第14話 【八神side】
目を覚ますと知らない豪華な天井だった。
今時、天井にまでこんな細密画を描くなんて…
…。
…
「…ッ!今井さん!」
ガバっと起きると、そこは天井の細密画に負けない豪華な造りの部屋であった。
まるで、昔に家族旅行で行ったドイツの城を彷彿とさせる。
眠らされていたベットもやたらゴテゴテとした造りで見た目は美しいが、断然日本のベットの方が寝心地が良い。
「…起きたのか」
聞き慣れた声が聞こえて横を向くとベットから少し離れた場所にあるテーブルとソファでくつろぐ斗真の姿。
「…斗真」
思わず声をあげるが、斗真はどこか遠い目をしながらテーブルの上のお茶とお菓子を食べている。
「…ここは?」
「…お約束な話で…勇者召喚らしいぞ」
どこか諦めた目をしているが、そんな説明では全く納得いかない。
「今井さんは?」
斗真はちょっとびっくりした様子でこっちを見る。
「…今井さんは…魔法陣から離れてたし、助けでも呼びに行ったんじゃないか…?」
ってことは、こっちには来てないんだな。
「…チッ」
「…お前…」
斗真は今まで見たことのない僕の姿を見て戸惑っているようだ。
だが、そんなのは関係ない。
「今井さんは来てないんだな…?」
「…あ、あぁ」
再度の確認に斗真は戸惑いつつも答える。
「斗真はもう説明を聞いたの?」
「…あぁ。お前は一日寝てたが、俺は割とすぐ目覚めたからな。
…この国の姫様がわざわざ説明しに来たよ」
斗真は手に持ったお茶をクルクルと回しながらポツポツと話す。
「…ちゃんとした話はお前が起きたら一緒に話すらしいが。
…簡単にだけ聞いた」
斗真は憂鬱そうな様子で話し始める。
「…魔王が復活したらしくて魔物の被害が出てるんだと…
…そんで、今回の召喚で魔王を倒せる勇者を招いたんだとよ」
斗真は姫様とやらに聞いた話を教えてくれているが、聞きたいことはただひとつ。
「元の世界には帰れるのか?」
「…」
斗真はどう答えて良いのか悩んでいるようだ。
しかし、そんな事は関係ない。
「元の世界には帰れるのか?」
大切なので同じことをもう一度聞く。
「…一応、帰る手段はあるらしいが…」
…
…良かった。
引っかかる言い方ではあるが、斗真の言葉にひとまず安堵の息を吐く。
…もし、これで帰れないと言われたら…
…魔王討伐どころかこの世界を滅ぼそうとする所だった。
「なら、さっさと帰ろう」
「…は?」
僕の言葉に斗真は目を丸くして驚いている。
わざわざ召喚されたぐらいなのだから、僕達にはそれなりの力があるのだろう。
そしてその力を必要とされているのかもしれない。
…しかし、それをこの国の為に使う義理はないはずだ。
「…え、魔王は…?」
「…そんなの、僕らにはなんの関係のない話だよね」
僕のキッパリとした言葉に斗真は眼をぱちぱちとしている。
別に斗真がそんな表情しても可愛くない。
「とりあえず最短で戻る手段を考えよう」
僕の言葉に斗真は大きく息を吐く。
「…そ、そうだな。
まぁ、そんなに簡単な話でもないけど結局はそこだもんな…」
なんだかウダウダとハッキリしない様子の斗真だか、それを気遣う余裕など僕にはない。
今井さんがきっと心配している。
誰かを呼びに行って戻ってきた時に僕たちがいなかったら、彼女に余計な心配と迷惑をかけてしまう。
そんな事をして好感度が下がったらどうしてくれるのだ。
ひょっとして両思いかもしれないという、この大事な時に召喚なんて冗談ではない。
うっかり時間が過ぎて、帰った時に今井さんに彼氏が出来ていたら…
…いや、それだけは想像でも許せない。
そんな取り返しのつかない状況になる前に帰らなくては。
「…とりあえず、魔王を倒さないと帰して貰えないんじゃないか?」
控えめに斗真が話しかけてくる。
「は?…そんなん向こうの都合だろ?」
「…まぁ、そうだけど。
でも、俺らにはこの世界の情報も知識も権力も無いし、そんな簡単に帰して貰うのは無理じゃないか?」
「…」
斗真の言葉にも一理ある。
僕らの常識がこちらの常識とは限らない。
そんな道理が通るなら召喚などしないだろう。
「…なら、さっさと魔王倒して帰ろう」
「いや俺、スプラッタとかほんと無理…」
憂鬱そうな斗真には悪いが、この際そんな事を気にしている場合ではない。
「…そもそも、勇者って2人もいる物か…?
