第9話 魔王とは
ついでに魔獣と魔物と魔王についても教えて貰った。
まず、魔獣は魔力を持ったこの世界に元々生息する固有生物だ。
そして魔王についてなのだが、そもそもそれに対する認識が人間と精霊で違うようだ。
まず、魔王も魔物も私がこの世界から消えた時に入り込んだ異物らしい。
私があちらに行った時に入り込み、その時にできた歪みから流れ込んで来た物が長い年月をかけて一定量集まると魔物と呼ばれるモノになる。
そしてそれとは別で私と入れ違いにこの世界に来た大きな力を持った存在が居る。
精霊達はその謎の存在を魔王と呼んでいる。
つまり魔王と魔物は全くの別物であり、両者なは何も関係がない別々の存在なのだ。
これが精霊達の認識。
そして人間は、魔物のリーダーを魔王だと認識している。
魔物はある程度の形になってからは外部から力を接種するようになる。その接種対象の中でも1番効率が良いのが人間だったようだ。
魔物は長い年月を掛け力を溜め、貪欲に力を求め続ける。力が溜まる程強く賢くなり…そして更なる力を求める。
賢くなる事により、効率良いエネルギー接種の為に支配関係が出来上がる。
仲間意識などはない純粋な力による力関係ではあるが人類から見るとかなりの脅威である。
しかし魔物の王は元々力に貪欲な為、独裁的に自分へと力を集中させる。
その結果、魔物の王さえ人間達がどうにか倒せば1番の脅威は去り、力で抑えられた支配関係は崩れ統制の取れなくなった魔物達は一気に倒しやすくなる。
そして、倒された魔物は一度散り散りとなり消えたようにみえる。
…しかし、暫くするとまたそれらが長い年月をかけて集まり……の繰り返しらしい。
一応、一回散り散りになると集まるには結構な年月がかかるようではあるが…これは、エンドレス…?
こうした事が繰り返し起こるのでいつの間にか人間の中では『魔王が復活すると魔物も発生する』という認識に落ち着いてしまったようだ。
精霊から見た魔物は、特に脅威でもなんでも無いようで魔物も精霊とは明らかに力の差がある上に認識もしづらい為、基本的にはお互いに興味も無く不干渉の状態らしい。
…こうして精霊と人間にとっての魔王という存在についての認識の違いは生まれたようだ…。
そして、精霊達はその事を知ってはいるが特に訂正する事も教えてあげる事もなく人間を観察している。
ベル曰く、
魔物が現れ出す → 魔王討伐隊を結成して魔王だと思ってる魔物を倒す → しばらくは平和を取り戻す→長い年月がたち再び魔物が現れ出す → 魔王が復活したと騒いで魔王討伐隊を結成する…
と、いったサイクルが人間達の定番らしい。
(精霊からみた)魔王は別に退治されたりしていないのだが、人間達には特に問題もなさそうだ。
なんだかややこしいので、統一して欲しい。
魔物の王と未確認生命体(?)とかで良くないかな?
