第6話 騎士たちの反乱
俺の国には一般兵のほかに、騎士という戦闘集団がいる。おもに貴族の子弟とか平民でも武術に優れたものが選ばれる、いわばエリート集団だ。
それが最近、不穏な動きをしているという。だいたい貴族の子弟なんてろくなやつはいない。そんなクソみたいなやつらを集めれば、そりゃもうクソどころかゴミになる。そのゴミどもが、なんと反乱を起こそうと画策しているというから笑っちゃう。
「で、反乱を起こそうってやつらの首謀者は誰だ?」
「ハンスというガルフォード騎士爵の三男ですが、騎士団の副団長をしています。剣の腕はそうとうの男です」
俺に報告に来た家臣のフレデリックがそう言った。
「騎士団って王の直属の近衛だろ?なんでそんなやつが?」
「それは…」
騎士団、といっても現王の時代になってからは戦争もなく、まさに平和ボケを謳歌していたわけで、つまり戦いでの功労は望むべくもなく、毎日ダラダラ過ごしていた。あげく、日中から酒浸り女浸り、ギャンブルはおろか悪事に手を染める者まで出る始末。父王は性格は温和だが優柔不断で、そんなやつらを処分できず、いいようにされていた。まあ俺もほっといたんだけどね。そういう悪目立ちするやつらがいてくれないと、俺の悪事がバレちゃうからね。
「しかたないな。責任取らせるって意味で騎士団長を死刑にしろ」
「そ、それは…」
「どうした?何か問題でも?」
「騎士団長のオニールは真面目で優秀なやつです。死刑とはあまりにも…」
「部下の統制も取れないやつは団長失格だ。死刑でも充分すぎると思うけど」
「そうおっしゃられると思いました。じつはすでにもう、王宮は騎士団の有志の手で封鎖されております。まもなく副団長のハンスがやって来るでしょう」
そうだね。そしてきみがその手はずを整えた。フレデリックもその反乱分子の片割れだってことは先刻承知なのだよ。俺の秘密組織をなめるなよ。
「反乱分子を有志っていうかね。まあいい、で、要求は何だ?」
「察しが早いですね。さすが国民に名君たる次期国王と呼ばれるだけはありますな」
俺のこと国民はそう思ってるのか?国民バカなのか?
「世事はいい」
「もうすぐハンスがやってきます。もちろん団長のオニールの代理としてですが」
「やはり首謀者はオニールなんだな?でもおかしいな…オニールは平民出だ。後ろ盾もないようなやつに反乱など起こせるのか?よっぽどの貴族の後ろ盾でもなきゃあ、こういう計画は成功しないよ」
「後ろ盾はありますよ、殿下」
やっぱりな。黒幕がいるっていうのね。ああきっとそいつは侯爵のレヴェンストだろう。この国の癌にして巧妙な策士。こいつがいなかったら俺はもっと早く逃げだせたんだ。なにしろこいつの利権が絡んだところに手を出すと、陰湿な手でさまざまな嫌がらせや妨害をしてきやがるんだから。
「そうか、それは会うのが楽しみだ」
「そろそろ来たようですよ、ハンスが」
ドタドタと数人の足音が聞こえた。そいつらがドアの前で止まり、静かにドアを開けた。思ったより乱暴に入ってこないのはどういうわけだろう?
「殿下!ハンスでございます」
「ああ、なんか俺に用だって?」
「はい!折り入ってお話が」
「どう言ったこと?それ長くなるの?もうじきお茶の時間なんだけど」
「お茶など、いまそれどころではありません」
「それはそっちの都合でしょ?まあしかたない。話を聞こうじゃないか。あ、ミカちゃんも同席するけど、いい?」
長椅子に寝そべっていたミカが、え?っという顔をして起き上がり、俺のとなりの椅子にちょこんと腰かけた。ハンスはすっごいいやな顔をしたが、しかたないと言ったふうで頭を少し下げた。
「話というのはじつはそのご令嬢のことであります」
「ミカちゃんがどうしたの?」
「じつは、騎士団をたぶらかし、いろいろと悪さをしておるのです」
まあそのくらいするよねー。なんせ地下アイドルだもん。本人は半地下だって言ってたけど、どうだかねー。貢がせた男に刺されちゃうくらいなんだから、そうとうブラックなんだとは思ってたけどね。まさか騎士団を篭絡したなんてね。
「悪さ?」
「ちがうよー。あたしはみんなを誘ってライブやってただけだよ。みんなノリノリでさ、毎回盛り上がってたよ。やっぱアイドルは最高ねっ」
こいつ…異世界来てまだそんな夢見てんのかよ。
「その饗宴のあとは、みな町に繰り出し、狼藉三昧…王都の市民は迷惑しております」
「そうなの、ミカちゃん?」
「あたしライブのあとは知らないよー。みんなおかしな薬、回し飲みしてたのは知ってたけど」
ヤバいやつじゃん、それって。いくら異世界でも違法じゃないの?人間やめてますよ。
「その薬のおおもとを、殿下は御存じですか?」
声の方を見ると、そこにはレヴェンスト侯爵じゃなく、ファートフォード子爵が立っていた。いったいいつのまに?ってか、なんで?
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