第11話 ギルドにて
お姉さんについてカウンター横の奥を進むと階段があり、2階へと進む。2階には応接室やギルド長室など数部屋あるようだ。
私は応接室っぽい部屋へと案内され、テーブルとソファーに着くとすぐ紹介が始まった。
「まず、私は受付のアンナと申します。
そして、こちらが我がギルドの責任者」
「ギルド長のダナンだ」
やっぱりギルド長。
厳つい顔ではあるけれど、面倒見は良さそうな雰囲気を感じる。
いかにも歴戦の戦士といった感じのムキムキっぷりに無精髭が生え、ベテランの冒険者っぽい
これがギルド長か。
受付の対応もキチンとしてるし、きっとそれなりに良いギルド長なんだと思う。
「はじめまして。
…ミサトと申します。田舎から出てきたばかりでわからない事ばかりなのですが、私の出した薬草に何か問題がありましたか?」
ギルド長とミーナさんはお互いに顔を見合わせて何やらため息のような物をつく。
「ミサト。…あんたどこのお嬢様だ?」
?
ギルド長は唐突にそんな事を言い出した。
「…どこって…そもそもお嬢様でもないのですが…」
キョトンとしてしまった私にギルド長はしかめっつらで話を続ける。
「その話し方といい、服装といい、そしてこの薬草と香辛料の実といい、…どこからどう見ても世間知らずのお嬢さんにしか見えないんだが」
あれ、木の実だと思ってたら香辛料だったんだ。
「…あのね、何か訳ありなのかなとは思っていたのだけれど、…この薬草と香辛料はちょっとそこら辺では手に入らない珍しい物なのよ。
だから、一応どうやって手に入れたか教えて貰っても良い?」
アンナさんは少し困った顔をしつつ話す。
「…疑っているわけではないのだけれど、物が物だから正直に教えてくれると助かるわ…」
…そうか、珍しい物だったのか。
なんとなくそんな気はしてた。
でも、そんな事ぐらい受付でさらっと聞いてくれたら良いのに…。
アンナさんとギルド長はお互いに何かアイコンタクトをしているようだが、私にはその視線の意味は理解出来ない。
えーっと、この場合なんて答えるのが正解なのか…。
…とりあえず、ベルの事は言えないし…。
『ヌシ様、ヌシ様』
アンナさんにとりあえず適当に答えようとするとベルが割り込んできた。
『この部屋、魔道具があります』
会話している時に割り込むなんて珍しいと思いつつ、言われたその内容も聞き捨てならないのでベルに視線を移す。
『本当の事を言っているかどうかわかる魔道具が置いてあります』
えぇ、あぶなっ。
もう少しで、来る途中でたまたま見つけたって言いそうになった。
なるほど。わざわざ場所を変えてここで話す事にも一応意味があるんだな。
ベルに感謝の気持ちを持ちつつ慎重に答える。
嘘はダメなんだな…。
「あの、実はこれ頂き物なのでどういった物なのかは知りませんでした」
「…」
「…」
アンナさんがギルド長に小さく頷いている。
それに対してギルド長も頷く。
嘘はないという事かな。
ギルド長はしかめっつらのまま話を続ける。
「これは、そんな簡単にひょいひょい貰える様な物ではないんだが…。
…一体、どういう経緯で貰ったんだ?」
横ではアンナさんも頷いている。
えーっと
「…特に何の説明も受けずに軽い気持ちで頂いたので、そんなに貴重な物とは知りませんでした。
…この町に来る直前に出会った方が、私が困っていると知って、純粋な好意でこれをくれました。
…もし、そんなに珍しい物だと知っていたら私も受け取らなかったと思います」
ベルに会ってベルが純粋な好意でくれたのだから間違ってはいない。
そして、私もそこまで価値のある物だとは知らなかったし、言わなかったということはベルも知らなかったと思う…。
「…うむ…」
「…多分、くれた方も深く考えて無かったと思います」
「…」
「それと、私は特にお嬢様でもなく、普通の一般的な家庭で育った一般人です。
…ただ、ここら辺に来たのは初めてなので世間知らずな部分はあると思います」
「…」
「…」
嘘は言ってない。
きっとアンナさんとギルド長もそれがわかっているだろう。
「…貰ったやつはどんなやつだった?」
「…。…せっかく好意で頂いたのに、迷惑になったら困るので言いたくありません」
因みに迷惑がかかるのも困るのも私だ。
「…」
「…」
2人は少し考え込み、やがてギルド長が大きなため息を吐く。
「…。お前は、貴族の出身、もしくは関係者か?
…貴族相手と何か関係があったり、取引があったわけではないのか?」
…貴族。
貴族とかいるんだ。
…貴重な品だから盗品とか思われたのかな?
ギルド長は思い切ったように質問してきたが、その質問に私は不安顔で答える。
「貴族との関わりは全くありません。
もちろん、盗んだりもしてません!
…この薬草類に関しても手に入れた本人に直接貰った物です。
…貰った相手は言えませんが貴族ではないです」
私が盗んでいないと言う部分に必死さが出てしまった為かアンナさんが苦笑しつつフォローを入れる。
「…大丈夫よ。盗品を疑ってる訳ではないの」
ギルド長も少し困った顔で補足する。
「何か問題になる様な事やトラブル等はないんだな?」
「ありません」
「…この町に不都合になる事を請け負ったり、引き換えに何かを頼まれたりと言った事も無いんだな?」
不都合な事…頼まれたり…。
つまり、高価な品と引き換えに何か頼まれたのではないかって事だよね…?
この町、そんな不穏な事態が心配されるような状況なのかな…。
軽く不安を感じつつ返事をする。
「…ありません」
「…」
不安気ではあるがハッキリと答えた私をしばらく見た後、ギルド長は肩の力を抜き大きなため息を吐いた。
「…わかった。とりあえずお前の言葉に嘘は無さそうだ」
ギルド長の言葉と共にアンナさんも力を抜く。
「…ごめんなさいね、ミサトちゃん。
…あなたの持ち込んだ薬草と香辛料は滅多に手に入る事がない物なんだけど、貴重すぎて貴族の間でしか流通してないの」
…貴重すぎて…へえ…
「…ソウナンデスカ」
「こんな小さな女の子がピンポイントで貴族の間でしか流通してない貴重な物だけ持ち込むから何か良からぬことにでも巻き込まれたのかと思って…」
「…ハハ」
「しかも、育ちの良さそうな姿に言葉遣いも丁寧で訳ありにしか見えなかったの」
怪しくて申し訳ないデス。
ひとまず私の事情聴取はもう少し続いたが、疑いは晴れたようで無事買い取りはして貰える事となった。
『ヌシ様、この魔道具壊しましょうか?』
ベルさん、お気持ちだけで大丈夫です。
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