私はその人間の不毛な戦いに驚きを感じたが、精霊達は特にそれらを気にしている様子は無い。
自分達には余り影響がない為、よくわからない事やってるなぁ…ぐらいの認識しかないようだ。
そして、精霊に魔王と認識されている魔王(未確認生命体)は全く何もしてない。
力を鼓舞する事も存在を主張する事もなくただ静かにそこに存在しているらしい。
むしろ、なぜ精霊達に魔王呼びされているのか不思議に思ったが、理由は『強いから』らしい…
魔物の王の討伐には気が向いた精霊が人間に手を貸したり貸さなかったりと自由に過ごしている。
危機感とかは全くない。
「じゃあ魔王問題はとりあえず置いておいて、私の帰り道確保の為に強い精霊を探しに行こうかな」
「喜んでお供致します」
私のとりあえずの指標が決まるとベルはすかさず参加表明してくれた。
「でも、その前に町に行って必要な物を買いたいから、何か売る物とかないかな?」
私の質問に少し悩んだベルは周りの精霊達と何やら相談を始めた。
「…ヌシ様、魔獣系、宝石系、薬草系、珍しい果物、木の実系どれが良いですか?」
いや、ベルさん優秀過ぎる…。
とりあえず、不自然じゃなさそうな薬草か木の実かな…。
ベルから受け取った嵩張らなさそうな薬草と小さな木の実を蔓で編んだ籠に入れて、肩から斜めにかける。
よし、とりあえず1番近い町に行ってみよう。
(パララパッパパー ベルが仲間に加わった。)
私の頭の中には某有名なゲームが思い浮かんだ。
「おい、ちょっと待て、…つれはどこだ?」
1番近くの町はそんなに離れた距離でもなくすぐに大きな道と合流する事が出来、町にも無事到着する事が出来た。町は大きな壁で囲われ、人々もそれなりに流通している。
魔獣の侵入を防ぐ為と何かあった時の為、一応門の両側には簡単な見張りもいるようだ。
少し大きめの門は開いており、皆が問題なく通り過ぎる中、兵士のおじさんに止められた。
気にせず、スルーして欲しかった。
「あ、…あの田舎の方から来たのですが、置いていかれてしまって…」
どう考えても私は不自然過ぎるので苦し紛れの言い訳を考えた結果、何か聞かれた時は町の近くで置いていかれたという事にしようと思っていた。
まさか早速この言い訳をする事になるとは…。
「…は?」
「あの、田舎から友達と来たのですが、…途中で揉めてしまい、町の近くに1人置いていかれたのです…。」
出来るだけ悲しそうに俯いて話す。
(いや、無理があるかな…)
変わった服装は民族衣装で小綺麗なのと荷物が無さすぎなのは、いきなり置いていかれた為という事でどうにかお願いしたい。
「…身分証や金はあるのか…?」
どうやら良い人に当たったようだ。
ぐるりと周りを見て、私の関係者が居ないか確認している。
本当に誰もいないとわかると声が少し優しくなった。
「あの、身分証もお金も持って無くて…。
…町で売る予定の薬草と木の実を少し持っています。…出来れば町で売ってお金にしたいのですが…」
兵士の人は少し考えつつ話す。
「…では、冒険者ギルドに行くと良いだろう。
薬草も買い取ってくれるはずだ。
…町に薬屋もあるが、あそこは慣れない者が行くと買い叩かれて、ろくな事にならない」
良い人だ。
「身分証もギルドで発行も再発行も出来る。
この町は小さいから身分証が無くても大丈夫だが、大きな町に行く時には必要になる。
宿に泊まる時も必要だ。
とりあえず、まずは身分証を取る事だ。
…冷静になった友達が迎えに来るまでギルドの簡単な依頼でも受けて過ごせばどうにかなるだろう」
めっっちゃ良い人だ。
こんな嘘の話を信じて心配そうに私を見ている。
「こんな小さい子を1人で置いていくなんて…」
あれ、私ってひょっとして年齢より幼くみられてる?
まぁ、…日本人あるあるだね。
「ありがとうございます。
町に入ったらすぐにギルドへ行ってみます」
幼くみられているのなら、それに乗っかろう。
少し笑顔を見せてお礼を言うと、兵士さんはいそいそとギルドの場所や安くて安全な宿を教えてくれた。
なんと、お金が足りなかったら教会で保護してもらう事も出来るらしい。(行かないけど)
この世界で初めてあった人間がとても良い人でよかった。
なんとなく暖かい気持ちになった私は教えて貰ったギルドへと足を進める。
『ヌシ様、とてもお上手ですね。
まるっきり人間のようでした』
他人には見えていないが、ベルは私の右上辺りをフワフワと付いてきている。
いやベルさん、お上手もなにも今の私は人間なのですよ。
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