第3話 やらかし
春から入学した高校には、八神という絵に描いたような文武両道な性格も良い超イケメンなモテモテ男子がいた。
たまたま同じ高校に入学して、たまたまクラスメートになった。
穏やかで性格が良い上に頭も良く中々の進学校な我が高校にて新入生代表として入学式で挨拶を任されていた。
もちろん運動もできる為、一年生にして何かのレギュラーになったとかならなかったとか…
お家もお金持ちで高校入学を期に学校に近いタワマンで一人暮らしを始めたとか始めてないとか…
噂話を聞いていると本当にそこまで備えた人が実在するのか不安になる程にハイスペックなパーフェクトヒューマンだ。
正に恋愛漫画に出て来そうな女子達理想の正統派スパダリヒーロー系の男の子だ。
もちろん、そんな女子達の理想を詰め込んだような彼は高校にてモテにモテている。
しかし当然かもしれないが、そんなモテにモテる彼の周りは常にハイレベルな女の子達が固めている。
幼馴染から始まり、クラスの学級委員長やら、図書委員長やら、従姉妹やら…。
その他にも学年や教室が違う生徒会の先輩と陸上のエースとやらも今年になって追加されたようだ。
清純派、眼鏡っ娘、ロリッ娘、僕っ娘、セクシー系、ツンデレ…等なんと、彼は現在この学校の各種美人をまるっと独占中なのだ。
こうなると、もはや少女漫画系ではなく少年漫画系かもしれない。
おまけに、彼には幼なじみの少し地味(でもよく見るとそれなりにイケメン)な男の子の親友もいる。
幼馴染な彼は八神にコンプレックスを抱いてるようだが、そんな葛藤を抱えた彼も陰で人気がある。
八神も良いが正直その親友君もなかなか良い味を出していて、側から見ているととても楽しい。
そして、一部女子は陰ながら八神と彼がくっつく事を応援している。
正直、初めて彼らを見た時はあまりにも定番の主人公要素満載で大分興奮した。
彼らならどんな物語の主人公でもヒーローでもいけるだろう。
過去の記憶を持つ私は、この世界に生まれる前に別の世界軸に居た。
よく描かれているファンタジーの世界だが、実際にそっくりな世界が別の次元に存在している。
そして、別の世界軸からこちらに私が渡って来たように、彼らがあちらへ行く事もあると思う。
それが中身だけなのか、肉体ごとかは別れるだろうが、世界を渡る事が出来るという事は知っている。(*厨二病ではありません)
そして、なんといっても私は物語のジャンルではファンタジーが1番好きだ。
…きっと、現実でも召喚的なファンタジー系はワンチャンありだと思う。
いや、ワンチャンどころか八神くんは本当に召喚とかされると思う。
だって、私の勘がそう言っている。
そんな予感に浸りながら始まった高校生活はとても楽しくて少し浮かれていた。
…その事は認めよう。
そして、この平和な生活に馴じみ、少し気を抜いていた部分もある。
だからこそ…うっかりやらかしてしまった。
…少し前…私はついうっかりと予想もしてないやらかしをしてしまったのだ。
入学当初から彼はとても人気があり、クラス中の女の子が彼に興味を持っていた。
最初はみんな、彼と話をしようとなんやかんや頑張っていた。
…が、彼の取り巻きのガードはなかなか素晴らしい上に、何故か取り巻きが更に増え(生徒会長と陸上部エースの先輩)彼に近づくのは困難であった。
そのため、当初の興奮状態は徐々に落ち着き、皆は理性を取り戻した。
…かのようにみえた。
実際にはみんな頭が良い学校だけあり、程々に現実的で通常以上の関係は早い段階で諦めたようだ。
そのかわり、写真や情報があっという間に出回っていった。
しかし、この写真と情報だが、勝手に自分で写真を撮ったり調べる事は難しい。
この情報化社会なら簡単な事だと思うだろう。
しかし、鉄壁のガードによる警備は厳しく、彼の近くでは携帯禁止、個人情報を迂闊に上げれば本気の犯人特定の捜査が始まる。
優秀な頭と財力を取り揃えたガードに穴は徹底的に潰されていった。
それではどうやって写真や情報を手に入れるのか。
そう、それはとても難しそうで簡単な事だったのだ。
彼女達の気にいる情報と写真を撮って提供すれば良いのだ。
一部の者が素敵な写真を撮った所、消させる事もできず、困った彼女達は『たまたま撮れた写真は仕方ない』枠を作ったのだ。
そして、ここでカメラマン達の腕が鳴った。
素晴らしい写真の数々にいつの間にか、一部のカメラマンだけ、暗黙の許可が降りたのだ。
と、まぁ長くなったが、つまり写真や許された情報は陰で取り引きされているのだ。
そんな時に私はやらかしたのだ。
妹は反抗期で昔ほど『お姉ちゃんお姉ちゃん』と、言わなくなってしまった。
そんな妹との交流のひとつとして、八神の話を教えてあげたのだ。
可愛い可愛い妹もそれはそれは喜んで楽しんでくれた。
思った以上に妹は彼が気に入ったようで、彼の写真を欲しがった。
隠し撮りは出来ないが、その頃には人気者の彼の写真は出回っており、手に入れるのは然程難しい事ではなくなっていた。
可愛い妹のために気軽に彼の写真の入手を試みた。
写真はすんなりと手に入れる事が出来、妹も喜んでいた。
妹は調子に乗って更に欲しがったのだ。
これを了承したのが間違いだった。
追加での写真受け取りの時、夕方の教室で提供者の子に聞かれた。
「八神君かっこいいよね。…今井さんも好きなの?」
人気のない夕方の教室。既に他の生徒達の姿はない。
私も早く用事を済ませて帰りたかったで妹の話はしなかった。
適当な相槌で流してしまったのだ。
「そうだね。…かっこいいよね」
と、適当に返事をした気がする。
とりあえず、相手の子も私も芸能人に対してよくある会話的な感じの軽い気持ちで話していたのだ。
これが多分、一番のやらかしだった。
他人に対してはちゃんと誠実に向き合うべきだったのだと反省している。
妹が彼を好きだと言えば良かった。
まぁ、よくある(?)話で、偶然にも彼がこの話を聞いてしまったのだ。
しかし、まだこの時も私は軽く考えていた。
女の子にモテモテの彼からしたらこんな事、よくありそうなモノだし、告白だって飽きる程されている。
こんな微妙な会話は多少は気不味いが、すぐに忘れるだろうと思っていた。
むしろ、写真が出回ってる事を怒られる不安のほうが大きかった。
……それなのに、彼はこの日から、なぜか妙に私を気にかけるようになったのだ。
名前も覚えて、声も掛けてくれる。
普通のクラスメートなら当たり前だが、彼の場合は鉄壁のガードの存在故に普通ではないのだ。
そして会話の際、距離感がおかしい。(気がする)
好きだったならば思わず勘違いしそうな状況。
しかし、私は彼自身には全く興味がないのだ。
…だから勘違いはしない。
そして、そんな彼のささいな行動によって鉄壁のガードによる軽い嫌味やプチ嫌がらせがあったりなかったりするようになったのだ。
と、いう事で最近の私は彼の意識から再びフェードアウトできるようにそっと頑張っている。
…早く勇者召喚とかされたら良いのに。
そして、私のその願いは割とすぐに叶う事となった。
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