第8話 ベル

山深い森の奥かと思っていたら、どうも近くに町があるらしい。


それなら一度、町へと向かおうと思う。



遠い前世で精霊だったと思い出しても、最近はずっと人間だったので感覚がしっくりこない。


ふわふわ飛んだり、火や水を出したりなんとなく出来る事も増えたし、特に食事を摂らなくても空気中から必要そうなエネルギーも吸収する事は出来そうだ。


身体をキレイにしたり、食事が必要なかったりと生命にも問題はなさそうだ。


でも、物を作り出す事は出来ない。


服はずっと制服のままだし、美味しい料理も出てこない。(木の実や果物を成長させるのは出来るけど)


こればっかりは人間の町に行かないと手に入らないようだ。


だから、町へと向かおうと思ったけれど、その前に今のこの世界の情報を知りたい。



「…えっと、貴方に色々聞きたいのだけど…」


「なんでも聞いてください!」


「…とりあえず、あなたに名前はあるの?」


「ないです!」


…なんとなく、そんな気はしてた。


1番しっかりしている人の形をした精霊にお話を聞きたいけれど…名前が無いと呼びにくい。


「もし、良かったらだけどニックネームみたいな物を付けても大丈夫?」


「…にっくねーむ?」


「そう。呼ぶ時の愛称というか、名前みたいな物なんだけど…」


「…なまえ。…名前!…嬉しいです!ぜひお願いします!」


「ナマエ」  「なまえほしい」


「なまえ」  「ナマエナマエ」


名前を付けるのは負担だったからニックネームを付けたかったのだけど、どうも名前を希望されている。

しかも、複数。


いや、そんなに無理なんだけども。



「えっと…。

…じゃあ、とりあえずあなたは…ベルなんてどう?」


かの有名な妖精から頂きました。(野獣の相方ではありません)



「はい!私はベルです!」


「…っ!」


ベルがベルと認めた瞬間、ベルの体が発光した。


突然の光にベルも私も驚き固まっている。


光が収まるとベルは一回り大きく、そして大人びた様子へと変わっている。


「…」



「…!」



ベルは我に帰ると、自分の姿をクルクルと回りながら確認し何やら満足そうにしている。


しばらくすると嬉しそうにこちらを見つめた。


「ありがとうございます!ヌシ様に名前を付けて頂いたので成長することができました!」



…あぁ、…ファンタジーとかでよくある(?)やつね。


思わず遠い目をする私を横にベルは嬉しそうにはしゃいでいる。


「ツギ」  「ワタシも」  「ツケテ」 「ふふ」


期待のこもった様子で他の光達がわちゃわちゃと言い出したが、なんとなく私の勘が止めた方が良いと言っている…。



「…いや、そんなに名前思い付かないし…。

…どうしても欲しいなら自分で考えて」


「…」  「…」  「…」  「…ガーン」


なんとなく、雰囲気に飲まれて次から次へと名前を付け続ければ取り返しの付かない事になりそうな気がした。


申し訳ないが、他の光達にはキッパリとお断りした。





「ヌシ様、精霊はごく一部の者しか見ることは出来ません」


なるほど、では私が光る子達を引き連れていても特に気にしなくても良いのか。


「ただ、人間の中で聖女と呼ばれる者達には見えるみたいです」


聖女キタ。


あれ?これ私の聖女説浮上?


「聖女は精霊が見え、精霊に好かれやすい女性がそう呼ばれているようです。

聖女自体には大した力はありません」



…いや、私は元精霊だから聖女ではないな(自己完結)。



「あと、召喚士と呼ばれる者も精霊と契約する事によって力を得ています。

契約する精霊の力が強ければ、その恩恵によって見える者もたまに居るようです」


おぉ、召喚士。

ファンタジーっぽいな。


「…他に…魔術師とかもいるの?」


つい、我慢出来ずワクワクしながら質問する。


「はい。魔術師と呼ばれる者が1番多く存在すると思います。

ただ、私達精霊は大気の力を使うので力が枯渇するような事はありませんが、人間は自分の中の力を使うので個人によって使える力に差があるようです」


…いわゆる魔力量が人によって違うってやつね。

きっと、ここで格差とか生まれるのかな。ふむふむ。



「召喚士は精霊に力を借りる分、人間よりも強く継続性のある魔術が使えるので人間の中では特別視されているようです。

まぁ、そもそも精霊と契約出来る者がほぼ居ませんが…」


召喚士は特別なんだ…


「精霊と契約って難しいの?」


「精霊は力もありますし、自由なのでよっぽど興味深い何かが無いと契約しないと思います。

…私自身も今まで契約なんてしたいと思った事もありませんでした」


短い付き合いだが、成長したベルは心なしか話し方まで大人びた気がする。


「…ただ、ヌシ様が人間であるというのなら、私を含めた精霊達は皆喜んで契約するでしょう」


いや、大丈夫。間に合ってます。


わたし、火とか水とか風とか多分自分で使えるし。


何やら期待のこもった視線をスルーし、話の続きを促す。


「じゃあ、…とりあえず私が貴方達を引き連れて町に行っても目立ったりする事はないって事?」


「そうですね。まず、一般の人間に気付かれる事は無いでしょう。

…もし、それでも心配な様であれば少し離れた位置に待機しますし、近付く他の精霊がいたら注意する事も出来ます」


おお、頼もしい。


…が、そもそもなぜ私は一緒に行動する事前提で考えているのだろうか。


「…因みに、この先は私が1人で行くっていうのは…?」


「…これから先、会う精霊会う精霊にところ構わずまとわりつかれることになります」


え、今でもけっこう周りにふよふよ居るけど。



「今は私が代表で居るので少し離れて様子を見ているのです。

私が居なくなったらすぐに次の代表候補の子達が寄ってきますよ」


ベルはどこか遠くに視線を向ける。…そこに他の精霊達でも見えているのだろうか。


「…そしてその子達が居なくなったらすぐにまた次…といった感じでヌシ様に気付いた精霊は皆、基本的にはヌシ様に引き寄せられます。

今は、この辺りでは1番格上の私が代表として牽制しているので押し寄せて来ませんが…」



…わぁ、私ってば大人気。


とりあえず、…ベルさんにしばらくお供をお願いする事にした。


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