第16話 初めての薬草採取
資料室を出てギルドの入り口方面へと行くと人の多さに驚いた。ギルドにこんなに沢山の人が居るのを見るのは初めてだ。
今日の朝は早めの時間に来たし、前回はお昼過ぎの中途半端な時間だったので丁度人の少ない時間帯だったのだろう。
依頼から帰ってきたのか袋に何かを入れている汚れた冒険者や怪我をしている者、何人かで固まって話し込んでいる人など、色々な人でガヤガヤと賑わっている。
この間は2〜3組しか人がいなかった食事処のような場所もほぼ満席に近くなっている。
がっつり肉を食べている者もいればお酒をジョッキで飲んでいる人もいて、まるで居酒屋のようだ。
飲んでる人達は決して品が良いわけでは無いがどこか陽気で楽しそうだ。お酒が入れば声も大きくなり、人が増えれば雑音も増える。
この世界に来てここまで沢山の冒険者を見たのは初めてで少しワクワクしてきた。
受付もアンナさん以外の人が何人か出てきて対応している。
その独特の雰囲気に引き込まれ何となくギルドの端により、全体の様子を伺う。
さすがに幼い子供は見かけないが、10代と思われる若い冒険者から歴戦の戦士といった雰囲気の人や盗賊と言われても納得出来そうな輩まで色々と居る。
少し驚いたのは腕力の無さそうな女性も居ることだ。
いかにも腕っぷしの強そうな女性も居るが、意外に小綺麗な華奢な女性もチラホラ居る。
きっと魔術系の得意な女性なのだろう。
これなら、私が冒険者として他の街に行ってもをそこまで悪目立ちする事はなさそうだ。
マントを付けて顔を見にくくしている者もいるようなので、ぜひ真似させて貰おう。
ぐるりとギルド全体を見渡していると冒険者の1人と目が合った。
まだ若めのそれなりに顔の整った男だが、どこか荒んだ雰囲気を感じる。ジロジロとこちらを見ると仲間と思われる女の人達と何かを話し始めた。
話しかけられた女の人達がこちらに視線を向けるが、その視線はどこか敵意を含んだ冷たい睨むような視線だ。
何だか嫌な感じがしたのでそそくさとこの場を離れる事にする。
他人を観察するのは楽しいけれど観察されるのはあまり気持ちの良いものでは無いので今後は気をつけようと思う。
ベルは端に寄って観察を始めた私が急にこの場を離れようとしているのを不思議そうにフワフワしながら見ている。
受付の前を通り過ぎる時にアンナさんと目が合ったので軽く会釈をする。
アンナさんはニッコリと笑うと小さく手を振ってくれた。ちょっと嫌な気分が回復したのを感じて少し頬が緩む。
そんな私をさっきの男達がまだ見ていた事に気付いてはいたが、関わりたくないので私がそちらに視線を向ける事は無かった。
翌日、昨日と同様にまだ朝の早い時間帯にギルドへと向かう。
今日は初めての薬草採取をしてみたいと思うので気合を入れて早めに来たのだ。
混む時間だと慌ててしまいそうなので落ち着いて依頼を受けられるように早めの時間帯を狙って来た。
朝早いギルドは予想通り人が少なく、受付もアンナさん1人だった。
この時間帯はまだ冒険者達の活動時間ではないのだろうな。
私はギルドに入ると迷わずアンナさんの居る窓口へと向かう。
「あら、おはようミサトちゃん。朝が早いのね」
「おはようございます。アンナさんこそ朝早くから遅い時間まで大変ですね」
朝から疲れを感じさせない素敵な笑顔で挨拶をされたので私も笑顔で返事をする。
アンナさんはいつも受付に居る気がするけれど長時間労働で大丈夫なのだろうか…。
「ふふ、私も早番が多いだけで昨日もミサトちゃんが帰ったすぐ後に交代だったのよ」
ニコニコと答えてくれるアンナさんに憂いは無さそうなので心配する必要は特に無いようだ。
「…それよりも今日はこんな早い時間からどうしたの?」
昨日はそのまま資料室へと向かったのにわざわざ受付に来たことを不思議に思っている様子のアンナさん。しかし、今日は資料を読みに来たわけではない。
