第12話 初心者理想的な町

「じゃあ、ミサトちゃん。

お金の一部は現金に変えて残りはカードに入れておいたから確認してね。

落とさない様に気をつけて」


宿やお店ではだいたいカードが使えるけれど、屋台では現金しか使えないようだ。


「この町は比較的安全な方ではあるけれど変な人もいるから…くれぐれも気をつけてね」



換金の手続きを無事終えて、再び受付にて残りの手続きを終える事が出来た。


なんだかアンナさんの私への対応が変わった気がする。やたらと過保護だ。


あの後、ざっくりと私の事情を説明したが、嘘を言わないのって難しい。


『友人(クラスメート)達とここ(の世界)へ来たけれど(精霊によって)私だけここで1人にされてしまった。

今まで住んでいた所(世界)から出たのは(この身体では)初めてで(この世界の)常識もよくわからない。

とりあえず(元の世界に)帰る為にもしばらく必要そうな物を揃えようと思い、この町に来た。

貴族の関係者どころか貴族等会った事も話をした事もない』



と、いった内容をなんとかそれっぽく説明したら世間知らずな子供への対応になった。(間違ってはない)


アンナさんは私が15歳だと知っているはずなのだが、見た目がもっと幼くみえるせいかやたらと心配された。


まぁ、とてもありがたいのだけど。


問題の薬草達も少ない量の割に結構な金額になり、ついでにこの世界の貨幣価値も教えてもらった。


それも、アンナさん的に心配な要素のひとつになったのだと思う。


大金を持つお金の価値も知らない幼く見える世間知らずな女の子って、そりゃ心配にもなるよね。


何回も貴族ではないのか聞かれたけどもちろん違うと正直に答えた。


それならば良いところの子供かと聞かれたが、良いの基準がわからないと答えるとそれ以上聞かれる事は無かった。


きっとアンナさんの中では田舎の良いところの子供が悪い友達に唆されて町に置いていかれたっぽいイメージを持たれている気がする…。


でも、私は大丈夫。


なんといっても元精霊であり、現精霊のお供付き。

いざとなったら字の通り飛んで逃げれるし、本当は危険等ほぼない状態なのだ。


まぁ、無事お金を手にした事だし、今度は宿と服屋を探そう。


町に来た時に見かけた屋台も気になるな。


日本に産まれてから旅行の楽しさを知ったが、海外に旅行した事はなかった。


これはまさにファンタジープラス海外旅行のような物ではないか。


お金を手にした今、ぜひとも観光も楽しみたい。


ひとまず私はアンナさんへお礼を伝えてギルドを出てから、門番の人に教えてもらった安くて安全な宿へと向かった。


アンナさんからも門番の人に教えてもらった宿は良い宿だと太鼓判を押して貰ったので安心だ。


『ヌシ様、森の中の方が安全だし、お金かかりませんよ』


宿へと向かう私にベルが不思議そうに聞いてきた。


確かに言われてみれば、暑いとか寒いとかもあまり感じないし、フワフワと浮いて寝れば寝心地も気にならない。


…でも


「…私、人間だから…」


確かにベルの言う通りなのだが、旅行的には色々な宿にも泊まってみたい。


『…なるほど。…人間は宿に泊まるのですね』


なんでも、人間である事を理由にするのはいかがなものかと思うが森に帰るのも不自然だし、今回は許して欲しい。


『さすがヌシ様、人間っぽいです』


ベルが納得してくれた様で良かった。




宿ではこんな子供1人という事で、人の良さそうな女将さんに心配されつつも無事に泊めて貰える事になった。


定番の可愛い看板娘がいなかったのは少し残念だったが、年季がある建物の割に清潔感があり、落ち着く色合いのセンスの良い部屋な上にここの食事はとても美味しい事で人気らしくお値段を考えるととても破格だ。


さすが、門番の人とアンナさんがオススメするだけはある。


宿の旦那さんの作るご飯はこの町でもとても人気らしいので夕ご飯はぜひ宿で取る事を勧められた。


なんだかこの町、良い人が多いな。


この世界初心者には理想的な町だ。


女将さんに教えてもらった服屋で一般的な旅人の服や着替えも揃え、見た目だけだがやっとこの世界に馴染めた気がする。


しばらくお金の心配はないけれど、今後の事を考えてギルドの依頼も受けれるようになりたい。


アンナさんがギルドの資料室には薬草や魔獣、簡単な地図や他にも色々と資料があると言っていたので、この世界の知識を知る為にもぜひ行きたいと思う。


この世界には魔道具もあるようなのでどんな物があるのか知りたいし、ポーションや魔法についても知りたい。


ベルも教えてくれるが、どうしても精霊目線になってしまうのでこの先人間と関わるのなら人間目線の内容も知るべきだと思う。


今後についてワクワクと考えているとベルから声をかけられた。


『ヌシ様、ヌシ様、この町に聖女がいるみたいです』


新しい冒険者へと思いを馳せていた意識がベルへと戻る。


聖女。ファンタジーの定番だ。


会ったら面倒な事になるかな…


なんとなく面倒ごとに巻き込まれそうな予感がして避ける方向へと考えかけ…ふと思い直す。


…いや、ファンタジーでは聖女は重要な役割を持っているし、ここはひとつ遠くから見守るのもアリかな?


ファンタジー好きとしてここはスルーしてはダメな気がするような…しない…ような…?


ちょっと思い悩む私の横で、ベルはフワフワしながら周りの精霊と何やら交流している。


ベルの統率の元、他の精霊の私への接触は最低限になっているが代わりにベルの周りにはいつも一定数の光が漂っている。


どうもベルが秘書のように必要そうな情報を他の精霊から聞き、精査しているようだ。


ベルさんありがとう。



「…聖女…サマってどこにいるかわかる?」


ふわふわしているベルに問いかける。


『町の中でも端っこの教会に居るようです』


聖女は教会にいるのか。そりゃそうだね。


『町の北の方にある小さな教会で、あまりこの辺に来る事はないようです』


ちょっと後で教会の場所もチェックしておいて安全そうなら、チラッとだけ見てみたいな。


いきなり会ってベル達を見られたら困るけど、前もって対策しておけば大丈夫そうかな。


ざっくり過ぎる対策を思い浮かべつつ、聖女について考える。


「いや、教会に行っても聖女なんてそんなに簡単に見れるのかな…?」


『多分、ヌシ様なら近くに行けばすぐ見つける事が出来るとおもいますよ』


「…でも、聖女って教会の奥深くとかに居るんじゃないの?」


『…そんなことも無さそうです。小さい教会なので通りがかりでも見られると思います』


「…そうなんだ…」


聖女ってもっとこうバーンって感じの地位だと思ってたけど、違うのかな…?

そんな通りすがりに見れるものなの?


町の端っこの小さな教会っていうのもなんか質素な感じだし。


聖女としては質素な方が好感度は高いけれどなんだか思ってたのと違う…?

この世界で聖女の地位ってそんなに高くないのかな…


色々と疑問には思ったけれど、とりあえず今の私にとっては美味しそうな屋台が優先かもしれない。


私はさっきから良い匂いをさせながら目の端に見えている串焼きのような物を売っている屋台を目指して歩き始めた。





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