…俺ってオマケなパターンじゃね…?」
斗真がなにやらぶつぶつと言っている。
勇者とか勇者召喚とかやたら“勇者”って名前を気にしているようだが、そもそもそんなモノはどうでも良いのだ。
「この際、勇者とか勇者じゃないとか関係ないよ。
とりあえず、勇者だから魔王を倒すわけじゃなくて、帰るために必要なら魔王を倒すだけだし」
斗真のウダウダに付き合う気はない。
「勇者の名前が欲しいなら斗真にあげるから、最短で魔王を倒して帰ろう。
…っていうか帰る方法を教えてもらえないなら倒す気もないし、聞いてみて魔王関係なく帰れそうならそのまま倒さずに帰っても良いんじゃないかな?」
「いやいやいや。それはマズいだろ」
「斗真がスプラッタ無理とかいうから提案してるんだよ」
「…いや、確かにそうなんだけど…それも人としてどうなのか…」
あぁ、もう面倒臭いな。
「じゃあ、一体斗真はどうしたいの?」
斗真は困った様子で悩み始めた。
コンコンコン
斗真の返事を待っていると扉の方からノック音が聞こえる。
どうやら僕の目が覚めた事に気付いたようだ。
斗真と視線を合わせ、頷くと斗真がドアへと向かい返事をする。
「どうぞ」
ガチャ
入ってきたのは金髪に青い瞳の可憐な少女。
いかにもお姫様といった様子の可愛らしい女の子だ。
もちろん今井さんの方が可愛いが。
「あ、お姫様」
斗真の発言にコレが例のお姫様かと納得する。
お姫様は斗真へと視線を向け軽く腰を屈め挨拶をすると、こちらへと向く。
「…お目覚めになり安心致しましたわ、勇者様」
にこりと綺麗な微笑みを浮かべつつ声を掛けられるが、なんとも作り物めいて見える。
「お初にお目にかかります。
この国の第一王女ナディアと申します。
この度は召喚に応じてくださり感謝致します。」
いや、応じたつもりはないけど。
美しくカーテシーをするお姫様には感心するが、心は動かない。
「もしお身体が大丈夫でしたら、この度の件についてご説明させて頂きたいのですがいかがでしょうか?」
お姫様はお姫様らしい鷹揚な態度だ。
こちらに対する礼儀はあっても、申し訳なさなどは感じられない。
こちらは目が覚めたばかりだというのに、話も聞いてもらえて当然だという雰囲気だ。
…まぁ、これなら逆に相手しやすいかな。
詳しい事情は聞くつもりだが、一方的な要求は聞くつもりはない。
今井さんの元へと最短で帰るにはどうするべきか、まずはこのお姫様から話を聞かなければならない事はわかっている。
この国の考えと、この美しいお姫様はどれほどの権限を持ちどれだけ僕たちの為に動いてくれるか。
どう動くのが最善か。
心の焦りとは別に頭は冷えている。
さぁ、僕と今井さんを引き裂いてまで叶えた召喚の言い訳とその後の対応と保証について、きっちりこちらの納得のいく説明を聞かせて貰おうではないか。
ひとまず、心の内を悟らせることのないようにいつもの爽やかな笑顔を顔に貼り付け、今一番最善の態度と対応を頭の中にて巡らせつつ、お姫様の後へと続いた。
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