頼った状態の貴重な物だったらしい。
ベル達にとっては人間が採っていた物で覚えているものをそれぞれ持ち寄った結果だったらしいが、今後も気をつけなければうっかりとんでもない物が混ざっていそうだ。
そして、そんな事態を避ける為にも自分自身の手で必要な物を採取出来るようになるべきだろう。そんな事を考えつつギルドの資料室にある地図と薬草の資料を必死になって見比べる。
ギルドの資料室は現代日本の図書館のように大きくはないが程々の広さはあり、机と椅子もいくつか置いてある。必要そうな資料が其々の場所に分けて置かれ、その資料も厳選された物が多い為、逆に探しやすい。
そして、紙の資料は程々に貴重なので貸し出しはしておらず、持ち出しが出来ない仕様になっている。
その為、資料室にてその場で覚えるか、紙を持参して写すかしなければならないようだ。
手持ちの紙がないので、今日の所は興味の赴くままに覚えれそうなものだけ覚えて、後日必要そうな部分は書き写す予定だ。
朝の早めの時間から資料室に籠り、差し当たって必要そうな地理と薬草の種類と分布図を開き頭に詰め込む。
暗記系は割と得意でもあり、受験を思い出しつつ必要そうな情報を抜き出して記憶する作業に集中する。
「おい、チビ。大丈夫か?」
人気が全くないわけでもなく、かといって多くもない資料室は割と人の出入りはあるようだ。
また1人誰か来たのは気づいていた。
…しかし、知り合いがほぼいない私に声を掛けるものはいないだろう。
そう思って資料に集中していた所、頭に手を乗せられる。
「…おい、無視するんじゃねーよ」
驚いて振り返れば思っていたよりも近くにギルド長が居た。
「わ、…あ…どうも」
おもわず手を避けて後ろへと身を引きつつ頭を下げる。避けられた手を引っ込めつつ苦笑いするギルド長。
「…おう、元気そうだな」
気楽な様子で話しかけてくるが、こんな所で一体どうしたのだろう…
私の不思議そうな様子に気がついたのか気まずそうに手で頭を掻きつつぼそぼそと話す。
「いや、なんか朝早くから来てずっと資料室にいるって聞いたからよ…」
アンナさんかな…?
今日は受付には行かなかったが通る時に会釈はしたので資料室に入る所を見ていたのだろう。
「…はい。知らないことが多いので冒険者として働く前に色々と調べておこうと思いまして…」
「えらいな」
ギルド長は大きく頷きながら褒めてくれる。
「最近の若い奴はすぐに大きな手柄を立てようと無茶ばかりするからな…事前準備の大切さを考えれるのは良い事だ」
厳つい顔とは裏腹に優しい視線をこちらへと向ける。
ほうほう、先輩の助言は為になる事も多いのでこれはチャンスかもしれない。
「…事前準備って色々あると思うんですが何が大切ですか…?」
ちょうど良いので聞ける事は聞いておこう。
「そうだな…
まずは、武器と防具だな。自己防衛のために武器と防具を装備することが重要だ。剣、盾、鎧など、冒険に適した装備を選ぶことだ。
そして、食料と水。冒険中は食料と水を確保することが重要だ。長い旅や戦闘の間にエネルギーを補給するためには前もっての準備が物を言う。
あとは、冒険用具かな。解体ナイフ、防水布、コンパス、地図、ロープ、火の魔石などの野営用具があれば最悪何かあっても、夜が越せて何処かへ辿り着ける可能性が増える。
そして、医薬品と応急処置キットも持てるなら持っておくといい。怪我や病気に備えてポーションや応急処置キットを携帯しておけば軽い傷くらいならその場で治療出来るし、いざという時に生き延びる確率が上がる。
そして最後に依頼の目的や目的地に関する情報を集め、現地の情報や魔獣、地理についての知識を持つことだな。
そこにしかない毒物や魔獣は知識の有無が生死を左右する事も多い。
…まぁ、こういった下準備が結果的に冒険者の安全や成功に関わってくるからな…」
脳筋気味の見た目とは裏腹にその説明は力技ではなく丁寧かつ慎重だ。さすが、ギルド長になるだけはある。
ふむふむ。ひとまず、不自然でなく旅をするならそれら諸々が必要なのだな…。
「何処で揃えると良いとかありますか?」
ギルドマスターは私の質問に嫌な顔ひとつせずに丁寧に色々と教えてくれる。
無料でギルド長からこんなに信用出来そうな情報が貰えるなんてお得だ。
ついでに一般的な討伐方法や魔術や武術系はどういった感じなのかも教えて貰う。
細かく知りたい場合はここの資料室である程度は調べられる事も教えて貰った。
色々と聞くと面倒見が良いのか元々教えることが好きなのか、知りたい事以上の情報を丁寧に教えてくれた。
時間はあっという間に過ぎ去り…結局、眼鏡をかけたインテリ風の男の人がギルド長を呼びに来るまで付き合ってくれた。
「…帰ってこないと思ったら、貴方は一体何をしているのですか!」
「げ、セオドア…いや、これは新人冒険者にだな…あ、コイツは俺の補佐でセオドアだ」
インテリ風の男性はギルド長の補佐役でセオドアという名前らしい。
「あぁ、こちらが例の新人ですか…」
セオドアほチラリとこちらを見るとすぐに興味無さそうにマスターへと向き合う。
私は何となくペコリと頭だけ下げておいた。
「とにかく、貴方にはまだ仕事が残っているのです。早く戻ってください」
「わ、わかったから…、そんな引っ張るなよ!
…まぁ、そうゆうわけで…またな、チビ」
「あ、ありがとうございました」
「おう!」
セオドアに連れられてギルド長が去って行くと資料室は急に静かになった。
いつの間にか資料室には私達以外誰も居なくなっていたようだ。上の方にある換気用の窓から差し込む光もいつの間にか暗くなっている。
元々光が入りづらく、光源がある為全く気づいていなかったが結構遅い時間になっていたようだ。
今日はひとまず宿へと帰ろうかな。
『ヌシ様戻るのですか?』
ベルはずっとフワフワ浮きながら偶にピカピカと光達と交流したり資料室を見て回ったりしていたが、退屈では無かったのかな?
「…ベル、暇だったら無理に付き合わなくても大丈夫だよ」
私の言葉にキョトンとしている。
『…無理とは?』
「…暇だったり、嫌だったら出掛けても良いよって事なんだけど…」
『ヌシ様と一緒にいて、嬉しくはあっても嫌な筈がないです。…それに、嫌な気持ちになる事はするつもりもないので、ヌシ様に頼まれない限りはそんな事しませんよ』
そう…なの…?
まあ、よくわからない理屈だが、無理させてないのなら良かった。
何とも爽やかな笑顔で言葉を返されたのでそれ以上何も言う事なくギルドの資料室を後にした。
有益な情報を沢山知る事も出来たのでもう少し調べたら、ぜひ色々と実践してみたいと思う。
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