「あの、今日は薬草採取をしてみたいと思いまして…。
依頼はどうやって受けたら良いですか?」
ファンタジーの定番では掲示板の依頼を外して受付へと持っていくが、ここの掲示板は依頼の一覧が書かれた紙が種類ごとにいくつかに分けて貼られていたので持ってくる事はできないようだった。
「あぁ、初めてだものね。
…そうね、まず依頼には掲示板に貼ってあるものと受付で提示するものの2種類があるの…」
アンナさんは私の返答に納得したのか、優しい笑顔で丁寧に説明してくれる。
「…掲示板は基本的に常備依頼だから手続きは無くても大丈夫なの。ただ、必要とされている分、買取価格が普段の買取価格よりもお得になってるからマメにチェックをしておくと効率よく稼げるわ。
…ただし、横に難易度に合わせて推奨ランクが書いてあるから気をつけてね」
なるほど…必要とされているモノや優先的な討伐対象は普段より高値で買い取ってもらえるのか。
そして、それが掲示板に一覧で張り出されているんだな。
「…滅多にないけれど緊急の招集や周知するべきお知らせ等が貼ってある事もあるから依頼を受けるつもりがない時も気にしておく事を勧めてるわ」
ふむふむ、掲示板は当然だけどお知らせの役割もあるんだな。
一覧の横にはだいたいE〜Cと書かれたものが多かったのもそのランクの冒険者が1番多いからなのかな…。
しかし、数は少ないがA.Bと書かれた物もあった。
そういう依頼品はやはり値段もそれなりに高い。
「…そして受付で提示する依頼は誰でも受けられるというものでは無くて、人柄や年齢、性別、技能といった条件があるものや、緊急性は高いけれど危険だったり、ちょっと特殊な条件が必要なもの等を扱ってるの…」
…つまり、誰でもすぐに受けられる依頼ではなく人を選ぶ依頼という事か。
「…そうね、今のところミサトちゃんに紹介できる依頼はこれくらいなのだけど…」
そういって見せてくれたのは、お店の掃除やお手伝い、お買い物の代理等、冒険者というよりは町中のお仕事的なモノが多かった。
一応、受付で紹介される依頼を受けると信頼ポイントが入ってランクが上がりやすくなるらしい。
ただ期間や縛りが多く面倒な事も多い為、討伐系を好む冒険者には人気がないらしい。
私はランクが上がると受けられる依頼も金額も増えるので受けてみたい気もする。
しかし、アンナさんに見せて貰った依頼はどれも一定の期間を指定しているので長期間拘束されるのが不本意な今の状況では受けにくい…。
「…あ、いえ、それは大丈夫です。まずは掲示板から初めてみます。…ありがとうございました」
アンナさんへお断りとお礼を伝えるとなんとなく予想していたのかすぐに引いてくれる。
「…無理だけはしないで、安全第一で頑張ってね」
「はい。ありがとうございます」
少しだけ心配顔のアンナさんへと笑顔で返事をして掲示板へと向かう。
掲示板の依頼には何が載っているかをキチンと確認しておかなければ。
…それにしても、掲示板の依頼を手続き無しで受けられるのなら、確かに午前中の受付はそんなに人手は要らないのだろう…。アンナさんがいつも受付で1人なのも納得だ。
昨日のように依頼品の確認や買取りをする夕方は忙しくなるので受付の人数も増えるのだな。
ギルドの形態になんとなく納得しつつ掲示板を確認して昨日覚えたばかりの薬草と照らし合わせる。
横にあった討伐対象の魔獣もサラッとは確認した。
よし、覚えた。受験を乗り越えた経験から、覚える事は得意になったのだ。
「さ、初めての薬草採取へ出発しよう」
『はい、主様!』
小さくベルへと声をかけて私は初の薬草採取へと向かった。
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